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またね

「メサが…魔族…?」


 リンクは信じられないといった表情を浮かべていた。


「ファモ!メサは…メサは魔族なんかじゃないよな!」


 リンクは、育ての女性、ファモの服を握りながら必死で訴えかける。ファモは口を手で押さえ必死で驚きを隠そうとしていた。その目は少し涙ぐんでいた。


「ファモ…リンク…なんでそんなにショックを受けてるの?」


 メサはいつも通りの口調でそう言う。


「人間だろうと、魔族だろうと、関係ない。人間も魔族も、同じ」


 俺にはメサのその言葉が引っかかった。この時代、人間と魔族の関係はどうなっているのかを知りたかった。しかしその為には、俺が転生した事実を打ち明けることになる。


 俺は覚悟を決めた。


「みんな、俺の話を聞いてくれ」


 俺の一言で三人が一斉に俺を見た。


「俺は…数百年後の未来からこの時代に転生してきた、元勇者軍の一人だ」


 俺のカミングアウトに納得のいった表情を浮かべる者は勿論いない。俺は続けた。


「今から数百年後…いや、数千年後になるかもしれない。…人間と魔族は戦争を始める。そうして、人間側の勇者と、魔族側の魔王の両者が消滅するという結末を迎えることになる」


 未だに誰も理解には及んでいない様子だった。無理もない。


「そしてメサ。お前は、その時の魔王の幹部の一人だ」

「幹部…?」

「ああ。お前は魔王の幹部として、勇者軍と戦うことになる」

 

 メサの表情は変わらない。


「メサ…お前がファモに拾われた時、自分の名前を知っていたか?」

「…知ってた。今も知ってる」

「お前の名前はメサ・アイドガーネ。そうだろ?」


 メサの表情が少し変わった。驚きの表情か、少しだけ瞳孔が開いた。


「うん」

「…俺は知りたいんだ。人間と魔族がどうして争うことになったのか。だから過去に来た」


 メサ、リンク、ファモの順に目を合わせ、最後にメサに視線を戻した。


「今、この世界で人間と魔族はどんな関係にあるのか、簡単で良いから教えてくれ」

「人間と魔族は仲が良い…中には小競り合いもあるらしい。…でも、王様と魔王は仲が良いって聞く…」


 かなり良好だ。国王と魔王の仲が良いなどと、俺の時代ではあり得ない話だ。常に相手をどのようにして陥れるか、それだけが要となっていた時代だった。

 

 やはり、人間と魔族が手を取り合っている時代は存在していたのだ。そして俺は、そういう時代に転生してくることができた。


「メサ…お前はこのままここで生きていけば、やがて魔王の幹部となり、俺たち勇者軍と戦うことになる」

「……」

「だから、俺と一緒にこの村を出てくれ」


 この提案に、声を荒げたのはリンクだった。


「何言ってんだよ!ノイル!なんでメサが…」

「…俺がメサと戦ったとき、ここらの森は既に聖域と呼ばれていて、村など一つも存在していなかった」

「だ、だからなんだよ!」

「人間と魔族の寿命差は大きい。人間の寿命は所詮百年程度だが、魔族は千年は平気で生きる」


 俺はメサの頭に手を置いた。


「お前は数千年先の未来の鍵を握ってるんだ」

「どうしてそんなことが言えるんだよ!魔王の幹部だってくらいで…!」

「こいつはただの幹部じゃない。…敢えて言うなら、わけあり幹部ってところだ」


 リンクはきょとんとしてしまう。この年では俺の言っていることが理解できない、あるいは察しが付かないのだろう。無理もない。


「人間と魔族が争い始めるのを、未然に防ぎたい。その為にメサは必要なんだ」

「じゃあ俺も連れて行ってくれ!俺があんたに力を教えて貰いながら、メサを守る!それでいいだろ!」

「ダメだ。お前じゃ力不足だ」


 俺ははっきりと言った。リンクは少し怯んだが、退かなかった。


「お、俺がメサを守りたい!」

「…リンク。お前は俺に頼ろうとしている…その時転でお前はもう弱い」

「…っ!」

「気持ちは分かる…リンク」


 メサが口を開いた。


「でもあなたは弱い、私よりも」

「ふ、ふざけんな!」

「あなたと私の戦績覚えてない?」

「…四十二勝……零敗」


 聞くまでも無く、メサの方が四十二勝だろう。


「最初にノイルをオズと間違えたのもあなた。オズに殺されそうになって私に助けられたのもあなた」

「……」


 リンクは項垂れた。メサは小さく息を吐いた。


「でも、あなたは優しい」


 メサは続けた。


「私を守ろうとしてくれる。ファモを守ろうとしてくれる。…この村を守ろうとしてくれる」

「……」

「でも私は大丈夫。だから、あなたはここに残って、ファモとこの村を守って」


 メサはそう言った後、俺の方を見上げた。


「この村は…数年後にはなくなってるんでしょ?」

「…ああ」

「…じゃあ、リンクが守ればなくならない」


 リンクはまだ顔を上げなかった。俺はそんなリンクに近づき、目線に合わせてしゃがみ込んだ。


「ごめんなリンク。俺の勝手な都合なんだよな、これって。でも分かってくれ」

「……あんたに…メサが守れるのかよ…」

「…勇者軍だったときの俺は、メサを守れなかった」


 メサを死なせてしまった。


「だから守りたい。その為にこの村を出るんだ」

「…強くなったら……」


 リンクは涙を浮かべた顔を上げ、歯を食いしばり、必死に何かを堪えながら俺の目を見た。何度も嗚咽しながら、言い放つ。


「強くなったら…今度はノイルもメサも守りに行く…!!」


 リンクは覚悟を決めた。



「あとは…あなただけです」


 ファモを見る。しかし、ファモは微笑んでいた。


「メサが魔族ねぇ…信じられないけど、分かっていた気はしたの。メサはいつも冷静で、負けたところを見たことがなかった。怪我なんてしたことないし…泣いている姿も見たことがないわ…」


 ファモは続ける。


「…こんな村の女の子が魔王様の幹部になる………そんな未来、普通は信じられない…。けど、メサならって思うと、それも可能な気がしてきちゃうの」


 ファモは俺の手を握った。


「メサをよろしくお願いします。貴方に任せます、どうかメサを救ってあげてください」


 俺は何も言わずに頷いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日、村の馬車を手配することが出来た。馬も馬車も高価なものではないが、十分移動は出来る。

 こんな時、アイヴィがいてくれたら…有能な魔物を召喚してくれるんだろうけどなぁ。まあ、嘆いても仕方ない。


 オズだった男にも挨拶をされた。挨拶と言っても、同じような感謝の意を述べられただけだ。そこまで感謝しなくてもいいだろ…とは少し思うが、誠意として受け取っておこう。


 俺はメサを馬車に乗せ、馬に跨がった。


「…よろしくお願いします」


 ファモが俺に頭を下げた。


「こちらこそ、飯美味かったっす」

「また食べに来てください」


 すぐにでも。

 すると、リンクがそっと近寄ってきた。最初は俺と目を合わせようとしなかったが、上目遣い気味に俺を見た。


「メサを…任せた」

「おう」

「…そのうち俺も……合流することになるから……その時は…」

「待ってるよ」


 リンクは少し微笑んだ。そして今度は馬車に近づき、メサを見た。


「……」

「リンク、村は任せる」

「……うん」

「…リンク、ブサイク」

「………うるせぇ、なぁ…」


 リンクの顔は涙と鼻水でくしゃくしゃだった。八年共に生きてきたメサとの別れに、堪えきれないものが溢れてきたのだ。


「またね、リンク」

「…またな……っ…!」


 またね…か。


 俺は馬を走らせ、村を出た。


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