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17.スキャンダー氏

 ドリューに紹介された依頼人はすらりと背の高い細身の男性だった。


 ダークブラウンの髪に、人の良さそうな垂れ目、上品な鷲鼻。アメリカの大学生が卒業式にかぶるような四角帽をかぶっている。

 よく見なくてもイケメンである。ケッ。


「スキャンダー・ブロディと言います。今日はよろしくお願いします」


 黒のガウンを抑えながら、スキャンダー氏が頭を下げた。

 イケメンだが感じの良さそうな人だ。

 俺はドリューに確認を取る。


「ええと、ドリューさん。タペンス川での採取ということでしたけど、あの辺りに出るモンスターというと、ピッピやインプ、夜になればブラッドバットと言ったところですかね?」


「おう、よく勉強してるじゃねぇか。さすが、そいつを手懐けただけはある。〈魔獣使い〉としてやっていくには魔物の情報は基本だからな」


 まぁ、製作者だから、知っていて当然なんだが。


「分かっているとは思うが、ブラッドバットだけは群れる習性があるから、暗くなる前に帰って来いよ?」


「はい。それはもちろん」


 まぁ、仮に襲われても、いざとなれば〈中級炎熱魔法(メギラム)〉もある。

 ジェラルミンアーマーと竹の楯で防御力は万全だ。

 不安なのは魔法防御だけだが、魔法が怖いモンスターはこのあたりにはいない。


「よし。じゃ、行ってきます」


 いよいよ初仕事か。

 なんだかわくわくしてきた。

 はやる気持ちを抑えながら、俺は酒場を出た。



   *   *   *   *   *



「はは。それは若い娘さんからしたら、プロポーズされたも同然のように感じたんじゃないですかねぇ」


「ぷ、プロポーズぅ?!」


 それとなく世間話で、さっき俺がエマにステータスを見せようとしたところ、エマの様子が妙だったことをスキャンダーさんに話したのだが……

 思ってもみない答えが返ってきて、すっとんきょうな声を出してしまった。


「年頃の娘さんは恋愛ものの講談なんか、お好きでしょうからね。講談じゃ、よく騎士がひざまずいて、貴婦人の手の甲に額を当てる儀礼が出てきますでしょう?」


「あ、もしかして、あれってステータスを見せてるんですか?!」


 元の世界には、騎士が貴人の手の甲にキスをするという儀礼がある。

 思い返してみれば、エタクリにもその儀礼を再現したシーンがあった。

 ただし、そのシーンはドット絵だったせいで、キスではなく額を当てていると解釈されて、アレンジされてこの世界の儀礼になったんだろう。


「男の子はあまりそういうの、気にしませんよね。あれは、自分の内側まであなたに晒しますという意志を表す儀礼なのだそうですよ。本来はプロポーズというか、貴人に忠誠を尽くすという表現なのですが、講談じゃ愛の告白同然に使われてますねぇ」


 うまいこと辻褄が合っている。

 女神の神解釈だ。

 ただちょっと、そういうことはもう少し早く言ってほしかった。


「おにぃちゃん……けっこんするの?」


「し、しないしない」


 なぜかついて来ているタビーが俺の服のすそを引っ張った。

 今回の任務は危険はないだろうけれど、あんまり俺にべったりなようだと今後は困るかもしれないなぁ……。

 スキャンダーさんは快く同行を了承してくれたけど。


 しかし、せっかくフラグを折ったつもりだったのにまずいぞ。


 もちろん、エマは俺のリビドーを全て注ぎ込んだ理想の女の子である。

 スレンダーな体に控えめな胸。

 意志の強そうな目と美しく通った鼻。

 リチャードが生きていれば、最近俺の中で流行っていた『おじさんと小娘』という微妙な距離感のバディ(恋というには色々足りないけれど同じぐらい尊いナニか)になる予定だったのだが、そのリチャードももういないわけで。

 正直、多少なりとも気になってくれているのだとしたら悪い気はしない。


 けどなぁ……違うんだよ。

 あの子はそういうんじゃないんだよな。

 俺なんかを気にしてちゃダメなの。

 俺なんか路傍の石でいいの。

 なので機会があったらフラグは折っておきたい。


 ってか、気にしすぎかもしれないけどな!

 俺の自意識過剰かも知れないけど!

 ってかきっとそう。俺の自意識過剰だ。この話は終わり終わり!(俺の中で)


「あの、どうされました? 採取ポイントはもう少し下流の流れが穏やかな辺り。もうすぐですよ」


 スキャンダーさんに心配されてしまった。

 すみません。


 先程、エマからステータスの開示方法について話を聞けたおかげで、一つのアイテムの構想がまとまっていた。

〈覗き見の手持ち眼鏡〉

 ざっくり言うと他人のステータスを勝手に覗き見れるアイテムだ。

 つか、それ以上でもそれ以下でもない。

 最初から作っておけば良かったじゃんと思わなくもないが、どういう時にステータスが確認できて、どういう時に確認できないか、それが分かってないとおかしな言動をしてしまいかねないからね。

 アイテムなしでも簡単に見れる可能性もあったし、その場合、せっかくアイテムを作っても無駄になる恐れもあったからね。仕方ないね。

 その辺チキンなんで。



【名前:スキャンダー・ブロディ】

【種族:人族】

【性別:男性】

【年齢:27歳】

【レベル:6】

【クラス:学者】

【能力値】

 HP:32/32

 MP:21/21

 攻撃力:13

 防御力:24

 筋力:13 強靭:17

 敏捷:31 器用:58

 知性:76 精神:54

 魅力:36 集中:61

【装備スキル】

[スロット:2/4 総コスト:8/12]

◎〈霊素回路掘削3〉

◎〈霊素注入2〉

【習熟度】〈剣術1〉〈霊素回路図作成2〉

【称号】〈魔道具工〉

【加護】〈旅神ラミアン:D〉



 よしよし、ばっちり見えるぞ。

 さすがにチート性能だったのか、50ポイントを持っていかれたがな。

 見た目重視、雰囲気重視で、観劇の際などに使う手持ち式の取っ手付き眼鏡型にしたが、実用性を考えたら指輪などの装飾品にすべきだったかも。


 でも俺、剣を火口に投入すると噴火してマグマで道が出来るとか、不思議な石を海に投げると潮が引いて浅瀬になるとか、恋人との思い出がつまったペンダントで海上の交通を妨げていた霊を昇天させるとか、ワンダーのつまったアイテムが好きなんだよな。


 結局のところRPGなんて、『課題を解決→それまで行けなかったところに行けるようになる』の繰り返しでしかないわけで。

 究極的には、そこにはボスモンスターを倒すか、会話フラグを立てるか、アイテムを使うか程度の違いしかない。

 それをいかに起伏に富んだ物語にするかは、作り手の創意次第なのだ。

 実用アイテム一つとっても、やっぱり雰囲気は重視したい。


「っていうか、俺より強くね? この人」


 先を行くスキャンダー氏にバレないように気をつけながら、まじまじとステータスをチェックするが、明らかに透明さんより強い。

 それどころか、そこらの一般人でも敵う人はいないんじゃないだろうか。

 この世界の一般人の強さの基準が分からないけど。


 ただし、完全なる後衛タイプだ。

 戦闘の心得もなさそうだし、荒事には向いていないかも。

 せめて魔術スキルでも持っていれば、この辺りなら充分戦えるだろうけど。


「やっぱり、スキャンダーさんの主神は〈ラミアン〉様ですか?」


「ええ。獣が属〈旅神ラミアン〉様に仕えております。〈ラミアン〉様は道の神様ですから、我々のように、一つの道を究めようという学究の徒には特に人気の神様ですね」


 と、スキャンダーさんの話を話半分に聞きながらステータスを見ていたら、驚愕の事実が発覚した。


「えっ」


「どうされました?」


 スキャンダーさんが怪訝そうに振り返る。

 慌てて〈覗き見の手持ち眼鏡〉を隠した。

 前言撤回。

 やっぱりこういうアイテムは実用性重視で作るべき。


「いえっ、なんでもないです!」


「そうですか? あ、あの辺りが先客もおらず良さそうですね」


 いい場所を見つけたらしいスキャンダーさんの後について歩きながら再度確認してみたが、やっぱり間違いない。

 この人、〈畢生の支配者1〉を持ってる!

 しかも、魔法系最高位である〈支配者〉系のスキルが[コスト:1]だって!?

 これ、普通にとったらコスト10くらいしたはずだけど?


 それに、〈追加下級雷霆魔法3〉もある。

 レベル3なら、物理攻撃時にほぼ確実に追加で魔法が発動するじゃん。

 しかも、こっちも[コスト:3]だ。これも通常の半分以下になってる……?


 何かのバグじゃないのか。

 もしくは俺の設定ミスか?

 確かめるべく、スキャンダーさんにおずおずと声をかけた。


「あ、あの……。スキャンダーさん。つかぬことをお伺いしますが、なぜ学者の道に進まれたんですか? 戦いとなっても相当お強いのでは?」


 だって、かなりのレアスキル持ちだもん。

 しかし、スキャンダーさんは目を伏せて自嘲するように笑った。


「はて。なぜ、そうお感じになったのかは分かりませんが……。私なんて、戦いにはまるで向いていませんよ。私のスキルが使えないばっかりに、父は死んだようなものですから」

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