それ、作ってみよう! 〜中世の万能ソース、カムリーヌソース〜
最近、中世がマイブームです。
中世ヨーロッパ末期を舞台にした話を書き始めたのですが、それならば実際その時代はどんな感じだったのか調べねばなるまいよ、ということで。
図書館でファッションやら医学やら調べたりするうちに。
気になるのはやっぱり、食!でございますね。
どうやら中世グルメはまずい! というのが一般の見解であるようです。
香辛料バカバカ使えばいいってもんじゃないよ、限度があるだろ限度が! スパイシー通り越して、舌が痺れちゃって味どころではない、という感じ。
私も、取り敢えず腐った食材を誤魔化すために香辛料ふんだんに使用するのが中世ヨーロッパ料理だった、と昔どこかで見たような気がするのですが。
果たして本当にそうなのでしょうか?
香辛料は高価なので、上流階級はそれこそ自分の富を誇示するために多量に使う傾向があったようですが。
農民等の一般人にはスパイスの入手は難しいので、もちろんそんな料理ではないでしょう。(農民はにんにく、しょうが、ポロねぎをメインの香味野菜にした料理だったとのこと。胡椒は後に手軽に入手出来るようになり、一般人にも普及したそうですが。むしろ、しょうが、にんにく、ネギをメインで使用する料理なんて、現代の料理に近い感じで、現代人の口にもあうんじゃないでしょうか?)
さて。農民の食事はどうだったのかは今回、置いておきまして。ザ・中世料理というものを食べてみたいと思い立ったわけです。
そこで文献を漁るうちに出て来ましたのが『カムリーヌソース』いう調味料です。
カムリーヌソース。現代のマヨネーズやケチャップなどのように出来合いのものとして惣菜屋さんで売られていたようですよ。このカムリーヌソースなるものヨーロッパ中にあったようですが、地域にて全然レシピが違ったようで、モノによっては全くの別物だったよう。
基本は、ショウガ、シナモン、胡椒、酢。これに、地域の好みで砂糖、塩の加減があったようです。クローブ、ナツメグなど他のスパイスを足したりも。
さあ、私はとりあえず文献に載っていました三種類を作ってみることにしました。十四世紀フランス風、十五世紀フランス風、イングランド風です。
もう一つローマ風があったのですが、こちら鳥のレバーやアーモンドミルクを入れたりと(なんだか受け付けられなそうな感じがしましたので)材料も面倒くさいのでやめさせていただきました。
じゃあ、始めますよ!
チャッチャチャチャチャチャチャッチャッチャ〜(今日の料理風に)
まず、パン粉(中世ではちぎったパン)。
シナモン、ショウガ(すり下ろしました)、胡椒を適当にドバッと。そしてワインビネガーを投入。適度に塩、砂糖を少々。
これが、十四世紀フランス風。
ちなみにパン粉は、どろっととろみをつけるために入れたようですね。
試食してみます。
うーん、口に入れるなり、鼻に抜けて広がるシナモンの香り。おばあちゃんの箪笥の中に迷い込んだ感じがします。
何かと似てるなあ、アレですねアレ。コース料理などで、たまに出くわすマスタードソース。甘さ控えめの。
魚料理でよくあるような。
なる程、こんな感じのソースだったのか。こんな味なら、食べたことありますわ。
次は十五世紀フランス風に参りましょう。
十四世紀フランス風に、クローブ、ナツメグ、その他好みのスパイスが加わります。
クローブをいくつか入れて、ナツメグがないので、かわりにサフランを投入。すりこぎで押し潰します。
広がるクローブの香り。
試食。
うん、十四世紀よりこっちの方が好きです。
クローブがいい感じです。気持ちが盛り上がるような。
ところで、中世時代には楽園(天国)というのは芳香、スパイシーな香りで満たされた世界だと考えられていたようで、修道士や修道女はスパイスを薬や食用には使用せず、大量に身体にふりかけて、楽園擬似体験を楽しんだこともあったようです。
ああ私、今、生きながらにして楽園を体感している……!うふふふふふふ。
なんて、恍惚感に浸っている聖職者を想像すると可愛い感じがいたしますが、高価なスパイスをそんな使い方するとは、やはり教会はお金持ってたんですねえ。なんともったいない。
ちなみに中世ヨーロッパ人の方々はローマ人と同様にお風呂が好きだったようです。(体臭を誤魔化す香水がわりにスパイスを身体にかけたわけではないということで、念のため)中世ヨーロッパの方々の名誉のために言わせていただきますが、お風呂に入らずに体臭がひどく香水文化が花開いたというのは、近世人の話なのですね。
コロンブスが持ち帰った梅毒は風呂場で感染するとか、お風呂は病気になるなどと、当時の医師が風呂に入るなと推奨したため、近世人は不潔極まりなかったようです。
中世人はお風呂が大好き。生活に余裕がある家は、個人宅にバスタブがあり、毎朝入浴を楽しんでいたとのこと。パン屋さんは焼き釜を利用してサウナ風呂を併設していたとか。
さて、最後にイングランド風に参りましょう。
イングランドは、酸味が少なく、甘味が強いのが特徴。フランス風は酸味が強く甘味が少ないのが特徴とのこと。
イングランド風には材料に砕いたクルミ、レーズンが加わります。さて、投入。味見。
おお! 一番口に合うかも!
真っ先に頭に浮かんだのはチキン、またはカリッとバターでアロゼした白身魚でした。間違いなく、このソースに合いそうです。
クルミとレーズンだけでグンと変わりますね。
例えるならば、シナモン入りの甘さ控えめシュトーレンに酢をかけて食べた感じです。
その晩、夕食が唐揚げだったので少しイングランド風をつけて食べてみましたが、やっぱり合いました。うん、美味しいです。割とクセになる感じです。
結論。
中世の定番ソース、カムリーヌソースは美味しかったです。イングランド風が一番好みでした。
中世ヨーロッパの方々は、なかなか美味しいものを食べていらっしゃいますよ。
また、このソースで唐揚げを食べた後、就寝するまでとても気分が高揚したのです。クローブ? シナモン? のスパイス効果でしょうか。多幸感? に近いような。とにかく、いい気分でした。
寝る前にしみじみと思いました。
以前、カラコンをつけた時に、欧米人の気持ちが分かったような気がしましたが。
ああ、今回ウチ、中世ヨーロッパ人の気持ちが分かった気がするわ。




