80 第6真祖
「第6真祖のテリトリーか――」
「……"第4真祖の使者が気になる"って考えているでしょ」
「…いや、真祖が眷属の命を無為に奪っていたのは20年前までだ。今は人も少ないからな、第4真祖のように道具のように使うのは逆に珍しいぐらいだ」
「"第6真祖も命までは奪わない"――でも、彼って他の眷属を降さないでいるでしょ?"調教して飼う"ってやつ」
「それに関しては私は関与しない。眷属とはそういうもので、全ての眷属を救えると思うほど私は傲慢ではない」
「十分に傲慢よ~その腕の中で口からタラタラと唾液をたらしている女がその証拠」
「…………」
「ま、別に傲慢でも構わないわ。だって、それが私たち"真祖"だし~そうじゃないといけないもの」
エリーはヤトの隣で腕を組みながらそう言う。
噂の第6真祖。
廃墟と化した都市の中の旧歓楽街。
その中にある元クラブとして建てられた建物が彼の拠点。
彼はそこから動かない。
ブラッドリー・ヒス・F・ドミニオンそれが第6真祖の名。
その姿は金髪にモヒカン、常に隆起した筋肉が見えるように上半身は裸。
暗い黄色のズボンを穿いていて、靴は基本履かない。
眷属数は多くないが、その殆どが女性で構成され、一部の眷属は他の真祖の血の支配下にありながら彼の元にいる。
始めは抵抗するが時間と共に血に対する抵抗感が快楽へと変わる…のだそうだ。だが、その過程の苦しみは尋常じゃなく"憎悪"の感情がその精神を蝕むとされる。
実際に現実の脳にも何らかの影響がでているかもしれない。
第4真祖の使者は問答無用で彼に捕まった。
使者は拘束されてから既に半日は経過していて、クルミと同じ赤毛の女は彼の膝の上でもがいていた。
少女に見える彼女の名はアンジェリーナ。
髪型はボブカットで、赤い髪なのは第4真祖の趣味だからだろうか。
小さな胸が露になって後ろ手に拘束され、太ももとすねを縛られ、黒い布で目隠しされている。
「……どうだ?血の抵抗が快楽に変わる前の苦しみがどんどんお前の中に広がってくる感覚は――」
フゥフゥと鼻息荒くアンジェリーナは首を振る。
その口元には舌を噛みきれないように白い棒があてがわれている。
実際に舌を噛みきる行為は行えるが、致死的ダメージを負うことはない。
が、痛みに過剰なこの世界では現実の脳にどんな影響がでるのか分からない。
ブラッドリーは彼女の首元に口を近づけて牙でなぞる。
その瞬間に抵抗が強まるのも血の支配によるものだろう。
左手で肩を擦り、右手で背中を撫でる。その瞬間にアンジェリーナは腰を振る。
「今のが血に抵抗したことでお前の体が"快楽"を欲した結果だ…まだ半日しか経っていないのにこの反応だからな」
「ふ、ふんん!ん゛!!」
白い肌、頬が赤く染まり本能的に苦しみから逃れようと快楽を求めて腰を振る。
そんな彼女をほくそ笑んで眺めながら銀色の容器に入ったワインと思えるアルコールを口に含むブラッドリー。
彼は設定ほど残酷な存在ではない行動をとっている。
それは、彼の元の性格が深く関係しているが記憶を制限された彼のどこにそうなる要素があるのかは、複雑な脳の構造を把握できていない現状では"そうなってしまう"としか言いようがない。
「安心しろ、これからもっと快楽を感じられる。お前から求めるようになれば俺様が慰みに抱いてやるぞ」
悲哀か歓喜か、ブラッドリーの言葉にアンジェリーナは激しく体を前後させた。
そんな彼の背後に迫る人影。
それに気が付かない程彼は鈍感ではない。いや、"真祖"は――と言うべきか。
「何か用かハルナ」
背後の人影は"ハルナ"と名前を呼ばれると、一瞬下着姿かと思う騎士服で彼の視界へと現れる。
女は黒髪を腰まで伸ばし、薄い褐色の肌に黒い瞳を浮かばせて紅で染めた唇を動かして言う。
「真祖の使者が来ていますご主人様」
「使者?女か?」
その問いにハルナは首を横に振る。
「男か……どこの使者だ?第5辺りか?」
「いいえ、第1真祖の使者だそうです」
アンジェリーナに触れる手がその言葉でピタッと止まる。
「おいおい、それは本当なんだろうな?第1から使者とか…ただ事じゃないぞ」
彼がそう言う理由は、100年という記憶の中で第1真祖が第7真祖であるエリーの事以外で、一度も他の真祖に接触したことがなかったからだ。
「俺の記憶が確かなら第7が第8に降されて以来、第1の奴からは一度も連絡がなかったんだが…。それで?紙は――」
便箋を要求するブラッドリー。
しかし、ハルナは再び首を振る。
「口頭で伝えたいとの事です」
「……………そいつは"命知らず"だな」
眷属は真祖にとっては本来家畜的存在。
それゆえ、真祖の前に他の眷属が1人で姿を出すことは稀。
血の上書きで簡単に眷属を裏切らせることができるため、普通なら絶対に目の前に姿を見せることはなく、そのための"便箋"とも言える。
「いいだろ。連れてこい」
「"ここ"へ――ですか?」
彼女がそう指摘するのは、彼のいる部屋が元々そういうプレイができる場所だったのだろうか、壁に人を拘束するための器具がついていたり天井に吊るすためのものや、所謂"三角木馬"と呼ばれるものがおいてあるからだ。
「なんだ?俺様の部屋に文句付ける気か?調教し直すぞお前――」
「…必要ありませんよ。私は既にあなたの"眷属"ですから」
そう言ってハルナはブラッドリーに顔を近づけ口に舌を入れる。
キスによって再現されるのは本来感情的な部分が大きいが、この世界ではそれですら性的な快楽に直接繋がるように設定されている。
むしろそれをするためのシステムすら稼動しているのかもしれない。
「――ん、だったらさっさと連れてこいよ。その"胆の据わった"使者ってやつを」
ブラッドリーが現れた使者にポカ~ンと口を開けてしまったのは、"胆が据わっていた"のではなく"恐怖ゆえ"の行動だと分かったからだ。
その使者はプルプルと体を震わせ、絶望感が再現された表情は真っ青になっていた。
「この度は、わ、私しのような眷属ごときと面会していただいて、感謝しております。私し、ローラと申します」
「女みてーな名前だな」
おそらく、ローラと名乗るこの使者は所謂"ネカマ"でBCOをプレイしようとしてその名前を付けたのだろう。
デスゲームに変わったBCO内でその名は使われることはなかったのだろうが、この世界では登録した名前が使わされてるのか男はそう名乗る。
「用件をさっさと言え、長すぎたら殺す、俺様が理解できない話をしても殺す」
「ヒッ!」
コレが"本来設定された"第6真祖の残虐さだ。
男相手になら設定通りに動いてしまうのも、彼が男に興味がないからだと分かる。
「第6真祖ブラッドリー・ヒス・F・ドミニオン。わ、我、第1真祖の名において……しょ、召集する!!」
ズン!と部屋に地響きが鳴り響く。
それは、ブラッドリーが地面を足で踏みつけた音だ。
「"召集する"だと?命令口調たーいい度胸だ!テメー!!もう一度言ってみろ!」
「ヒッ!!だ、だ、だい――第1真祖は再び第7真祖を得るための話し合いを、か、各真祖に提案する。こ、この呼びかけに応じぬ、し、真祖はその権利を剥奪する」
「……第7を?権利ってのはなんだ」
「け、権利とは、"陵辱"。第7真祖の"陵辱権利"―――です」
「あ゛?……つまりあの女を抱けるってことか?…でも、そんなことをすれば第8が黙っちゃいねーぞ」
と、ブラッドリーが使者に言うも、使者は首を傾げる。
「ちっお前に聞いてもしかたないか……。日時は?」
「二日後昼に――との事です」
ブラッドリーは目を瞑って想像する。
壁に歩いて行くとそこに鎖で繋がれたアンジェリーナの股を弄った。
「ん゛んん!!」
「…そそられる提案だな~おい!!いいぜ、おい!ローラとか言ったな!第1に言っとけ!必ず行くってな!」
「は、はい!」
そう言ったブラッドリーは使者にさっさと帰るように言う。
慌てて部屋を出る使者は、慌てすぎて部屋の前で転んでいた。
はたして、第1真祖の提案とは一体なんなのだろうか。




