プロローグ
今日は星が綺麗だ。
東京の星もなかなかだと思う。
電車の中じゃなきゃいい景色なのにな。
ぎゅうぎゅう詰めの満員電車の中、俺は外の夜景を眺めながら思った。
東京に来てからもう6年が経ち、上京した理由はもう忘れつつある。
本当はサラリーマンをやる為に東京に来た訳じゃない。
でも夢を追い続けるのにも疲れてしまったし、この同じ様な毎日にもなんだか慣れてしまって、こんなものかと現状を受け入れるようになっていた。
中学生の時、仕事帰りの父の疲れた背中を見て、絶対にサラリーマンにはなりたくないと思った。
地方に住み続け、毎日変わり映えのしない仕事をし、1日の終わりに酒を飲む事が唯一の楽しみ。
俺もいつかそうなるかも知れないと思うとゾッとした。
父の事は嫌いではなかったけれど、父の仕事は決して好きにはなれなかった。
だから地元の青森を飛び出し、東京の大学に進学した。
夢を追う為に。
何かを掴む為に。
だけど今の俺の姿は社会の波に揉まれて、いつのまにかかつての父と同じになった。
世の中は俺が考えていたよりも、ずっと厳しかった。
父の事は、もう悪くは言えない。
「結局、俺だけが出来る事なんて、無かったんだな……」
俺は電車の窓から見える、遠くに輝くスカイツリーを見つめながらそっと呟いた。