4 遠い約束
春も終わりに近づき、今年も蒸し暑い夏がやってきた。
あれからアートメイカーに書いた小説の評価は上々だった。
――続きが読みたい。
――いつも楽しみにしています!
そんなメッセージが沢山届いた。それはとてもありがたい事だ。現在はある新人賞に応募する為に本格的な長編を書いている所だ。
一旦、休憩しようと、インスタントコーヒーを淹れに行き、デスクに戻った時、一通のメールが届いていた。
「お、あの子かな?」
SAKIとはお互いに夢を追う者同士意気投合し、メールをする仲になった。
彼女についてわかった事は沢山ある。
東京に住んでいるという事。
音楽好きの父親の影響で、歌手を目指しているという事。
作曲については、7歳の頃からピアノを習っているからだそうだ。
大の甘党でチョコレートケーキが好物という事も書いてあった。
「ダイエット中なので、最近は我慢しています」
涙を流す顔文字と共にこんな事も書いてあって、とても女性らしく思えた。
そして先ほど届いたメールの内容を見たとき、
「え」
思わず声が出た。
「MASAKIさんこんにちは! お互い東京に住んでいるみたいですし今度、直接お話ししませんか? 私はMASAKIさんと会ってみたいです!」
まさか直接会う事になるとは…… 俺は戸惑った。
今まで遠い友人の様なイメージが、一気に異性として意識してしまう。
思えば最近異性とあまり関わってこなかったな……
しかしあの歌を歌う彼女の素顔はとても気になった。俺はなぜか緊張しながら返事を打ち込んだ。
「自分も是非行きたいです。」
その後何度かのやり取りで来週の日曜日、11時にCDショップ前で待ち合わせする事になった。
――来週の日曜日
その時の俺は、なぜかそれがとてつもなく遠い時間に感じられた。