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81 真祖乱れ会い


 第1真祖の"召集"の声はその日のうちに第2から第6真祖までに届いた。

 勿論、その事をヤトたちは知らない。


 第6真祖ブラッドリー・ヒス・F・ドミニオンが第1真祖のテリトリーに侵入すると道案内のハウンドが現れる。

 ブラッドリーが眷属を連れず単身そこに立っているのをそのハウンドの瞳から窺う者は笑みを浮かべる。


 第1真祖のテリトリーはメトロの最終区画40番街の真上にあたる。

 その地上は完全な高層ビル群で旧都市で最も栄えた場所でもある。

 他のテリトリーでここ以上の高層建造物は第5真祖のテリトリーにある300m級の廃ビルだけだろう。


 ハウンドの後を歩くブラッドリーは次第に苛立ちが募っていた。

 ハウンドが最も高いビルの前で立ち止まるとその体を足で踏み潰す。


「悪いな――俺様は、"前を歩かれる"のが嫌いなんだよ」


 肉片の塵に変わったそれを後ろに彼はビル内へと足を運ぶ。

 ビルの内部は外見とは違い整備されていた。

 VRの中でこんなことを言うのはおかしなことかもしれないが、VR中のVRシステムによって宙に表記された矢印にそってエレベーターに導かれる。


 そのエレベーターの速度は遅くはないが、距離が距離だけに数分は到着までに要した。

 エレベーターの到着音はクラシックでその扉が開いた瞬間に第1真祖のセンスが視界に溢れる。

 両サイドの壁に水で満たされた透明の窓があり、その中を熱帯魚が泳いでいる。


 ブラッドリーはそれを見て、「ホログラムか…」と呟いた。

 最初の通路で幅8m、先を進むとさらに左右に20mは開ける。

 左右に部屋の扉が乱立している。


 そして目の前の一際大きな扉の左右に騎士の甲冑が飾られ、その手のない手元に飾られた大剣をブラッドリーは手に取った。

 すると、左側から「ただの飾りだよ」といい声の男が姿を現す。


「お前……」


「久しいねブラッド」


「クリフ――クリフ・ヒース・L・マルガス!」

 クリフ、第2真祖である彼は鮮やかな青髪をポニーテイルにできるほど伸ばし、白に青をアクセントにあしらった騎士服を着ている。

 整った顔に確りとした目鼻立ち、金色の瞳がそれをさらに惹き立たせている。


 ブラッドリーはそんな彼に苦手意識があるのか眉を顰めた。


「そう嫌がらないでくれ。ボクは他人に嫌われるのが嫌いなんだ」


「気持ち悪いこと言ってんじゃねー」

 ブラッドリーの言葉に笑顔でハハハと返すあたり、クリフの人柄が分かる。


「で、お前はこんな所で何をしてやがる。まさか、迷子ってわけでもないだろ?」


「まさか。数時間前にはここに到着していたんだけどね、一瞬、日時を間違えたのかとヒヤヒヤしていたところだよ」

 笑顔でそう言うクリフも眷属は連れていない様子だった。


「第1のやつはどうした?俺様が言うのもなんだが予定の時間は過ぎてるだろ」


「あー…ま、彼は全員揃うまで姿を見せないんじゃないかな。ご丁寧にこの階にそれぞれの真祖の個室が用意されていたからね。ちなみに女性は用意されていないからね」

 残念だったね、と笑顔で言うクリフにブラッドリーは舌うちを響かせた。


 大剣を雑に鎧に戻したブラッドリー。

 大きな扉を開けようと押して、開かないことを確認すると今度は引くも扉は開かなかった。

 眉を顰めた彼が次にとる行動はクリフにも予測できたため耳を両手で押さえて身構えた。勿論その行為に防音対策といった意味は含まれない。


「開けろ!!おら゛!!」

 怒号とともに扉を蹴る。


 そして、左側で耳を塞いだクリフがクスクスと笑いながら言う。


「言い忘れてたけど、その扉――ボクらでも壊せないからね」

 足を扉に当てたままブラッドリーは再び舌うちをした。


「チッ!!」



 それから数時間後。

 再びエレベーターの扉が開くと頭から足まで赤、上着だけ白衣の第4真祖ジャックが現れた。

 既に苛立ちが頂点に達したブラッドリーを視界に捕らえた彼は、「少々早く着きすぎたようです――ね」と言ってクリフの方へと向う。


「どうも第2真祖。主催がいまだ現れず参加者も不揃いといった様子です――か」


 その問いの返答は、満面の笑みと口汚い罵りだった。


「うるさいこの蛆虫(うじむし)め。目の前から失せろ――ボクが"笑顔"でいるうちにね」

 その返答にジャックは口の端に笑みを刻むと言う。


「おやおや、どうも私はあなたに嫌われてしまっているようです――ね。一体、何が原因なのやら」


「ボクの所へ出した使者、"ナユナ"のことをもう忘れたのか?この蛆虫め――」


「あ~そんな家畜もいましたかね」


「…彼女――いや、お前のところにいる女の眷属に"グール"の相手をさせたのは大きな間違いだった。このボクを本気で怒らせたんだからね――」

 笑顔の瞳が異様なギラツキをしている。


「見ていて滑稽でしたよ。私に"愛"だの"尊敬"だのとほざく口でグールに快楽を覚え喘ぐ尻の軽いメスたち……実に汚らわしい」

 青髪が揺れ、放たれる殺気――"轟圧(ごうあつ)"。

 チリチリと肌に刺すほどのそれをクリフは笑顔で放つ。


「…お前の行いの報いは必ず受けさせる――」


 怖い怖いと口元に笑みを刻むジャック。

 すると、その体がエレベーターの方へと一瞬で吹き飛ぶ。

 態勢を立て直し、靴が床を鳴らして勢いを殺すとジャックはエレベーターの前で止まる。


「……何の真似ですか第6真祖――」

 ジャックが吹き飛んだ理由はブラッドリーが蹴り飛ばしたからだ。


「は?テメーの声が耳障りだったから蹴っただけだコラ。グールとやらせるくらいなら、お前のとこの眷属は全員俺様のものにしてやるよ」


「真祖同士の戦いは"不毛の極み"……ですが、こちらも攻撃に対して反撃はしないと――ね」

 2人が一触即発になると、元々ボクのケンカでもあるんだけどね、と言ってクリフもブラッドリー側に付く。


「第1には悪いが、マジでこのビルの命日だなこりゃ――」


「さー建物に命はないからね。誰の命日にもならないと思うけど」

 ブラッドリーの言葉に腰から長剣を抜いたクリフがそう言う。


 超次元的な戦闘が行われる。

 そう思った次の瞬間、第4真祖ジャックの背後、エレベーターが明るいクラシック音とともに開いて人影が姿を現す。


 丸坊主というよりスキンヘッドという方が正確な頭。

 肌は黒く、巨体に太い腕、銀色の騎士服を身に纏った男が、その厳つい顔に笑みを浮かべていた。


「もう宴が始まってんのか?!出遅れちまった!!どいつもコイツもまとめてかかってこいや!」

 ドスの効いた声でそう言うのは第3真祖。


「おら!どいつが俺の敵だ!この右腕の雷鎚ミョルニルの餌食にしてやるぜぃ!」

 空気を読まないLvがあるなら彼は既にカンストしているに違いない。


 一触即発だった3人はその空気に飲まれて闘気を鎮めた。


「おっさん、空気読めよな」


「ローはいつもこうだからしかたないよね」


「…これはこれは、第3真祖エイデン・ロー・M・フィガロ……――面白い登場の仕方ですね」


 3人の言葉にエイデン・ローは上着を取って右腕の筋肉を見せ付ける。


「なんだ!やらないのか!この右腕が一暴れしたくて疼いているんだぞ!!どうしてくれる!?」


 コレで呼ばれた真祖は第5真祖を残すのみとなった。

 いまだ開かない扉の内で、第1真祖が優雅にコーヒーを飲んでいるなど他の真祖は思いもしない。


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