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16.他人のスキルを確認する

「まだ何も分からない素人なものでして、色々聞きたいことがあったんです。それを確認してからでいいですか?」


「あぁ。雇い主が来るのはもう少し先だからな。それまでに答えられることなら」


 ケダルの酒場で、いきなり願ってもない好条件の依頼を受けることが出来た。

 だが、昨日はリチャードの死などもあって動転していたが、ドリューには先に聞いておきたいことがある。


 何よりも聞いておきたいのは【スキル】の変更の仕方だ。

 だけど、この世界の人がスキルというものをどこまで認識しているのかが分からないんだよな。

 俺が何をやっても変更できないということは、ゲームのシステム的に見えているのは女神にチートをもらった俺だけで、この世界の人たちはあくまで身につけた技術として捉えている可能性もある。

 おかしなことを聞いて、変なやつだと思われるのは避けたい。


 ただ、エマは昨日、「〈魔獣使い〉の称号を持って生まれてくる赤ちゃんがいる」と言っていた。

 それが分かるということは、ステータスは全員確認できると考えていいのだろうか?

 オフィーリアのステータスは見ることが出来たわけだし。


「え、ええと、エマ。じ、自分のステータスって、は、把握してる? 俺に見せてもらうことってできるのかな?」


 話の通じる確率が高そうな話題に賭けた。

 頼む、通じてくれ!

 天に祈る気持ちでエマの目を見る。


 コミュ障にとって、「何こいつわけの分からないこと言ってるの?」という空気になるのは死にも等しい恐怖なのだ!


 ――すると、エマは何だか微妙な表情になった。


「それは……、私とパーティーを組みたいということですか? 大変嬉しいお誘いなんですけど、私には警備隊長としての任務が……」


「え、ぱ、パーティー?」


「そういう意味じゃないんですか?」


「えっ、ということはもしかして、他人のステータスって、同じパーティーに入らないと見られないの?」


 じゃあ、オフィーリアのステータスを見れたのは?

 テイムした時点で、パーティーになっていたということなのか。


「……お前さん、知らないでそんなこと聞いたのか? 自分のステータスなんて、信頼出来る相手にしか見せられねぇ秘密だろ。神殿で誓願を立てた仲間同士にしか、ステータスなんて見せられねぇぞ」


「神殿か。そうか、神殿にはそういう役割があるのか」


 エタクリの世界には神がたくさんいるので神殿もたくさんある。

 人口およそ3万人程度の〈パンクラツの町〉で、十柱以上の神の神殿がある……という設定だ。さすがにゲームでは3万人ものモブを作れないから、作ったのは数十人程度だったけれども。


「じゃ、俺から見せることは出来ないの? ……んんっ/// い、今ここに、ステータス出てるんだけど」


 本来なら不用意に見せるものではないのかも知れないが、俺はなんとなく、アクターたちのことは全面的に信頼していた。

 乳首クリックでステータスを表示する。


 すると、エマが当惑した表情になった。

 あ、やめて。

 その表情やめて。


 ドリューが呆れたように口を開く。


「まずどこから突っ込めばいいのか分からねぇが……。とりあえず、おめぇさん、ステータスを出したまま目をつぶってみな? 目を閉じていても見えるだろ。それは、実際に表示されているわけじゃねぇんだよ」


「え? ……あ、ほんとだ!」


 昨日、真っ暗な自宅の中でもステータスやデータベースが操作できたことを思い出す。

 エマが恐る恐るといった感じで口を開いた。


「あの……ニュクス? なんでステータスを出すのに、その、ち、乳首をいじっているの? 変な声まで出して。そ、そういう趣味の人なの?」


「え!? ステータスって乳首を押したら見れるんじゃないの!?」


 がつんと後ろからぶっ叩かれたような衝撃だった。

 身体が錆びついたようにぎしぎしと動かない。


「胸に手を当てる祈りのポーズをとれば、誰だってステータスは見れるわよ。慣れれば、頭の中で祈りを捧げるだけでも見れるようになるけど」


「そ、そんな……!」


 それでは俺は、女の子の前でいきなり乳首をいじりだす変態ではないか!

 あんな変態じみた行為を、俺は女の子の前で恥ずかしげもなく……。


「ま、まぁ、勘違いは誰にでもあることだし……。小さいころに誰かがステータスを見ている様子を見て、勘違いして覚えてたのかな? あはは……」


 引かれた。

 確実に引かれた。

 現にさっきまで親し気にしてくれていたエマの腰が若干引けている。

 身体は正直ってやつ?

 ってやかましいわ!


「ま、同じパーティーに入る以外にも、ステータスを見せ合う方法はあるけどな」


 おかしな空気を察知したのか、ドリューが話をそらしてくれる。

 俺にはもはやそれに乗るしか道はない。


「うぅ……。じゃ、それだけでも試させてもらえませんか。他の人の前で同じミスしたくないですし、やり方だけでも。ステータスは人には見せない情報だそうなので、俺のを見せますから」


「だってよ、エマ」


「えっ。そんな……私はっ、その」


 途端に、エマの顔が真っ赤になった。

 あれ?

 さっきとはまた違うけど、雰囲気がおかしいぞ?

 どうしてだろう? ――と考えている間に、エマが何かを決意したかのように拳をぎゅっと握りしめた。


「じゃ、じゃあ、私のステータスを先に見せますね。ニュクスのだけ見せてもらうなんて公平じゃないですし」


 すると、エマはちょっと顔を赤らめ、俺に近づいてきた。

 俺の視界の中でエマのどんどん顔が大きくなる。

 薄い桜色の唇が熱を持ったみたいにほんのり赤く色づいている。

 藍色の大きな瞳が、心なしか、少しうるんでいるようにも見える。


「あ……」


 エマのおでこが、こつんと俺に当たった。

 瞬間、俺の目の前に、ステータス画面が現れた。



【名前:エマ・ナイトレイ】

【種族:人族】

【性別:女性】

【年齢:14】

【レベル:5】

【クラス:剣士】

【装備スキル】

[スロット3/4 総コスト8/12]

◎〈剣術の基礎〉[コスト:4]

◎〈下級回復魔法(シャイナ)〉[コスト:2]

◎〈下級級解毒魔法アンティド〉[コスト:2]

【称号】なし

【加護】〈涙神ロザシア:B〉



「どう? 見え……ますか?」


「あ、み、見えます。見えてます」


「こうしておでこを当てれば、同じパーティーじゃなくても任意でステータスを見せることが出来ます」


「その、俺がいつも見てるステータスと少し違うように見えるんですけど」


「好きな項目だけ選んで見せることが出来るんですよ。今は能力値は隠してます。名前や種族のほかに、レベルとクラス、スキル、称号と加護……全部見えてますか?」


 その言葉で、俺は一つ懸念事項が減ったことを確信した。

 やはり、この世界の人も【スキル】を認識しているらしい。あとで、スキルの変更方法についても聞いておかなければ。


「じゃ、じゃあ、今度はニュクスのも見せてください」


「一部を見せたり見せなかったりっていうのは、どうするの?」


「まず、胸に手を当ててステータスを脳裏に浮かべて……見せたくないところに意識を集中すれば、ふっと暗くなるような感じがしませんか? その状態で【開示】と念じれば、その部分は隠したまま見せられます」


 なお、ここまでの会話はおでこ同士をくっつけたままで行っていた。

 さっきから、ドキドキが半端ない。


「じゃ、じゃあ、見せるよ」


 あの低ステや、クラスを見せるのはちょっと恥ずかしい。

 隠したいと念じたら、ステータスの一部がグレーアウトした。

 これでおそらく、エマには見えなくなったのだろう。


 ステータスとクラスを隠せた俺はすっかり油断していた。


「え、うそ!? ニュクス、レベル1なの? それなのに、ハム魔導士をテイムしたなんて……待って。何この称号。それに、この加護……ランクSSの加護なんて見たことも聞いたこともない……!」


 エマが興奮して声を荒げた、その時――、〈天駆ける駿馬亭〉のスイングドアがギィィッと音を立てて開き「おや、お取込み中でしたか?」と軽やかな男性の声がした。


「きゃっ! 私ったら、こんな人前で、何を……」


 赤面したエマが慌てて離れる。

 どうやら、酒場には他にも客がいることを思い出したらしい。


「おう、来たな、スキャンダーさん。こいつが今日あなたの護衛を務めるニュクス・トライアングリックスだ」


 ドリューが俺を紹介する。


「あ、あのっ、じゃあ私は、これで……」


「あっ……」


 エマがそそくさと酒場を後にする。

 大変名残惜しかったが、今までも警備隊員にひっそり警護させていたと言っていたから、今回の依頼人の警護に警備隊が関わっていることは知られてはまずいのだろう。

 入り口を見ると、すらりと背の高い細身の男性が立っている。


「紹介しよう。こちらがスキャンダー・ブロディ氏。今回の依頼人だ」

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