6 恋という感情
合流した俺達はさっそく街中を歩き出した。デートが人生初の俺は、街中を歩き回るくらいしか思い付かなかった。
「正樹さんは私のイメージ通りですね、すぐわかっちゃいました」
「俺は咲ちゃんのイメージ、全然違ったよ。声をかけるときすごい戸惑った」
最初は緊張したが、話してみるとメールと同じ調子なので、すぐに打ち解ける事が出来た。
咲が最初、どこか陰のある印象だった事を伝えると、彼女は少し心配そうに
「私、本当に暗い性格なんです、それにすごい人見知りで……
なのでメールと性格が違うかもしれません……」
「俺も暗い性格だから大丈夫、おあいこだよ」
そう言うと咲は安心した様にクスリと笑った。
それから俺たちは喫茶店に入り、いろんな事を話した。
途中、咲はチョコレートケーキを注文し、心底美味しそうに食べた。
「今日だけは記念に食べちゃおうかなって。私、意思弱いですね」
彼女は照れた様に笑った。
好きな音楽や映画、今の女子高生の流行りなど、そしてお互いの歌と本について。
咲は音楽の話になると、真剣に熱く語った。その熱意と情報量に、俺は圧倒された。
本当に音楽が好きなのだろう。
その姿はどこかストイックで格好良かった。
今日は新作を咲に直接読んで欲しくて、原稿を持ってきた。
その小説は新人賞に応募するつもりで、少年と異国の少女の恋愛を描いたものだ。
その事を彼女に伝えると目を輝かせながら
「ぜひ読みたいです!」
「ありがとう、読んだら感想お願いするよ」
そうして原稿を渡すと彼女は夢中で読み始めた。
しばらくして彼女は読み終わった。かなり読むスピードが早い。
彼女は話したくてしょうがないとい風に感想を話した。
「読んでるとピュアな二人の恋愛を応援したくなります!二人が言葉や文化の違いをどう乗り越えるか、とても続きが気になります。それに……」
咲は微笑み、
「正樹さんの小説は優しいですね、読んでいると
暖かい気持ちになります」
美少女にそんな風に言われると俺も照れてしまう
照れをごまかすように
「この話が書けたのも咲ちゃんのおかげなんだ、俺、あの時咲ちゃんの歌を聞いたから俺はまた書くようになったんだ、本当にありがとう」
そう言うと咲は少しだけ表情が曇り
「私なんか全然ですよ、きっと、私は優しくなんかないんです、自分の事で精一杯……」
そんな事ない、そう言おうとした所で
「私、そろそろ帰らなくちゃ」
高校生は門限があるから不自由ですねと彼女は笑った。
「じゃあ駅まで送るよ」
駅につくまで、咲はまた最初の明るい調子だ。
さっきの寂しそうな表情は気のせいだったのか?
そんな事を考えているとすぐに駅についてしまった
咲は電車に入り、俺達はドアの入り口越しに話ている
「正樹さん、今日は、楽しかったです!
小説、頑張ってください!また……会えますか?」
「もちろん! 俺も咲ちゃんに負けないよう頑張るよ」
そう言うと咲は微笑んだ。その後すぐに電車はドアを閉じ、発進する。
遠くなる電車の中で咲は胸元で小さく手を振っている。
手を振り返しながら俺は自分の気持ちに戸惑った。
まだ別れたくない。一度会っただけなのにーー
この気持ちは恋と呼べるのだろうか?
それは今の俺には分からない事だった……