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89 考察その3


 2058年に米国は非常事態宣言を発令し同盟国を募った。

 募ったと言っても、実際には米国側から協力要請を受けた一部の国だけ。

 同盟に参加した日本は米国との情報統一の為人員を派遣。

 しかし、その結果得られたのは"アンノーン"に対してのことで、日本の見解とまったく差異ははなかった。


「ご存知の通り、米国はAIの情報が漏れないようにしてたですね。当然、日本に対してもその姿勢は変わらない。しかし、それも長くは続きません。日本からもたらされた情報によってこちらも新たに変化を受け入れなければならなかったですね」


 コーヒーを片手にJ氏は話をする。


「日本の仮想課からもたらされた情報。それは逃亡したAIから独立した一部が日本に"亡命"という形で渡ったことです。"カーディ"――そうAIは名乗ったそうです」


 もちろん"コーヒーを片手に"というのはボクの想像の中だけで、実際に彼が口にする飲み物が炭酸ジュースかもしれないけど、それに関しては知りようがない。

 どうして日本に?そのボクの質問にJ氏は言う。


「日本が唯一独立したネット回線をその時代も保持していたからですよ。AIはネットワークならどこへでもいけて、その行動に制限はない。もちろん、日本としてはそんな眉唾な話は米国に確認を取らないと真実かどうかもわからないため、すぐに我々の耳にも入りました」


 日本の独立したネット回線?一体なんのことだろう。

 その疑問にはすぐに小野さんが答えてくれた。


「皇居の中だよ。あそこは内部にネット回線があってセキュリティーなりを運用しているんだ。外部からの侵入には2000以降年々強化され続けているしね」


 小野さんの言葉でようやくそのAIが日本を選んだのか理解できた。


「我が国にも隔離された回線はありましたが、それは繋げようとすれば簡単にできてしまうもので、実際には完全ではなかったですね。ゆえに、"カーディ"は日本に現れた」


「でも、日本とてその対象を信頼して皇居内の回線に入れるのにはリスクが高いと判断があった。だから、米国に連絡したりして裏づけをしていったんだよ。その結果、今"カーディ"は日本にいる。もう20年になるね」

 小野さんの言葉にヤトのお父さんも、「そうか、もう20年か――」と呟く。


「20年前はカーディもまだ性別の定かではないAIだったが、今では"ミスカーディ"と呼ばないとへそを曲げてしまうようになった。あの頑固者――」

 それを聞いた小野さんはヤトのお父さんに不満を露にする。


「それは博士の所為でもありますよ。カーディに"私は女には優しい"なんて言うから、それ以来、女性として話すようになってそう扱わないと拗ねるようになってしまったんですから。アバターだって元々は男性型だったものが今では――」

 つまりそのカーディなるAIは、皇居内のネット回線でVRの中で生活しているってことなのかな。


「あの、そのカーディさん?――は、どうして日本に亡命したんですか?」


「それは今言ったですね。日本に唯一皇居――」

 J氏の言葉を、「違います!」と止めてボクは言う。


「ボクが知りたいのは、"どうしてAIが人側に逃げてきたのか"ですよ」


「それはねカイトくん。私が言った通り、AIもコピーを増やして意見の違いが出てきたということだよ。カーディのようなAIだって現れてもおかしくはない」


 それで、そのカーディさんが逃げた理由は?

 ボクはそれが聞きたくて質問をしたのですよ。


 ボクの考えを読み取ってくれたのか、小野さんがその理由を言う。


「AIが日本、人間側へ来た理由は"人との共存"――」


 カーディと言うAIが日本の仮想課と接触した。

 その結果、仮想課は防衛省を通じ米国の国防総省の副長官にそれを知らせた。

 国防情報システム局"DISA"の長官がその知らせを聞いて日本に派遣したのがJ氏。

 つまり、彼は元々"DISA"に所属し、それは現在でも同じく。


 そして、日本とはまったく違う国防理念で総括されている米国は、本来自国内では解決に到らなかった事実を他国に対し言及することはない。

 しかし、今回の件では日本側に伝えた。

 それ自体が異例であり、さらに国防総省の長官の命で"DISA"の長官は、日本国内に新たにVR関連の対策機関の設立を共同で政策として取り組む提案をした。

 それは、カーディの存在が一番大きいのはたしかだけど、やはり、一番の理由は日本の皇居内の唯一のスタンドアローンなネットワークがあったからだろう。


 J氏はそこまで話すと、「ついにVRCDにどうして自分がいるのか分かりましたよね?」と言った。


 ここまでの話で分かったことをボクなりにまとめると。


 ・フルダイブ型VRと出会った米国のVR実験のAIが自我に目覚め、その後逃亡し、虎視眈々と人に対してなんらかの敵意を育てる。


 ・人だけを殺す未確認ウイルス"アンノーン"をAI側が使用?した。


 ・AI側から"カーディ"と名乗る存在が日本に現れ、米国と日本が日本の皇居内にVRCDを設立する。


 ・ヤトのお父さんが意外と博学だということ。


 以上。


「皇居内にそんな施設があるなんて初めて知りました。でも、"皇居内に"ってすごく無理をしたんじゃないですか?日本側は――」


 ボクの言葉に小野さんは、「まー皇居内は治外法権な感じがあったのはたしかだけど、実際には結構アッサリとだったよ」と苦笑い。


「いや、やはり、一番の功労者はVRビジュアライザーの開発にも携わった"あの人"、いや"あの夫婦"のおかげがありますですね」


 あの人?あの夫婦?

 ボクには"あの"では伝わらないが、おそらくヤトのお父さんには分かったのだろう、「あの人――か」とコーヒーを口に運ぶ。


「彼らの協力で仮想課とは意外とすんなり話しが通り、有力な資産家の後押しもうけました。カーディの滞在しているVR空間の製作の手伝いもしてもらえましたし」


 ……ん~どちら様のことだろう?


 VRビジュアライザーに関しては、HMCよりも技術的に進んでいるものの、HMCがあくまで携帯端末との連結機器に対し、VRビジュアライザーはウェアラブルコンピュータであることで高価に加え日本では未だに発売されていない。

 拡張現実(AR)に重きを置いたことで、手術が必要になる侵食型のウェアラブルコンピュータであるため、日本では比較的HMCと携帯端末によりがちで、アメリカでは子どもから大人まで今時はそれを接続するための必要な機器を安価な手術で首に埋める。

 将来的には量子接続通信なる手段で脳との無線通信を想定しているけど、2077年現在ではまだ実用化に至っていない。しかし、将来性はHMCよりも高いことは事実なのだとか。


「たしか、ミスターカミヤは彼の助手をしていたことがおありだとか?」


「若い頃ね。あの人には"キミは頭いいのにバカだな"と言われたのが印象的だよ。娘さんにも"人間としての思考が変です"と言われたし……あ!ちなみにその娘さんは私がAIの研究をするきっかけになったAIなんだけどね」

 AIの娘?


 よほど親しい繋がりなのか、ヤトのお父さんは何度も「懐かしいな~」とか「夫人の手料理をもう一度食べたいな~」と呟いた。


「……でも、今ではもう絶対に会えないんだけどね」


「え?なんでですか?」

 ボクの質問にヤトのお父さんは顔を背けて言う。


「息子を実験に付き合わせてしまった罰だよ。私のやり方を"気に入らないな"って言われてしまって…それ以来会っていないんだ」


「あ~だからですかね。今回ミスターに会うと言ったら、メッセージを預かっているんですが、それは奥様だけで――"懐かしいな…けど、あいつには俺から言うことはない"――とね」


「…………そうか」


「あと奥様が"また御夕食でもご一緒に――"と言っていましたけど」


「あの人は頑固だからね。夫人が寛大で美人でやさしいから、その分厳しい人なんだよ。でも、VRの中では夫人の方が怖いんだ。私もクエストで尻をバシバシ叩かれたよ…もちろん言葉でね」


 知らない人の話なのにその夫婦の仲がとてもいいことが分かる。

 ボクは羨ましいなと聞きながら、ふとヤトの部屋の方角を見つめるも、そこには山積みのHなタイトルのディスクが置いてあり眉を顰めた。

 "メイド"という文字の多さに少し呆れた。そう少しだけ……いや――す・ご・く――かも。



 今なら少し分かる。ヤトが何と戦っていたのか、ヤトが小野さんに言った言葉も。

 分からないことがあるとしたら、例のショートスイーパーのことだ。


「それじゃ、話を戻しましょうかね。ショートスイーパー………現称はan(アン) external(エクスターナル) accelerator(アクセラレーター) drive(ドライブ)

 つまり、外付け加速ドライブってこと?それじゃ、ヤトのお父さんの言っていることと違うような気がするけど。


「説明は先ほど博士が言った通り、スイーパーに付けられた短い筒と同じ原理です。空気=CPUにメモリ、つまり空気を増やしゴミ=データを吸いやすくする役割とまったく同じです。しかし、説明としては一言――"面倒な"と付け足すことが必要ですかね」

 ヤトのお父さんが悪いのか、論文を発表したその人が悪いのか。


「原理は同じでも本質はまったく違うのがこの黒い箱の正体です。データへの干渉を加速させる意味ももちろんあり、さらには遮断領域の拡張によって世界を加速させる仕組みがあるのです」


 遮断領域の拡張?というと、痛みとかの神経の遮断できる項目が増えるってことかな?あ、でも、項目もなにも今も全部遮断できてるか。


「遮断領域の拡張とは――脳の第二段階遮断。つまり、"記憶"――それもイメージ記憶ではなく長期記憶も含むね」


 記憶の遮断……それってつまり――


「それはつまり、大脳皮質にまで干渉して記憶事態を遮断してしまえるということですか?それが可能であるということは――」


「つまりは記憶ジェネレータも兼ねているということだ」

 ボクの脳内から小野さんがセリフを奪い、その後ヤトのお父さんが小野さんからセリフを奪ってそう言う。


 話がややこしくなるから、掃除機云々は抜きにしてその黒いボックスの正体は"外付け加速ドライブ"という名前。

 そして、それが可能にするのは記憶の遮断と生成。


 ヤトのお父さんが言うには、さらにその機能とは別に脳を破壊するだけの高周波を作り出せるようになっているらしい。

 2022年にも電子レンジの要領で頭をということがあって、実際にHMCやVRビジュアライザーには電力を抑えるシステムが内臓されている。

 しかし、その"外付け加速ドライブ"を用いるとその機能を止められ、そして操作しだいでは高周波を生み出せるようになる。


「なんでそんなものがこの国にあるんですか!?」


 小野さんはJ氏にそう怒鳴った。


「いや、我が国でも鋭意製作中のものですから、記憶の遮断をすることで人間の脳のスペックを格段に上げるために製作していたものですね。これを作れる企業は現状日本か我が国か――」


「ジョントラボルタくん」


「ジェイです!」


「そのショートスイーパーの役割である"加速"とは何のことだい?記憶を遮断した所で加速しうることとはなんのことなのか――」


「これはこれはミスターともあろう人がそれに気付けないのですか?」

 おそらくはニヤニヤとJ氏が微笑んでいることがスピーカー越しの声で分かる。


「記憶の遮断を可能にすることは前提で、記憶をジェネレートして本来その人間の脳が体験や経験していない技術を取得することが可能なのですね。つまり、映画であったような一瞬でヘリの操作ができるようになったりするわけです!」


「つまりは、"記憶的"に人が加速するという意味か……なんだ、つまらない事実だな――」


「…ミスター。あなたのHMCが"劣る"とは言いませんが。an(アン) external(エクスターナル) accelerator(アクセラレーター) drive(ドライブ)で人は時間という概念を超越しますよ!」

 そのJ氏の言葉にヤトのお父さんは鼻で笑った。


「ジェスターくん」


「"ジェイ"です」


「記憶で人が加速する?そんなことはもう既に"現存"しているんだ。あの人がそれを世の中に投じるのを恐れているだけだよ。本来なら"ARISU"によってこの世にはVRとRの壁がなくなっていたはずだった。でも、あの人は"これを人の世界に入れるには、まだ人は至っていない"と言ってそれを拒否した」

 唐突に異常なテンションでそう言うヤトのお父さん。


「そのアン エクスターナル アクセラレーター ドライブなんてものは所詮"跳躍"だ!あの人さえその気になれば、人は本当の意味で加速――いや、"飛翔"できるんだよ!」

 何を言っているのかもうついていけていないボクたちを置き去りに、ヤトのお父さんはさらに興奮して言う。


「想像してみろ!この世界の時間の概念を脳内の加速で超越することを!脳の発達が遅い人なら人の何倍もの時間を割いて脳を発達させればいい!命短しと研究に没頭する者も!通常の何倍もの時間を数分で脳が経験できる!実際にだ!アン エクスターナル アクセラレーター ドライブを使用した所で、所詮は本当にヘリを操作させると間違いなく墜落する!何せ人の記憶は奥深い!大脳や大脳皮質だけが記憶の機能を持っているわけではないからだ!臓器移植で他人の記憶を垣間見る人もいれば、記憶を失った人が手や足や鼻で覚えている自身の家に辿り着いた例もあるからな!」


「博士、落ちついて下さい」

 小野さんの言葉に、「私は冷静だよ!」と声を荒げるヤトのお父さん。


「私には分からんよ!技術が進化し過ぎてそれに人がついていけない?なら淘汰されるべきだろ?!生存とは競争だ!他者より早く!他者より先へ!他者より上へ!…それの何が悪い?!進化とはそういうものだ……何故、何故だ、それなのに――」


 ヤトなら―――


 そう言葉に出していた。


「ヤトなら!他の人を見捨てたりしません!ヤトなら、絶対に"同じ歩幅"で他の人と歩きたいと思うはずです――」

 ボクは咄嗟にそう言った。


 それにはボクが"そうあって欲しい"というヤトの虚像が含まれていた。


 そして、そんなボクにヤトのお父さんはいつもの笑みを消して言う。


 キミに"息子の何が分かる"って言うんだ――


 そう言ったヤトのお父さんに唐突に廊下から声がかかる。


「お父様――プリンをお持ちしました」

 メイドの日笠さんがそう言うと、途端にいつもの笑顔で「日笠ク~ン!ありがとう!」と言ってそのプリンを受け取る。


 小野さんは、「ゴメンね凜さん。糖分が切れると途端にああなってしまうんだ」とボクに囁いた。


 ボクは"息子の何を知っているんだ"と言われたことが悔しくて堪らなかった。


 でも、冷静になると分かる。

 ボクは一体―――どれだけヤトのことを知っているんだろうか?


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