11 オレンジ色に染まる教室で(後編)
この作品で手応えを感じ、作家を本格的に目指した
「あの作品を読んでから、私は生まれ変わったの。小説家にはなれなかったけど、新しい自分を見つける事が出来た。だからね」
乙子は真っ直ぐに俺を見つめる。
「私は救われたんだよ。正樹君、本当にありがとう」
そう言って乙子は小さくお辞儀をした。
俺は胸が一杯になり、涙が込み上げてきた。その言葉を、ずっと誰かに言われたかった。
そうか……俺が今まで書いてきた小説はムダじゃなかったんだ。少し落ち着いてきた時、乙子は口を開いた。
「実は、近々正樹君に連絡しようと思ってたんだ。だから今日会えたのは本当に偶然」
奇跡ってあるんだねと乙子は笑い、名刺を渡した。貰った名刺を見ると、驚いた。
「申し遅れました。新月社の編集者を務めさせて貰ってます、黒江乙子と申します。」
「えぇ!? 新月社ってあの!?」
新月社は日本有数の大手出版社だ。数々の有名作家が新月社から傑作を出している。作家を目指す者にとって、新月社で本を出す事はあこがれだった。その編集者が、目の前にいる。
「これが今の私。作家の人を支える、私にはこっちの方が合っていたみたい。
とても楽しくて、やりがいのある仕事だよ」
乙子は作家としてでは無く、編集者として本を作る事を選んだ。それは夢が叶わなかった訳じゃ決してない。彼女は別の道で夢を叶えたのだ。そう思うと自分の事じゃないのに、嬉しくなった。
「これもまた偶然だけど、アートメイカーで貴方の小説を見たの。文ですぐ分かっちゃった。すごく面白かったし嬉しかった。正樹君はまだ書き続けているんだって、だからね」
乙子は手を差し出す。
「私と一緒に本を出しませんか? 正樹君ならきっと、誰かを救う小説を書けるよ」
誰かを救う、違う。一人の女の子を救いたい。
俺は真っ先に一人の咲の顔を思い出した。乙子の手を強くを握り、頭を下げた」
「よろしくお願いします! イツコ、俺書くよ。絶対に届けたい、救いたい人がいるんだ!」
乙子は嬉しそうに、だけど少しだけ寂しさが混ざった笑顔で、
「やっぱり正樹君は変わらないね。 そんな貴方が好きだったの」
その言葉を聞いた瞬間、俺と乙子はあのオレンジ色の教室の中にタイムスリップした様な気がした。




