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71 行き違い


 視線が集まる。

 それが自身の格好のせいであることは理解している。

 しかし、彼女はそれでも歩みを止めない。

 時折ヘラヘラした男が寄ってきて話しかけるが、その度に腰からガンブレイドを抜く顔には"近づくと撃つ"と書いてある。

 見た目で"そういう女"と判断され、ダラーをチラつかせて寄ってくる男の多さ。

 黒ネコが"コートのせいかもしれない"と言い、試しにそれを脱いで歩くと倍ほどに数が増える。

 どうしてこうも男が群がるのか。その原因は彼女と黒ネコは感覚的に大丈夫だと考えているニーハイ。それが彼らが彼女を"そういう女"と思いこむ要因と気付くまでそれは続いた。


「まさか、ニーハイソックスが原因だったとは……価値観という奴は恐ろしいものだな」


「これ脱いでから男がピタリと話かけなくなったもん。ニーソの威力……いや、絶対領域の威力ね」


「可愛いから――と安直に身に付けるものではないということだな」

 黒ネコのシャドーの言葉にニーハイを持つナナは頷いてそれをその場に置く。

 すると黒ネコがそれに近づいて手早くアイテムストレージに入れる。

 勿論、それを見ていたナナがジト~と視線を送る。


「元々は私の物だからな……」

 黒ネコは動揺することなくそう言うが、「何に使うんだか」とナナは呆れ顔だ。


 そうしてナナと黒ネコは16番街に到着する。

 BJに聞いていた通りの道を通り抜けてベロニカの家を尋ねる。現れたオレンジ髪の女は、「また別の女?」と不満を露にした。

 ナナはBJの女性関係など知らないため首を傾げた。



「そう、BJの友達なのね」

 ベロニカはそれを疑りの目で見ている。何せナナの格好が格好だ。色々と事情があるにしろ今はBJとの合流を急いた。

 どうしてナナがBJとの合流を目指すのかというと、シャドー曰く「私がジャスティスと合流すればなんとか記憶を取り戻させることができる」とのことだからだ。

 ジャスティスとはヤトのことで、現状の彼がどうなっているのかはナナにも分からない。


 黒ネコの予想では彼は70%の確率で真祖としてこの世界にいる。

 ナナにとってヤトとに接触は必須だが、彼が真祖である場合はかなりの危険が伴う。なにせBCO日本サーバー最強のプレイヤーなのだから。

 BJと合流後はなんとかしてヤトとの接触を試みるつもりのナナは、これで取りあえずの一段落がつくのだ。しかし、そうならないのが今のナナの運命と言える。


「え!?BJがいない?昨日ここを出て行ったんですか?」

 ナナとBJは互いに行き違いになっていた。

 ベロニカにBJがどこへ向ったのかを聞いたナナは肩をガクッと落とす。

 BJが向ったのは29番街。

 つまり、23番街での一生忘れない体験もそれからの羞恥も必要のないもので、唯一ミシアと会えたことといういいこともあったのが救いと言える。


 そうですか…と言ってナナはベロニカの体型を見る。胸やお尻のサイズは自身より大きいもののほぼ同じ体型。

 ダメ元でベロニカに服を売ってくれないか?と交渉するナナ。

 理由を聞かれたナナは経緯を話す。ベロニカは「BJだったらその子たち皆、連れて帰ってきたんでしょうね」と笑顔で溜め息を吐いた。

 BJが出て行ったことはベロニカにはやはり辛いことだったようで表情が暗い。


「いいわ、入ってきて」

 ベロニカにそう言われて中に入るとナナの肩に乗った小さい黒ネコに子どもたちの視線が集まる。

 ナナは笑顔で黒ネコを少女に手渡す。受け取ったのはベロニカのところに住むムイという少女だ。

 その姿は有名なアニメ映画のワンシーンにも見えてナナは微笑む。貸した相手が少女だから安全だろうと見送ってベロニカの後に続く。


 ベロニカは自身の部屋にナナを案内し、BJとの関係を話しながらナナにいらない服を出す。

 ナナは濃い青のワイシャツに黒のダメージジーンズを気に入り身に付ける。

 仮想世界での着替えは本来ボタン一つなのだが、この世界では現実のように着替える必要がある。

 靴をどうするのか聞かれたナナはさすがにいらない靴などないだろうと遠慮していた。

 しかし、ベロニカがヴァンパイアハンターとして履いていたブーツを持ち出してきてナナに渡す。


「でも、これがないと――」


「いいのいいの。うちには働き手が1人いるから」

 その働き手とはエレンのことだが、彼と会ったことのないナナには分からない。

 オレンジのブーツに黒いジーンズ。青いシャツは上の二つのボタンが無くて若干色気が出ている。


「なんか、以外とまともね」

 ベロニカの言葉にさっきまでのは服ではなくただの布だったことをもう一度説明するナナ。


「はは!ゴメンなさいね。でも、話して分かったわ。あなたBJの友達って本当みたいね」


「何度も説明したつもりなんですけど…」

 ベロニカのベットの上に散乱していた服の隣にあるガンブレイドを腰に巻き、椅子にかけたコートを羽織るとようやくまともな姿にナナは戻った。

 そして、ベロニカは服とブーツ、さらにバックアップ用のホルスターもあげると言い出す。

 さすがに、と遠慮するナナだがベロニカはもうあげた気でいたためお返しにと"ハイジャンク"を一つあげると約束した。


「真祖のテリトリー内の代物じゃない…そんなのよく持ってたわね」


「え?あ!そうよね普通は持ってないかも」

 ナナは現在それを所持していない。どの道真祖のテリトリーには偵察に入るつもりでいたからだ。

 もちろん、ヤトの行方を探して。


 ベロニカの部屋を出るとナナは声を上げる。

 目の前で黒ネコがボールのように男の子の少年二人に投げ飛ばされていたからだ。

 投げ飛ばされる表情は無心で、ただひたすらに子どもたちの手玉にされていた。

 ナナは声に出して笑うと少年たちに黒ネコを返すように言う。そして、少年たちはすぐに黒ネコをナナに渡した。

 ジーっとナナに視線を送る黒ネコは目で訴えていた。

 "今すぐにここから出よう!"と。


「なに?まだ怒ってるの?」

 歩きながらシャドーにそう言う。


「…私があの程度で怒るとでも思っているなら大間違いだ。少年とはあのぐらいが普通だからな、誰かさんがあのくらいの頃は常に"どうやって年上の体格差のある奴に勝つのか"を日々FD空間で実戦してたものだ」

 おそらくそれがヤトのことであるとナナは察する。


「少年時代に高校生相手に1人を病院送りにした怪物だ。正義というものがなければただの暴徒だからな。自分自身も通院する破目になる」


「現実世界のヤト……きっと生き辛かったんだろうな~。子どもの頃から暴力を振るうことでしか人を救えなかったんだもんね」

 ナナの言葉に、「それでも救えた人がいるから困る」と呆れ顔。

 そして、ナナは思う。

 ヤトだったら救えたのかな――

 親友を救えなかった彼女の心はそう思わずにいられなかった。



 ナナはシャドーを連れて第7真祖のテリトリーへと向う。

 真祖のテリトリーは広大と言える。特に第7真祖のテリトリーは直線約30kmの距離があり、その中で真祖がいる場所を探すのは非常に困難だ。

 しかし、第7真祖はテリトリー内の丘にある城にいることが知られている。というよりもそのテリトリーのメトロの住人の知識では常識として認識されているようだった。


 好戦的ではない真祖と戦う者などいない。

 さらに真祖が不死である設定で傷を負っても、瞬時に回復することが分かっているため戦う気すら人は起こさない。

 この世界では真祖が絶対的に強者なのである。


 そして、ナナはこの時重大な勘違いをしていた。

 第7真祖にはもう一つ常識がある。常識過ぎて話を聞かせたベロニカも伝え忘れていた事。

 第7真祖は"女"である。


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