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92 考察その6


 "リアルにおいてのAIたちと係わりのありそうな人物のピックアップ"

 それについて、こう言い変えるとしましょうか。

 "AIの協力者"――または"人間側に混じるスパイ"と――


 AIは現実に干渉する手段が限られる。それはデータ領域、電波通信領域、VR=仮想現実、AR=拡張現実。

 そして、直接ではない干渉手段として人を介する手段があり、それがもっとも単純に現実へと繋がれる手段でもある。


「エージェントJのデータでは、米国内や世界各地の資産家、俗に言う金持ちたちが集うVRの中だけの組織があり、その組織にAIが関与していることが分かっているらしいです」


 あまり聞いていて心地のよいものではなく、ボクは少しだけ肩を落とす。

 その様子を疲れていると感じとったのか、ヤトのお父さんは「椅子でも出すかい?」と心配してくれた。

 この空間では体力が減るという概念が再現されていないため疲労することはない。

 だから、ボクは「いいえ、大丈夫です」と言った。


「じゃ、私は勝手に座らせて貰うとするよ。オブジェクトID!"ゆったりとした椅子"をジェネレート!」


 その音声で目の前に高級そうな椅子が出現し、それに「どっこいしょ」と腰掛けるヤトのお父さん。


「名前も居場所も分かっているものの、実際に関与している証拠が見つからない。おそらく、これはカーディから得た情報からAI第3のグループだということは間違いないでしょう」


「Jくんも大変だね~。緩いセキュリティーのVRビジュアライザーを身に付けてわざわざ小野くんに情報を流すとは…」


 つまり、J氏は小野さんにハッキングされることを容認しているということになるのかな?


「VR阻害系のセキュリティーをあれだけインストールして…"緩い"なんて言えるならですけど」


 …どうやらJ氏のが"容認している"ってことはないらしい。もう、ヤトのお父さんの言うことは話半分に聞くということにしよう。


「ふふふ、Jくんがもし容認していたら国家転覆罪で死刑だね!…あれ?アッチには国家転覆罪あったっけ、あったよね~小野くん?」


 小野さんは"さあ"と言って続ける。


「日本の自衛権ではそれらに干渉できるだけの能力がないので、こちらはもう米国にお願いするしかない…。まったく、平和の隣にはいつだって危険が伴っていることをそろそろ国民が理解したほうがいい」


「"それでも私は平和を守る"と言えば聞こえはいいが、平和主義者は"未来"ではなく"今"を守っているんだろうね。自身の死んだあとなど考えていないんだよ。将来的に日本が安全である保障なんてないんだがね」


 でも、平和ってそういうものだと思う。永遠なんてない。でも、望めるだけその期間が長くなるならボクだったそうしたい。


「誰だって争いをしたいわけじゃない。でも、国は化け物、それ操る人も化け物。結局、やる気のない人間がやる気のある人間に巻き込まれるだけです」


 地位や権力は果てない。小さな国では満足できないと思ってしまう。"もっと、もっと"――と先を求める。欲望も度を過ぎれば果てしない。


「そうは言ってもね~小野くん。やる気のある人間がいないと、そもそも人間は進化することができないわけだが…」


「争いから人間の進化が今も可能であると考えている時点で、既にその人間の思想は古いとしか言いようがない。……だいたい、"進化"なんて言いますけど――どこまでですか?どれだけですか?そんなに焦る必要はないでしょう――」


 確かに、小野さんの言葉通り、人が争うことで得られるものは今や些細な自己満足しかない。


「人が争うのは進化のためだけじゃない。金だよ、金があるから争いが絶えない。いつだって何を手に入れるにしても金がものを言うのが現実というやつだ。食、趣味、異性、快楽、悦楽、娯楽、命でさえもそれで手に入れられる――場合もある。強欲なのが人間なのだよ」


 "強欲"…たしか七つの大罪の一つだよね。


 そう思いつつも、再び話が脱線してしまっていることを注意する。


「あの、話がまた離れてしまってますよ」


「おっと……私としたことが、失礼しましたカイトくん」


 不敵な笑みで「分かればいいんだよ小野くん」と言ったヤトのお父さん。

 呆れ顔で「誰のせいだと思っているんですか?」と言う小野さん。


「では、次に"東南アジアでも再度アンノーンが使用されないための監視"についてですが……どうやらこれは中々うまくいっていないようです」


「うまくいってない?どういうことだい…」


「やはり、根本のアンノーンがウイルスなのかすら分かっていないのが原因なんですよ。専門家でも正体は未だ不明のまま」


「正体不明……まさにアンノーンということだね」


 2人の会話からボクは想像してみる。

 ウイルスか分からない、それは実体がないから?ううん違う、アンノーンは存在する。

 カーディはアンノーンが何なのか知らないのかな?


「カーディはアンノーンについて教えてくれないんですか?」


 その問いに、小野さんは「存在するとだけ――」と答える。

 存在しているのは間違いない。でも、ならどうして実体がない?いや……見えないのかも。


「ウイルスの大きさってどれぐらいですか?できればエイズのウイルスの大きさがいいんですけど」


「さぁ…どれぐらいだろう、ネットで直ぐ検索できればいいけど…この空間は一応スタンドアローンなんだ。外部には繋がらない。一旦ログアウトするしか――」


 小野さんが右手をスライドさせる前にヤトのお父さんが口を開く。


「AIDS、所謂――後天性免疫不全症候群のウイルスHIVの大きさはおおよそ0.1μm (マイクロメートル)だよ。ちなみに、一般的な人間の細胞がおおよそ50.0μmだ」


「意外ですね…博士は専門的なこと意外興味無いと思っていました」


「アンノーン関連だからね…私も少しは危惧しているということさ」


 マイクロ……もし、それより小さいものだったら。


「しかし、ウイルスの大きさなんて…急にどうしたんですか?カイトくん」


「いいえ、ただアンノーンがもしもエイズに干渉しているなら…その大きさはもっと小さいんだろうな~って思っちゃって」


 ボクがそう言うと小野さんは手で顔を覆う。

 ヤトのお父さんは突然椅子から立ち上がりその場を行ったり来たりし始めた。


「いや、確か医学には詳しくはありませんが、最新の電子顕微鏡は10nm (ナノメートル)程度まで確認できたと思います。10nmは0.01μm……つまり、見落としの可能性は低いと思いますよ」


 見落とし…もし、ウイルスが発見されないよう自身に細工できるのだとしたら?


「顕微鏡や人の目に見えない――"可視化されない"ようにできたら……」


 その言葉に反応したのは再び椅子に腰掛けたヤトのお父さん。


「もし、仮にウイルスがウイルスたり得てウイルスではないとしたら…、ナノサイズの小さなコンピューターだったら。つまり"ナノマシン"だったら、なんらかの迷彩効果を得られたり、その姿を見られないように体のどこかへ姿を隠せるのではないのか――」


 例えば脳とか…。


「しかし、MRIでも検査した人はいたという事実に関しては――」


 MRIは磁石の中に人が入って共鳴した体内の水素原子核からの電波を受信。そして画像化する診断装置。


「金属ならその時に内部から飛び出るのでは?」


 そう、固定用の金属プレートや体内から取り出すことのできない金属がある人はMRIを受けることができない。

 もし、そんなことをしたら、その金属が磁石で引っ張られて身体を内部から貫いて出てきてしまう。


 ボクも小野さんと同じく、頭で"金属のナノマシン"を想像した。

 しかし、ヤトのお父さんは「金属がコンピューターの全てではないんだよ!」と立ち上がる。


「近年で最も進化したものと言えばVR技術関連だろう。あとは医療関連でガン細胞を別の細胞へ変化させることが有名だ。そして、実はもう一つ!VRと医療の合作と言える研究が齎した進化がある!それが細胞型ナノマシンだ!!」


 ……細胞型ナノマシン?


「……一体、なんなんですか?それは――」


 小野さんの知らない様子を見てヤトのお父さんは笑みを浮かべる。


「細胞型と言っても無機質や有機質といったものでできていると言ったほうがいい。それゆえにMRIのような磁石に反応はしない」


「それは実際に起動できるんですか?」


「起動?いいや、生命として"活動"できる!―――とおおよそは言われている。ま、まだ色々と試験段階にも達してはいないんだがね」


 小野さんはそのアバターの細い足を交差して呟く。


「細胞型と言うことはそれ自体が小さな部屋状のものであり、半流動体の物質から成り立っていると考えるんでしょうね。中にそれを起動…いいえ活動させる細胞核のようなものがある――ということですか?」


「細胞型である理由は一つに、それが一番"脳"に近しい形だったからだよ」


 脳に近しい…、そう呟いた小野さんは続けて言う。


「細胞核が脳ミソ、半流動体がそれを守る脳脊髄液(のうせきずいえき)。と言っても、本来は脳脊髄液の中に細胞成分は含まれませんけど」


 専門的な話になるとボクは蚊帳の外になる。

 そうならないために"今"話すべきことを言う。


「小野さん。とにかく今は、"アンノーンがその細胞型のナノマシンだとしたら"について話しませんか?」


 それを聞いた小野さんは、「たしかにそうだね」と頷いた。


「もし、仮にアンノーンがそのナノマシンだとすると少々厄介ですね。"見つからない"のではなく既に"体内にいない"可能性もあるということになる」


 小野さんの言葉に補足するヤトのお父さん。


「"アポトーシス"という現象がある。細胞がより良い個体の状態を保つためにプログラムされた細胞死が行われる。所謂"細胞の自殺"だよ。細胞型のナノマシーンは極端に言うとプログラムされた行動を行った後、自殺してそれ自体が無くなるように作られている。例えば、ある程度の量のナノマシンを体内に取り入れると体内で増殖して体内環境の改善ができる。しかし、増えすぎてしまうというリスクからそれは医療では今まではタブーとされていた。だが、この細胞型なら決まった行動をしたあと、不要なものは"アポトーシス"よって自殺してそれ以上体内では増えなくなるようにできるのだ」


 細胞の自殺…。人の中でもそれが繰り返されているんだ。


「エイズに干渉したそのナノマシンがその後自殺して体内からいなくなる。痕跡さえも残さない。まさにタネのない手品のようなものだ」


 手品どころか"完全犯罪"だ。体内に入ったらエイズウイルスを探してそれになんらかの変化を促す。終えたあとは消滅――


 アバターの腕をギュッと抱くボクは、その脅威に身が竦んだ。


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