2 失った夢
俺は小説家になりたかった。
きっかけは小学6年生の時、中学に上がる前になんとなく将来を決めなきゃなと思っていた頃、テレビでとある文学賞を取った作家のインタビュー特集を見た。
インタビュアーにどうして小説家になったのですかと聞かれた作家は昔の思い出を懐かしむ様に笑い、
「昔、いろんな不幸が重なって、もう僕の人生終わったなって思う時期があったんです。 もう死んでしまおうか、みたいな。 そんなある日、一冊の本を書店で見つけ、気まぐれで買いました」
インタビュアーはどんどん話を聞くのに夢中になる。
最初は何となくテレビを眺めていた俺も、目が離せなくなっていた。
「その本を読んだ時、僕は生きていてもいいんだと言われたような、とても救われた気持ちになったんです。 そして僕もこんな風に、誰かを救う小説を書きたいと強く思う様になりました。 そしてがむしゃらに書き続けていたら、素晴らしい賞をいただく事が出来ました。」
作家はインタビュアーが驚くほど強い信念を持った瞳で言い放った。
「小説には、誰かを救う力があるんです」
この言葉に、俺は全身が震えるほど感動した。
これだ! と思った。
だれかを救えるような人間。その言葉に強く魅入られた。
それから俺は東京の大学に進学し、自作の小説を何度も新人賞に出した。
自分には才能がある。 なんの根拠もなくそう信じ込んでいた。
だけど現実は、俺が思っていたよりずっとずっと、厳しかった。
あれだけ送った小説は、新人賞にはかすりもしなかった。まるで俺の全てが否定されたような気分だ。
時間がどんどん過ぎていき、焦りだけが募っていった。
そして大学4年の時のある雨の降った朝。自分より年下の作家が大きな賞を受賞したニュースをテレビで見た時、俺は分かってしまった。
俺には誰かを救う小説は書けなくて、テレビに映っているそいつが書けるという事を。
それから俺は新人賞に応募をするのをやめた。やめたというよりは出来なかった。
そして俺は大学を卒業後、都内の会社に入社。 以来、何かを失った様な感覚を引きずったまま、今日まで生きてきた。
そう、彼女の歌を聴くまでは。