表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/102

77 行く道

 出発から10分。

 ヤトを先頭に歩く一行は順調に……とはいかない様子。

 数分前からエリーが暇だと言って白髪の眷属の男バットに"面白い話"を要求した。

 結果、長々と人間の幼女についての彼の尋常ではない愛情について聞く破目になっていた。


「つまり私のような幼女好きは犯罪者予備軍であるということです!」


「…なにそれ。つまりアンタ私の体に興味があるってこと?」


「はい!」


「殺すわよ――」

 エリーはそう言ってバットを睨む。

 しかし、バットは怯まない。


「カーフ!あなたは幼女を抱けますか?」

 その問いに青みがかった髪に灰色の騎士風の服を着た眷属の男カーフは首を振る。


「そう!普通の者は幼女を性的な対象にしないのです!しかし、幼女好き…ロリコンは幼女を性的な目で見ているのです!ゆえに犯罪者予備軍!犯罪を犯してはいないだけでいつ幼女と性的な行為に及ぶか分からない!!――私もです!」

 マリーシャは金髪揺らしながらヤトの後ろを歩いていたが、視界の足が止まったので自身も立ち止まる。

 立ち止まったヤトの表情は明らかに不機嫌だった。

 マリーシャは彼がどうして不機嫌なのかを知っている。


 それはバットが嫌いだから、彼にとってバットが話をしているだけで機嫌を損ねる。

 マリーシャはそう思っている。


 しかし、ヤト自身はバットのことが嫌いなのではない。

 記憶上で"自身がバットが嫌いである"となっている為に、"偽り"から嫌いなのか"本当に"嫌いなのか量り兼ねているのだ。

 そんなモヤモヤするものが彼を不機嫌にさせていた。


「バット…話がくどい。貴様の話は最初から間違っている。この世界には法などない。つまり犯罪などという罪もそれを取り締まる者もいない」

 ヤトの言葉に、「おっと!コレは盲点でした――」笑って誤魔化す。


「あと、カーフ……その手を離してやれ。"担げ"とは言ったが、"尻を触れ"とは言ってないぞ」

 カーフは暴れる赤毛の使者からその右手を離し、「これは……挨拶ってやつですよ」という。


 赤毛の使者はアイテムで拘束された上で口に詰め物を入れられている。それは彼女があまりに暴れるからだった。


 そして、挨拶だと言ったカーフを見ながらエリーが言う。


「ちょっとカーフ。お尻を触るのが"挨拶"ってことになるとマリーシャとコイツが喜ぶから止めて」

 コイツとはバットのことを指しているのだろう。

 カーフは首を傾げる。


「そいつは―――どういう意味ですかい?」


「分からないの?あんたバカね。…コイツは早速私の尻を気にし始めたし、マリーシャもヤトの尻をチラチラ見ているもの。どちらも許さないし、挨拶とも認めないわ」

 バットは「挨拶なら構いませんよね!優しくいたしますから!」と真剣な表情で言い、マリーシャは顔を真っ赤にして口をパクパクとさせる。


「キスもハグもタッチも全~部!!挨拶なんかじゃないんだからね!」

 エリーはそう言うとバットを軽く蹴飛ばす。が、姿が少女だからと言って真祖は真祖…。


「ギャフ!!」

 ゴロゴロと転がったバットは廃ビルへと姿を消す。

 口を押さえてエリーは「あらやだ」と言う。


 そして、そんなエリーを気にせず「お尻を見てなんかいませんからね!」と必死にヤトに説明するマリーシャ。

 さすがのヤトも面倒を通り超えて呆れる。


「全員いい加減にしないと………私もいちいち構ってられんぞ――」

 そう言って先を急ぐヤトにエリーやマリーシャがかけ足でついていく。


 カーフは赤毛を担ぎ直してゆっくりその背を追う。

 忘れられたバットは「ちょっと待って下さいよ~」と服を叩きながらスキップであとを追うのだった。



 ヤトたちのいたビルから西に移動すると第6真祖のテリトリーが見えてくる。

 高速道路は真祖のテリトリーを繋ぐルートの一つ。

 ヤトとエリーのテリトリーから第1真祖のテリトリーまで直線で繋がっている。


 真祖がテリトリーを監視することはまずない。

 たまたま見かけた人間を襲うことや、散歩していてハンターと出会うことはある。

 テリトリーというのは、人間側が"真祖がそこにいる"という意味でそう呼んでいるだけなのだ。


 絶対強者である真祖がテリトリーの奪い合いをすることはある。が、それは無意味なことで互いに死なないゆえにそうなることが少ない。

 過去の記憶をさかのぼれば、真祖誕生から1年におよぶ戦争を除けば、エリーの争奪戦とヤトがエリーを(くだ)した時だけだろう。

 ゆえに真祖が他の真祖のテリトリーに入ることで気を付けることはない。


 むしろ、気を付けなくてはいけないのは眷属と人間である。

 人間にしてみればテリトリー外の真祖など、セキュリティーの成されたPCに入った新型のウイルスに等しい。

 いつもは安全なルートに降って湧いてきたような真祖が突然現れて、ことによっては色々面倒になる。


 眷属にしてみれば、他の真祖は敵であり触れられただけで血が騒ぐ存在だ。

 吸血衝動を満たそうと人を探していてそれに出くわしたなら急いで逃げるだろう。

 逆に真祖からすればその辺りの反応は個体差が出る。


「第6真祖のテリトリー……きっと今頃は第4真祖の使者は彼に酷い目に合っているでしょうね」

 エリーの言葉にバットは「どうしてです?」と聞く。


「どうしてもなにも…第6真祖は他の眷属の女を捕まえて抵抗しなくなるまで厭らしいことをするからよ。血を吸って眷属にするでもなく、ただただ抵抗するのを楽しむヘンタイなのよ」


「それは…お噂に勝る方のようですね」

 2人がそんな会話をしていると先頭を行くヤトが立ち止まった。


「隷属だ」

 ヤトの言葉通り暗い空を飛び回るリリアックが目に入る。


「どうやらただの"ノラ"らしいな」

 隷属であるモンスターは通常はノラと呼ばれシステムに沿った行動をとる。

 しかし、真祖に触れられた隷属は数時間その支配下となって、ヤトが左目を通じてクローの視界を見たようにスキルが使うことができるのだ。


 決められた行動をとるノラの隷属は真祖の目には青く見える。

 逆に誰かの支配下にあれば赤く見えてそうであると分かる。


「仮にもここは第6真祖のテリトリーです油断は禁物というもの」

 マリーシャがそう言うとエリーは鼻で笑う。


「あんなの…ただチンチンに毛が生えただけの猿よ。格下相手に私がやられるわけないじゃない」


「……………私にとっては金棒を持った鬼です」


「あっは~!何それ!!なら私はきび団子持った桃太郎ね!……ところで~桃太郎って桃から生まれたって……それ本当なの?」

 その問いに「作り話で実在していません」と少し不満気に言うマリーシャ。


「鬼はいるんだけどね。私たち真祖ってヴァンパイアなんだから、ヴァンパイアって吸血鬼のことだからつまり鬼ってことよね?」

 そのエリーの言葉にヤトは呆れた顔で言う。


「この話に加わりたいわけではないが…一つ訂正すると、真祖とはヴァンパイアと呼ばれる空想産物を"元"に作り出した存在だ。つまり純粋なヴァンパイアではない。類似しているだけの別もの…、それに吸血鬼と鬼も別ものだからな」

 溜め息を付くヤトにエリーが、「私たちは特別な存在ってことね」と片目を瞬きさせて言う。


「多少他より丈夫にできているだけだ……それは特別とは言わない。ある意味特殊というやつではあるかな」

 そう言って彼は再び高速道路を足早に歩き始めた。



 第6第5真祖のテリトリーを通過して、第4真祖のテリトリーに着いた頃には日もすっかり上ってしまっていたが、黒い雲に覆われてしまっていて時間経過が少し曖昧な状況だった。

 そんな中でも時間を知る術はあるがそれは少なからず手間ではある。


 日に一度雲が割れ光りが地上を照らす。それを求めるように花ビラを開く花が存在する。

 光恋花(こうれんか)という花は、日に一度のそれを恋焦がれているように日の射す1時間だけ咲く花。

 それの咲き具合から今の時間を推測することができる。


「この咲き具合から見て昼頃か……」

 ヤトの言葉にエリーはアクビをする。

 普段この時間帯に睡眠をとるエリーは既にお寝むの様子だ。


 実はこのエリーの睡眠衝動は必然な部分がある。

 現実では彼女はアメリカにいる。つまり、日本時間でこの世界の時間が設定されている現状では彼女にとっては時差で真夜中もしくは早朝となる。

 疲れる概念のないこの世界でも睡眠は必須。


 彼女は夜通し歩いたことになり、睡眠を脳が要求するのも必然なのだ。

 そんなエリーをヤトが抱える。


「眠いなら寝てしまっても構わない」


「ごめんなさいヤト……少しだけ…少し…だけ――」

 エリーはそのまま瞼を閉じて寝息が聞こえ始める。


「カーフ、マリーシャ……お前たちは大丈夫か?」

 そう聞かれた2人は大丈夫だと言う。

 聞かれなかったバットは、「へぇ~ぇ私も平気です~!」とヘラヘラと自己申告した。


 いよいよ第4真祖のテリトリー。しかし、その第4真祖の居場所はその場の誰も知らない。

 メトロの住人からすれば、30番街から33番街が第4真祖のテリトリーであると理解しているものの。

 ヤトたちにとっては大まかな場所しか分かっていない。


「本来なら少し手間だが探すしかない……が、今回は"道案内"がいるからな」

 そう言ってヤトは赤毛の女を一瞥した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ