隣のレーンの男の子
今年から、中学生になり、陸上部に入った長男。
コロナの影響で、部活動の時間が短縮になったり、休止になったり、記録試合が中止になったり、色々ありました。
それが本日、ろくに練習もしていませんが、初めての記録試合(2日間)に出場することに!
記念すべき初出場1日目の今日、仕事から帰宅して、夕御飯のときに聞いてみました。
「で、どうやったん?」
「うん……なんか隣のレーンの奴が少し変やった」
え、そこ?
私が聞きたいのはそこじゃなくて。
タイムとか。緊張したとか、己の身の程を知ったとか、そういう感想じゃないの?
以下、息子との会話をもとに出来るだけ再現してみます……。
* * * *
100メートル走に出場、2回戦時。
レーンに並んでいる時に右隣の同学年の男の子に話しかけられたそうです。
「あの、俺、心と脚が繋がってるんで、脚と会話出来るんですよ。脚の気持ちが分かるっていうか」
はあ? いきなり何言ってんの、コイツ?
息子は他のレーンの男の子たちが自分たちをそういう視線で見ているのをありありと感じたそうです。
「あなたは、脚の調子どうですか」
「あ、ちょっと左の脚の付け根が痛いです」
「同じですね。俺も同じ部分が痛いと言っています。でもさっき、先輩にマッサージしてもらったんです! だから、頑張ります! チームの期待を受けてるんで!……がんばれ、頑張れ、俺の脚」
「へえ……腕とは話せるんですか?」
↑(そこでこの質問をした長男はなかなか面白いと思いました)
「あ、それは出来ません。どうしてかな」
ところでなんで関西弁じゃなくて、そして敬語なん?
と、中断して突っ込んだ私に息子は、分からん、と返事。
「俺、クラスのみんなに応援してもらって、期待を一心に背負ってるんですよ。だから、頑張りまっす!」(キラン、とポーズ)
「へえ」
「友達とも賭けをしたんですよ。俺の記録が上の方だったら、そいつが教室で土下座100回。下の方だったら、俺は素麺を鼻からすすらなきゃいけないんです!」
「へえ」
「でも、もう、2回戦なんで! 俺が勝ったのも同然なんで(←二回戦までいったから)やった、俺の勝ちです。だから、頑張りまっす!」(キラン、とポーズ)
「うん」
「俺、クラスのみんなからと、あと、家族の期待も背負ってるんですよ。昨日、家族みんなに応援してもらって。みんなの期待に応えるために、だからやらなきゃいけないんです。よし、うし! やるぞ! オレ!」(ポーズ)
「うん」
「お母さんと妹は今、ゲーセンに居るんですよ。……今頃、ゲームしてるのかなあ……(遠い目)」
え? 近くで応援してくれてるんじゃないの?
「はあ、誰も応援に来てくれないよ。家族も来てくれないし、部活の子オレのこと誰も見にこないし。みんなガチ勢(←同じ部のすごい先輩)ばっかり見に行ってるし。……くそう、そしてみんな速い……! トホホ、トホホ、トホホだよ。これじゃ、俺、フクロウになっちゃうよ」
「……」
「でも、みんなの期待応えるために、オレ!!! 頑張るっす!!! お互いに頑張ろう!!!」(ポーズ)
「うん」
* * *
「その子、緊張せえへんの?」
と、私が質問したら
「いや、めっちゃしてた。人、って手のひらに書いてのんでた。靴履くのも、めっちゃ時間かかって二倍以上みんなより遅れてたし」
うーん。緊張を紛らわすために話しまくってたんでしょうか。鬼滅の刃の炭治郎の『己を鼓舞しろ』みたいな感じでしょうか。
「でも、今、話したのはほんの一部分で、本当はもっと10倍くらい、そいつしゃべりまくってた。でも、何言ってるか聞き取れへんかった……あれ、独り言やったんかも」
そうやね。
「その子、本当に中1?」
「多分」
「おっさんちゃうん」
「そうかも」
「で、その子の学校と名前聞いたん?」
「ううん」
アホか!
そんなおもろい子の学校と名前、なんでチェックしとかへんねん!
「今度会ったら、その子の情報、調べときや。これからも、何回も大会で会うで、多分」
「えー、そいつと同じ組で走んの、もういらんわ。集中できへん」
「その子以外の子とは話したん?」
「うん、逆の隣のレーンの子に話しかけられた」
「なんて」
* * *
「なあ、お前、学校では早い方なん?」
面白い子に話しかけられる直前に、その男の子に息子は声をかけられたそうです。
「え、わからん」
「……」
息子の答えに、フ、と鼻で笑う少年。
* * *
「なんか、ムカついたわ」
と、息子。
スポーツ漫画の一場面みたいなこと、ホンマにあるんですね。
「その子は、あんたより早いん?」
「うん、少し」
「さっきの面白い子は?」
「オレより少し遅い」
これから、楽しみですね。
ちなみに、走り終わった後、面白い子と息子は握手を交わしたそうで。
「明日も出場するの?」
「うん」
「同じだ、俺も出るんです! お互いに頑張ろう!」(キラン)
握手。
「君と次に会う時までには、腕と話せるようにしておくよ!」
明日やん。
「……なんか、そいつと握手したせいで、今日の大会の思い出、そいつ中心で、他の記憶、薄いんやけど」
まあ、そうなるやろね。
とりあえず、お疲れ様。
明日は800mだそうで。
頑張れ。
こんな子が居るなら、日本の未来も捨てたものじゃないですね。




