82 争いの火種
真祖が4人。
第3真祖のエイデン・ローがブラッドリーに腕相撲を挑んだ。
それは面白そうだ、とクリフが室内の机を喜んで運んでくる。
真祖が腕相撲などおそらく初めての出来事。
互いに肩を回し腕を台に載せると手をガッシリと組んだ。
ブラッドリーは、「本来なら男と手を繋ぐのはなしだが――」と言って右手に力を入れる。
そして、エイデンは「挨拶と思えば平気だ!」と言って右手に力を入れる。
クリフは両手を触って確認し、「互いに力を抜いて――」と開始の合図の準備をした。
「GO!!」
しかし、2人は微動だにしない。
それは2人が開始と同時に拮抗した力で引き合ったからだ。
笑みを浮かべるエイデン。
ブラッドリーは笑みを作るほど油断はしない。
勝負となると常に全力、手抜きなど一切ない。
「どうしたおっさん――顔が引きつってるぞ…」
「そっちこそ!」
目に見えない机の耐久値がみるみると減少していく。
その数値が赤くなるとミシミシと音が鳴り、ついには破裂するように壊れてしまう。
破片が飛び散る中2人は――微動だにしない。
机を失っても尚2人の前には透明な机があるようだった。
それから数十分後クリフが、「ストップ!ストップ!」と言ってようやくそれに終止符がうたれた。
クリフが止めに入った理由は時間が――というよりも、これ以上続けると2人の左手が互いに殴り合いになり"アームレスリングボクシング"になりそうだったからだ。
それに――
「ブラッドもローも遊びはそこまでだよ。最後の1人のご到着のようだ」
エレベーターのクラシック音が鳴らない。
それだけでも異常なのに、さらにエレベーターが半分ほど開いた所で停止した。
搭乗している者がその半分開いたドアから普通に出てくると時間差で歪なクラシック音が鳴る。
「このエレベーター……整備が行き届いてない…」
その姿は金髪隻眼に全身白い騎士服の子ども。
金髪は異様に長く、その口元にはマスクが付けられている。
「第5真祖……ビル・エディル・U・クライブ――」
ブラッドリーはその子どもの真祖を一度として"同種"であると認識をしたことはない。
それは他の真祖たちも同様で、クリフはその子どもに挨拶すらしない。
エイデン・ローは鼻で笑うだけで声も発しない。
「自分が最後のようだ……ん?久しい顔が沢山ある………気がする」
幼い声の第5真祖はそう言うとテクテクと廊下を歩いて、3人の奥にある一際大きな扉の前に立つ。
「全員揃った……さっさと顔を見せろ…第1真祖――」
右手を一振り。
鈍い音がその場に響くと第5真祖の右手がズッポリと壁の中へめり込んでいた。
「!……なんだそれ――」
ブラッドリーもクリフも驚きを露にする。
その扉はついさっきブラッドリーの本気の蹴りに耐えたもの。
いや、本来その扉は不変ではないにしろ数千万単位の耐久度が備わっていたはずなのだから。
扉がそういうものと知らないエイデン・ローは、驚きはしないが"ほー"と関心は示した。
音を聞き付けて部屋から出てきた第4真祖のジャックは、「ようやく揃ったようです―――ね?」と言って首を傾げる。
穴の開いた扉がエラーのエフェクトを放つ。
それに対して反応を見せないのは、この世界にもVRの概念があるからだろう。
仮想世界の拡張現実――"という設定"としか言えない。
「そんなことをせずとも扉は開くようになっている」
声の主は扉の内側からそう言う。
扉が左右に開いて全員が部屋に入ると、ガラス張りの部屋の中央に銀髪に赤い目のもみ上げだけ長い男が立っていた。
灰色の騎士服を身に纏って男は手を上げる。
「さ、好きなのを選ぶといい」
そう言って円状に並んだ一人用の白いソファーが8並んでいる。
「どうして8もある?」
ブラッドリーの問いの真意は"第8真祖の椅子なのか"という意味だ。
「勘違いするな、これはバランスの問題だ」
そう言って第1真祖は一番奥のソファーに腰かける。
「ルーカス・ソロ・D・フォルス…第1真祖。今回の呼び出しの件……詳しく聞かせて貰えるのでしょう―――ね」
第4真祖のジャックはそう言いながら、第1真祖から右に3つ離れた場所に腰掛ける。
「あの扉本当は音声認証だったんじゃないかい?いや、気が付いていたけどね――中で退屈するよりはマシだった」
笑みを浮かべて第1真祖の右隣に腰掛けるクリフ。
「テメークリフ…知ってて黙ってやがったのか?悪趣味なヤローだ」
ブラッドリーは舌うちとともに第1真祖から左に二つ開けて腰掛ける。
「俺の筋肉が言っている。暴れ足りないと!!」
意味不明な言葉を言ってクリフの右隣に腰掛けるエイデン・ロー。
「……始めから開けておけば壊さずに済んだ…」
ブラッドリーとジャックの間の椅子に座る第5真祖のビル・エディル・U・クライブは空席の二つを眺めている。
全員が座ったのを確認した第1真祖、ルーカス・ソロ・D・フォルスは言う。
「オブジェクト――D919002をジェネレート」
言葉に反応するように、突然円状に並ぶソファーの中心に8つのモニターが出現する。
「……旧文明の技術です――ね。便利なものだ」
と言うジャックは、『私も使えればですが――ね』と考える。
モニターに映る映像には何かの研究の記録したものだった。
「こんなものを見せるために一度集めたのか?」
舌うちするブラッドリーにクリフが言う。
「いや、これは凄いことだよブラッド。治癒、再生の薬だよ」
モニターには右腕を失った人間の腕が再生する映像、その薬の製法が記録されていた。
「は?だからなんだよ――」
「ボクらを作り出した薬の元となるものだ。つまり――」
「再生の"逆"の薬も作ることができる――ですね」
クリフの言葉を横取りするジャック。
さすがのクリフもその顔から笑顔を消す。
「……逆?再生の逆は――破壊…いや、崩壊か?」
エイデン・ローの言葉に第5真祖は言う。
「再生の逆は……"再生しない"……真祖の体も治らない……つまり――死――」
その言葉にブラッドリーもクリフもジャックもエイデン・ローも言葉を失う。
「そう、我々が産まれてすぐにこの研究資料は廃棄された。いや、我の記憶が確かなら"我々が"そうした。だが、その後我々は第7真祖の奪い合いの最中、"殺せない"不毛な争いを続けその結果、第7真祖を第8真祖に奪われることになった」
と第1真祖。
「そしてボクたちは争いを止めた。真祖同士の戦いは無意味だと理解したから…」
と第2真祖。
「第7真祖が降された以上は戦いは無意味だと結論を出した…が!私は戦いたかった!!血が猛る!!この熱が体を熱くする!」
と第3真祖。
「今となっては懐かしい過去。彼女も既に第8真祖に汚され、身も心も染まってしまっている……その事実を皆が受け入れた――33年前に――ね」
と第4真祖。
「自分たちは……第7真祖に認めてもらうために戦った……でも、結局は早い者勝ち……彼女を暴力的に襲う方が早かっただけ……」
と第5真祖。
「だが、俺様は納得してねー。確かに"最弱"と思ってた第8真祖が第7真祖、エリーを降すことになると予想していなかったってのもあるが――」
と第6真祖。
彼らは記憶に鮮明に残る戦いの日々を思い出す。
第1真祖が手の平を一度鳴らすとそれぞれ真祖は反射的に視線を向け意識を戻す。
そして、ルーカス・ソロ・D・フォルスは言う。
"私の提案は第7真祖エリーを陵辱できる権利の争奪戦だ"
さらに続けて言う。
"ルールは単純、第8真祖を殺した者が彼女を好きにできる。殺すもよし、犯すもよし"
それを最後に第1真祖は口を閉じた。
その後、一番最初に口を開いたのはクリフ・ヒース・L・マルガスだった。
「この提案――ボクは反対だ――」
真剣な表情で反対する理由を語り出すクリフ。
しかし、第4真祖のジャックはそんな彼を横目に何かを企んでいる様子。
その口元には不敵な笑みが刻まれていた。




