5 広瀬咲との出会い
デート当日、待ち合わせ場所のCDショップに30分も早く来てしまった。
店内では今流行りのアイドルソングが流れている。確かグループ名はsweet rainだったような……
どうやらSAKIはまだ来ていないらしい。
彼女はメッセージで黒い服を着てくると書いてあった。黒い服の女性は見当たらない、彼女の歌、「君の言葉」のサムネイルも黒だった。
彼女は黒色が好きなのだろうか?
思えば俺は、今まで女性とほとんど関わってこなかった。
元々、内向的な性格だし、職場もほとんど女性がいない、そもそも同性の友人すらそう多くない。
――いや、そう言えば一人だけ友人と呼べる女性がいた。
彼女は中学の文芸部仲間だった。彼女も当時小説家を目指していた。
彼女も大人しい性格だったが、好きな本が一致したりして、お互い意気統合した。
高校は別々になり疎遠になってしまった。彼女は作家になっただろうか?
出来れば作家になっていて欲しい。又は今も作家を目指していて欲しい。
彼女の小説はとても面白くワクワクしたから。
そんな風に思い出にふけていると、一人の女性……いや、女の子が店内に入って来た。
まだ待ち合わせの10分前だ。
その女の子の顔を見た瞬間、俺は思わず見とれてしまった。
あまりにもその女の子が綺麗だったからだ。
モデルの様に整った顔をしているし、背も高い、その年に不釣り合いな憂いを帯びた表情をしている。
そのせいで、最初はもっと年上かと思った。
黒いワンピースにロングヘアー、前髪をヘアピンで止めている、漆黒のワンピースも相まって、CDショップ内での彼女は、とても非現実的に見えた。
どうかあの子がSakiでありませんように。
俺は心の中で祈った。
只でさえ、女性は苦手だというのに、あんな美少女と1日過ごすとなると、緊張でどうにかなりそうだ。
しかし確かめて見なくては。
俺は大きく深呼吸をし、平常心を装いCDのジャケットを見つめる彼女に話しかけた。
「あのー、もしかして……SAKIさんですか?」
すると女の子はホッとしたように表情を崩し、笑顔で
「はい!MASAKIさんですよね?改めまして、私はsaki、本名は広瀬咲です!
今日は来ていただいてありがとうございます!」
俺の祈りは叶わず彼女は嬉しそうに名乗った。
彼女の笑顔はとても眩しく、俺は直視出来なかった。