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83 美学


 クリフは足を組み直して溜め息を吐く。

 言い放つ言葉は彼の美学と受け取れるものだった。


「エリー・ラカ・G・ハモンズは既に第8真祖の半身だ。ボクたちがどうこう言って口を挟むのは無粋というものだよ」


「だけどな、第8真祖が抜け駆けした事実はどうなる?俺様は許す気はないぞ」

 ブラッドリーは不満げにそう言う。


「たしかに、彼の抜け駆けは度し難い所が"あった"。しかし、それは最早過去の話―――33年という時間は怒りを忘れさせるには一番効果があったね」


 クリフの言葉にエイデン・ローは、「第7真祖のことは既に興味が失せた…それよりも!俺の筋肉を見てくれ!!」と意味不明なことを言う。

 そして、第5真祖の言葉はクリフに同意するものだった。


「自分も第7真祖はもう興味がない……今はそっちの薬に興味がある――」


 第1真祖も"理解した"と呟いてつづける。


「なら、興味のない者は"省いて"……残った者たちで争うとしようか?」

 その言葉にクリフは目を見開く。


「私は参加しますよ」

 即座に第4真祖のジャックが言う。


「第7真祖の体には興味がありますし、第8真祖には"借り"もありますしね。その薬……便利ですし――ね」


「第4真祖!お前は――」

 クリフは立ち上がってジャックを睨み付けた。


「私は――第1真祖の意思に賛同しただけなのですが……ひょっとして、第1真祖に反感でも?」

 不敵な笑みのジャックの構想は、"第1真祖の側対第2真祖"というものだ。


 第2真祖側、仮に"反対派"とするとそれは現状クリフだけ。

 そして対する"賛成派"は現状、第1真祖ルーカスに第4真祖ジャック。

 それに第6真祖ブラッドリーは賛成の意思が窺え、第5真祖ビルは中立。


 エイデン・ローがどちらについても数で勝れば不死である真祖の戦いは勝利が見える。

 しかも、今回は真祖も不死ではいられない。

 特に第1真祖に敵対すると――


「………面白い。ボクはお前の考えが読めたよ第4真祖」


「私の考え?さて、なんのことやら――」

 ジャックの言葉にクリフは席を立つと扉へと足を運ぶ。


「今回…ボクの意見は"第7真祖と第8真祖には手を出すな"だ。別に、第8真祖に対して好意があるわけではないし、第7真祖に未練があるわけでもない…けど、例え人の恋とはいえど恋事を邪魔する者は好かない――それに、第4真祖は"生理的に嫌い"なんでね」

 クリフは、扉の前で立ち止まり振り返らずに言う。


「もしボクの意見に反対の者がテリトリーを越えたいなら…ボクを降すか――殺すことだね――」

 そう言ってその場を去るクリフ。


 彼が席を立ってから、ジャックは内心可笑しくて仕方がない様子だった。

 それは、まさか第2真祖が、自身が描いたシナリオよりも派手に第1真祖に敵対してくれるとは、思っていなかったからだ。

 中立の第5真祖ビルを除外したその他の真祖は、確実に第2真祖と戦うことがほぼ決まった。


 『意思表示のなかった第3真祖は戦闘狂…確実に戦いたがる。真祖が4人…もしかすると、薬の効果が見たいと言って第5真祖も参戦するかもしれませんし―――ね』

 頭でそう考えるジャックは、「それで、どうするんです」と他の真祖の意見を聞こうとする。

 第1真祖はソファーを指で叩く。


「……ここは第4真祖、汝に第2真祖と戦ってもらうのが妥当だと思うんだが」

 第1真祖の言葉にジャックは眉を顰める。


「私が?…全員で戦えばよいのでは――と私は思うのですが――ね」


「それでは興に乗らん、折角コレほどに第2真祖が前座を引き受けてくれたのだ……我も彼の(ごう)に一つ尽力しようと思う」

 第1真祖はジャックのことを威圧的に見る。

 さも、"我に反対する気でもあるのか――"と。


「…気が進まないなら――」

 第1真祖がその先を言おうとすると、第6真祖が口を出す。


「いいや、一番は俺様がいただく。俺様は"前を歩かれるのが嫌い"なんだ」

 その言葉にジャックは内心ホッとした。


 真祖に"格"があるのなら、第1真祖がダントツ、第2真祖がそれに次いで。

 その他は第7真祖を含めてほぼ同じ。

 唯一第8真祖だけは、記憶上他の真祖とは戦闘の経験がないため、第7真祖を降した時点でその他以上ということにはなる。


 『危うく一番槍なんてバカげた役回りを興じる所でした――ね』


「私は全然構いませんよ!第6真祖に一番を―――お譲りいたしましょう!」

 そうして、話が纏まろうとしていた。

 しかし、ある男の言葉が自体を急変させる。


「俺はこの件にて第2真祖に手を貸す!」


「…は?」

 ジャックはそれを聞いて肩をガクッと下げた。


 第2真祖に手を貸すと言い出したのは勿論エイデン・ロー。

 二の腕の筋肉をピクピクとさせて見せ付ける姿は間抜けにしか見えないが、真祖は真祖――本人のその言動は至って真面目である。


「どういう意味だ――第3真祖」

 ブラッドリーの言葉にエイデン・ローは背を向けて言う。


「第1真祖に付けば相手は第2真祖だけだが……第2真祖に付けば相手は第1-第4-第5-第6……とにかく多く戦える」

 中立の第5真祖すら相手にする気でいるエイデン・ローの言葉にジャックは呆れ顔。


「仕方ない…第3真祖の言葉に異論はない――」

 第1真祖の言葉にエイデン・ローは左手を振り部屋を出る。

 "ぐははははは!滾るわ!!"そう響く声は本当に楽しそうだった。


「ふ、興に乗るようなことをしてくれる……第4真祖、汝も第6真祖とともに向うといい」


 頭でぐるぐると考えが迷宮へと誘われた第4真祖のジャックは渋々肯く。


「………分かりました…私も真祖。第2真祖とは再び対する気がしてましたし――ね」


 ジャックは溜め息交じりに席を立つ。

 そんな彼にブラッドリーは席を立ちながら声をかける。


「別に俺様1人でも構わないぞ…第4――」


「…それはこちらのセリフです――ね」


 2人は視線、殺気をぶつけながら部屋を出る。


 残された第1真祖と第5真祖は薬の話をするのだが、第1真祖の言葉をジッと聞き入るように第5真祖ビルは微動だにしない。


「つまり、解凍した先のものと血を混ぜる、そしてできたものと新たに分解するための薬を混ぜた物を合わせると――」


「大体分かった…その薬はもう自分でも作れそうだ……だが、それを簡単に教えたのは……間違いだ…」

 そう言って第5真祖は席を立ち廊下へと向う。


 その背を見ている第1真祖は独り言を言う。


「合わせると、できるものは――"失敗作"。その薬は真祖の体を腐敗させることができる薬…再生と腐敗を繰り返す苦しみに真祖がどんな反応をするか気になるが、我が同胞にそのような薬を使うなどできない――」

 口の端に小さな笑みを刻んだ第1真祖は、「誰が最初の犠牲になるか…」と呟いた。


 ヤトの知らない所で、真祖同士の戦いの火蓋が切られようとしていた。


 第2真祖クリフ・ヒース・L・マルガスがヤトとエリーのために戦うことを決意したことなどは知らず。



 クリフは自身のテリトリーに帰るとすぐに眷属を集めた。

 集められたのは20数名の女の眷属。

 彼は男を襲ったりしない。

 それは、彼曰く「男の首に牙を刺すのはホモっぽくてやだろ」という自論からだ。


「皆、聞いてくれ」


 眷属たちはソワソワとして落ち着かない様子。

 それは"不安"からくるもので、眷属全員が呼ばれるなど彼女たちにとって初めてだったからだ。


「"最後に"皆に言っておきたいことがある」

 緊迫感を漂わせて第2真祖は話す。


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