12 Twinkilng Star
ストロボの光が私を包む。
私はその光の中で作くられた笑顔を振り撒く。
昔は笑顔を作るの苦手でしょうがなかったのに、今ではすっかり慣れてしまった。
私も、大人になったんだなと心の中でふと思う。
大人になる事はこんなに寂しい事だなんて、あの頃は思いもしなかった。
「はい、オッケーでーす。お疲れ様でしたー!」
カメラマンが笑顔でOKサインを出す。
これで今日の撮影は終わり。
今日の仕事は女性向けのファッション雑誌の撮影
だ。
あの日から三年、あんなに嫌だったアイドル活動も、慣れてしまえば楽しいし、やりがいもある。応援してくれるファンも沢山出来た。アイドルソングも良い曲が一杯あることも知った。アーティストの夢、武道館も行くことが出来た。これって、とてもすごい事だよね。あの時、あのまま自分を貫いていたら出来なかったかも知れない。
でも、もしも……
売れなくても、あのまま自分の歌をうたい続けていたら……。
あの時正樹さんに相談したら……。
正樹さんと一緒に笑い合う事が出来たのかもしれない。
時々そんなもしもの事を考えてしまう。まるで17才の私をどこかに置き忘れた様だった。
撮影が無事終わり、楽屋で休んでいると、マネージャーから、一冊の本を渡された。最近書店に並んでいる。人気の小説だった。
「咲ちゃん、新月社の黒江乙子さんって人が咲ちゃんに是非読んで貰いたいんだって。知り合い?」
「新月社? いえ、知らないです。」
「じゃあその人ファンかもしれないね。良かったじゃん、近々咲ちゃんの本が出るかもよ?」
マネージャーはおどけた様に話す。
「あはは、でもプレゼントは素直に嬉しいです」
久しぶりに本を読みたいな。そんな軽い気持ちで本を受け取った。
その後、自宅のマンションに帰り、シャワーを浴び、パジャマに着替えると、ベッドに倒れ込んだ。今日も疲れた……。このままこうしていると確実に眠り込んでしまう。だけど本の事を思い出し、手に取り、ページをめくってみると、
「!? これって……」
驚いた。本の内容は以前読んだあの少年と外国の少女の恋の話だ。名前が違っていたので気付かなかったが、作者は正樹さんだった。
「そっか……正樹さんは夢を叶えられたんだ。良かった……」
自分の事じゃないのに、私は夢を諦めたのに、それでも大切な人が夢を叶えた事は、本当に嬉しかった。
おめでとう、正樹さん。そう心の中で呟くと、一筋の涙がこぼれ落ちた。
その後は正樹さんの本を夢中で読んだ。
相変わらず正樹さんの小説は暖かくて優しい、
読んだいた私は優しい気持ちになる。
正樹さんはきっと変わってないんだ。すごいなぁ。
ものすごいスピードで変わり続ける世界で変わらないという事は、簡単には出来ない。
本を読み終わった時は、深夜になっていた。
幸せなラストシーンで 読み終わった後、私は自分が微笑んでいる事に気が付いた。
自然に笑った事なんて、本当に久し振りだった。
あとがきに入ると、最後にこんな事が書いてあった。それを見たとき、私は言葉を失った。
「この場をお借りして個人的な事を書かせてもらいます。
誠に勝手ながら、この本はある一人の女性に向けて書いたものです。
彼女と出会わなければ私は、作家という夢を諦めていたでしょう。私は彼女に救われました。だから、今度は私の番だと思い、この本を書きました。この本を今、どこかで困っているかもしれない彼女に贈ります」
「正樹さん……」
私は本を抱き締めた。涙溢れてが止まらなかった。
暖かくて、切ない。
そんな感情の波に飲まれて、私は朝が来るまで泣き続けた。
一週間後、今日はファンクラブ限定ライブだった。
すべての歌を歌いきり、静かになった会場で私はマイクを握りファンに語りかける。
「今日のライブに来てくれてありがとうございます! 突然ですが、この場をお借りしてファンのみんなに伝える事があります。」
――咲ちゃーん!
ファンの誰かが叫ぶ。
後ろを振り替えると、涙をこらえて見守っているメンバーの子もいる。
ありがとう。
アイドル活動は決して好きじゃなかったけどファンの人達にはいつも励まされたし、sweet rainの子達はみんないい子で優しかった。
この事を告げるのはどうしてもためらってしまう。
だけど、
それでも私はまた星を目指そうと思う。
「私、広瀬咲は今日、sweet rainを卒業します!」
――えー!
――嘘!?
会場は驚きと悲しみの声で溢れた。
もう一度静かになるになるには、時間がかかった。
「これからはソロで歌手としてやっていこうと思います。私の子供の頃からの夢だったんです!
もう一度、夢を追いたいんです! 今まで応援してくれたファンのみんな、sweet rainのみんな、今まで本当にありがとうございました!」
言い終わると、私はまた泣いていた。あはは……私、本当に泣いてばかりだ。
「頑張れー!」
「応援するよー!」
最初は驚いていたファンの人達は今は声を声援を送ってくれてた。
拍手に包まれた会場の中、私は大きく深呼吸をして前を向く。
どこかで見ているかもしれない、正樹さんに向けて心の中で呟く。
正樹さん、ありがとう。
見ていて、私はもう一度輝く星になる。
「最後に、私が作曲、作詞をした曲をsweet rainのみんなと歌いたいと思います。聞いてください!」
『Twinkilng Star!』
メロディが流れ出すその瞬間、私の目の前にはキラキラと、沢山の星が煌めいたんだ。