4 秩序(自由)のある世界
俺たちがBCOに来て3日が過ぎた。
その間、強制ログアウトしたのは100人未満。
現在も約9500人以上の人間がこの世界に取り残されていた。
1日過ぎた時点でKJは非テスターたちの賛同を得ることができ、そこで勝ち得た信頼を活かして集団を分けた。
テスターの拠点を第3の街ヘイビアにおいて、非テスターを子どもと大人に分けた。
テスターたちとは、話し合いと1867名による投票で一つのギルドを作る事が概ね決まり、自らギルドマスターを務めるとKJが立候補する。
そのギルドはこの世界の秩序になる予定だ。実際にそうなるのかは分からないが。
そして、非テスターたちには大人の中から、"子どもと接する仕事"をしている、もしくは"したい者"を選んで約300人の15歳未満の子どもの面倒を見る機関を作った。
R15のタイトルにそれ以下の人間がこれほどいるとは予想もしていなかったが、自業自得と投げ出すには、16の俺が言うのもなんだけど…まだ彼らは若い。
残されたその他の約7400人には、それぞれの考えで好きなようにすることを勧めた。
その中にも、一つだけKJは選択肢を差し出す。
「攻略組み?」
「そうだ。テスターを中心にこのゲームを攻略する組織を編成する。Lv上げのノルマや色々な決まりは追々考えるとして、まずはこのギルドをしっかりと作りこまなくてはならない」
過去の事件を多かれ少なかれ知っている者は、その"攻略組み"こそが当時ゲームをクリアした者たちのことだと分かる。
「…さて、始めようか――」
KJはそう言ってその場に集めた者に自己紹介を促す。
「俺はヘイザー。今小さいがギルドを作っているメンバーは35人集まった。メンバーには既に非テスターもいる」
短髪、頭で考えるより体を使うことを前提として動く、そんな印象の男。
「僕はクラウ。こう見えて大学院生だ。KJ君のサポートができればと考えているよ」
メガネ、インテリ…………メガネ、頭で考えている風に見える、そんな印象の男。
「レイネシア。……え、何、名前以外に何言えばいいか分からないわ」
学校の委員長風、だけど勉強はできない、そんな印象の女。
「ヤトだ。あまり協調性がない、だから複数での人付き合いには苦手意識がある、……以上――」
自分でも驚くほどの自己紹介に、まだ挨拶してない男が口を挟む。
「"それが自分だ"って訳だね少年!実に面白い!」
細め、他人を常に見下している、そんな印象の男。個人的に嫌いなタイプの人間だ。
「俺はラビットだ!楽しければ大体オッケー!この中でお友達になりたいのは~そちらのレイネシアちゃんとあちらのお姉さん、あとそこの美人ちゃんかな」
ラビットの言葉にレイネシアは"キモ"と言い。
お姉さんと指された女は苦笑い。
美人さんと指された女は無視をする。
「私は~マリシャです。え~とラビットさんみたいな方が苦手ですぅ~」
……………胸が大きい、頭が悪そう、話し方が耳障り、そんな印象の女。
「ナナよ。私も彼とは話したくないわ」
特にこれといって何もない、外見だけはいい方、そんな印象の女。
それぞれの自己紹介が終了して、最後にKJが口を開く。
「私のことはもう知っているだろうが、KJだ。今日キミたちに集まってもらったのは、キミたちに、私のギルドに参加してもらうためだ」
大体予想はついていた。今日この段階でKJが呼び出す理由にそれ以外思いつかない。
「何でこのメンバー?私に声がかかった理由を知りたいわ」
ナナの意見は正論だ。今ここに集まっている顔ぶれは規則性もなにもない。
KJはナナの疑問に対し解を述べ始める。
「ヘイザーはサブマスター、クラウは参謀、それ以外も私なりに考えがあって選んである。ナナに関してもそうだ」
「…なら答えて、どうして私に声をかけたの?」
ナナはどうしてもそれが知りたい口ぶりで、しつこくKJに尋ねた。
「キミは危うい。この世界に来てあのピエロの言葉を聞いた後で私は少し不安になった。他のプレイヤーもそれぞれ幅に違いはあれ、顔色を曇らせていた」
それが普通だ。そう言ってKJはナナを見る。
「だがキミは平然として、あの黒い空間から出てきた。出てすぐにステータス画面のログアウトボタンを確認せず、装備を付け始めた……。とてもじゃないが声をかけずにはいられなかった」
「……そう」
彼女はそれ以上何も聞かなかった。
「悪いがKJ、俺はすでにギルドマスターだ。だからあんたの下につく気はない」
「…そうか、ならしかたないな」
「レイネシア、行くぞ」
「私も彼のギルドの一員だから…」
そう言ってヘイザーとレイネシアは酒場の個室から出て行く。
その後、KJが他に出て行きたい者は?いう問いに手を上げたのは俺だけだった。
「別に今すぐ出て行こうって訳じゃない。話を最後まで聞いた上で判断したい」
俺の言葉にKJは肯く。
「"現状で判断しかねるから最後まで聞いて決める"……少年、"あざといな"キミは――」
抜け目がなく貪欲である。またはあくらつだという意味のそれを口にするラビット。
俺は視線をそいつに向けて言ってやる。
「性分なんだ」
「構わないさ、ヤトには聞く権利がある」
KJはそう言って語る。それはこの世界、いや、KJの理想とする世界を維持する根幹。
KJを筆頭にここにいるメンバーで他のギルドを管理する。
この三日でKJは各テスターたちを説得して掲示板を利用した投票を行っていた。
それで彼が1867名のギルドのマスターとなることが決まり、ばらつきがあるものの複数のギルドマスターが彼の掲示板に書き込みを残した。
それらをBCO内の筆記アイテムにコピーし集計した結果。1457名のギルド参加を確認し、67ギルドの加入を認証した。
残りの410名はソロだったり、参加意思がなかったり、ギルドの人数が定員に満たないために認証できなかったらしい。もちろんKJのギルドメンバーも拭くむ。
「このギルドが目指すのは秩序になる。ギルドの掲示板に書き込まれた問題を解決することもこのギルドの役割だ」
「そうなれば攻略どころじゃなくなる。そこで"攻略組み"ってことだね。先人の知恵に習えってやつだ」
「今はまだ"不安"がプレイヤーの心を不安定にしている。が、人は良くも悪くも慣れてしまえる」
慣れるんじゃない。
慣れるしかないんだ。
「すでに自由は与えてある。それでも反発する者とは戦うしかない」
人はそれぞれ違う。それなのに価値観を互いに押し付けあう。
相手に自身の価値観を理解して欲しいから。
でも、誰しもがそれを許容できるわけではない。
強要に妥協し自身を騙すか、妥協せず自身を貫き個になるか。
「悪いがKJ、俺は降りる」
「…………理由は?」
理由?
「………俺はゲーマーだ。あんたらだってゲーマーだ。この世界にいるほぼ100%のプレイヤーはゲーマーだ」
VRの世界は現実とは違う。
「ゲーマーである以上はステータスで優劣が決まるのには納得できる。けど、誰かの理想に乗っかるなんてのはごめんだ」
立ち上がった俺をKJは止めない。
「KJ、別にあんたを嫌って言っているわけじゃない」
「だろうね。キミの言いたいことは分かるよヤト」
部屋を立ち去ろうと立ち上がった俺。そしてそれに続くようにナナが立ち上がる。
「私も、このギルドには入らないわ」
そしてもう1人。
「私も~他のギルドから声がかかってるので~やっぱり止めます」
マリシャが立ち上がった瞬間にラビットは溜め息を付いた。
おそらく、先刻俺に対して言った言葉で、自身が"抜けたい"とは言えない状況を作ってしまった。そのことに対する溜め息だろう。
よほどマリシャとナナが席を立ったのが意外なのだろう。
むしろ彼女たちは始めから俺と同じ考えだったような気がする。
そうして俺と2人が部屋を出ようとするとKJは最後にこう言った。
フレンドには残しておく。だから気が変わったらいつでも連絡してくれ。
その言葉は何も変なことを言っていない。だが、その時の俺は他意があるように思えてならなかった。




