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70 喋るネコ


 ミシアの言葉にエミリィはナナを掴む手を緩める。

 いつもは自分の言葉を全肯定してくれるミシアがエミリィの行動を止める。

 その理由を催促する彼女に、ミシアは事の経緯を幼さの残る会話で伝えた。

 そして、黒ネコがエミリィの前に立ち話しだすと、彼女はAGI極振りの俊足でその場から離れる。


「……え?」

 首を傾げるナナ。

 シャドーは、「私を人形だと勘違いしてミシアにあげたんだろう」と推測を話した。

 遠くの物影から様子を疑うエミリィは喋る黒ネコに怯えているようだった。

 やれやれと黒ネコがナナの肩に乗る。


「あの子のところへ向ってくれ。おそらく私1人では怯えてしまうだろうからな」

 黒ネコの言葉にナナは今回の元凶の少女のもとへと向う。


「えっと、エミリィ?だっけ。ちょっとミシアの家で話そ――」


「……ネコの人形が…喋った……」

 ジッと黒ネコを見つめる少女は、腕にバンダナを巻いて髪の毛を後ろで束ねた"いかにも盗賊"といった風貌をしている。

 ナナの説得でミシアの家でエミリィと話をすることになる。

 しばらくはシャドーが何故喋るのかをナナがエミリィに説明する破目になった。

 だが、結局は"ネコが喋るなんてありえない"の言葉でエミリィへの説明は諦めることになる。


「とにかく、ミシアに何かプレゼントしたいっていうなら自分で買ってしてあげなさい!」


「…足が速いだけのアタシはスリで生きてくしかできないんだよ」


「そんなことない!ちゃんとあなたにできる仕事があるはずだから」


「……あんたみたいに抱かれて稼げって?アタシみたいな半端な女は誰も相手にしてくれないさ!美人は楽できていいですね~」


「(カッチ~ン)―――だ、誰が抱かれて稼いでるって!私は――」


「そんなエロイ格好して男誘ってるんでしょ」

 エミリィの言葉にナナは、「好きでこんな格好してるんじゃないもん」と膝を丸める。だが、その姿さえ今は男を誘う姿に見えてしまう。


「大体――トムとジェリーとは、アタシ関係ないし」


「だがしかし、キミが私を連れ去ったことが事がそもそもの原因だ。ナナの置いてきたバックパックにガンブレイド、あと彼女が穿くズボンを買ってきてくれ」

 黒ネコが話すたび身を逸らすエミリィ。


「……だって――」

 いい訳を続けるエミリィにミシアが服を引っ張って悲しげな眼差しを向ける。

 その目には敵わないのか、「しかたないな~」と即行で立ち上がり家を飛び出した。


「これで、やっとここから移動できそうだ。ん?どうしたんだナナ?」

 何かを考えている様子のナナがミシアを見つめているのに気が付くシャドー。

 声をかけられたナナは、「ちょっとミシアに話したいことがあって」と言う。

 ナナはミシアの前に座ると目線の高さを合わせて話をする。


「ミシアちゃんは辛くない?」


「………辛いよ。でも平気。おじさんたちに玩具買ってもらえるし、一緒に寝てもらえるし、本も読んでもらえるから」

 笑顔でそう言うミシアにナナはどうすることもできない感情を懐く。

 唐突に抱きしめるナナ。

 ミシアは、「おねーちゃん温かいね。それに、良い匂いがする」と言った。

 ナナは、「ミシアも温かいよ」と言って頬をすり合わせた。



 エミリィが戻ってくると、ミシアのことで悲しくなった心を怒りへと変化させるナナ。

 バックパックとガンブレイドは無事戻ってきた。が、エミリィに頼んだズボンが彼女の怒りの原因になったのだ。

 手渡されたのは、ナナの身に付けている下着よりも布面積の少ない…もはやなんと呼べばいいのか分からない代物だった。


「……なにコレ。下着一枚よりも変」


「仕方ないだろ…この辺でズボンって言われてもそんなのしかないし。てか、誰も下着姿隠さないし」

 ただ単に下着より布面積が少ないなら"下着一枚より"と穿いたのかもしれない。

 しかし、一番の問題はその"サイズ"だ。

 ナナの後方から実際に彼女がそれを穿いた状態を口頭で伝えるシャドーの言葉は的確だった。


「それを穿くことでヒップラインが綺麗に見える。というか、食い込んでいることで全てが見えているぞ」

 その言葉でナナはその代物を脱いで投げ捨ててしまう。


「だが、それを穿かないと下着で移動することになるぞ」


「だからってアレは無理!」


「…………しかたない。こうなったら奥の手だな――」

 黒ネコはそう言って広い白の布を取り出す。

 それを見たナナは、「どうしてそれを早く出さないの?」と溜め息顔。


「コレは…預かり物だ。カイトから"買って置いてくれ"頼まれた生地だ」


「……そう」

 ナナはそれに両手を合わせると、「カイト…借りるね」と言って躊躇なく腰に撒き始めた。

 勿論そのままではどうにもならなかったため、どうにかこうにか生地同士を結んでスカートにする。

 白いスカートにニーハイにヒールとまだ見れる格好になったナナ。


「あまった生地で胸も隠せないかな……」


「…………………(女性は借りると口で言っても、返すとは言ってないと言い訳する生き物なのか?)」

 どう見ても返す気がない生地の扱いに、黒ネコは目を細めて見えない振りをした。


「それでは、ミシア――縁があればまた会おう」


「……じゃーねミシアちゃん」


「うん。また遊ぼうね!ブラックキャット!」

 ナナは歩き出してすぐに疑問を口にする。


「あの2人。トムとジェリーの手錠、外さなくてよかったの?」


「ん?ああ、あれは時限付きのアイテムだからな。あと数時間で勝手に消えるさ……BCOのアイテムだからな正確なことは知らないがな。いい罰になるだろうさ」


「…それくらいなら」

 ナナはあの2人を恨んではいないが少しだけ"いい薬"と笑みを浮かべた。


 現実ではありえない経験をしたナナは足早に23番街を抜け22番街へ到着する。

 人々が騒いでいたことで夕飯の時間を過ぎているのに気付くと安宿へと姿を消す。

 その夜は、いつも同じベットに入らない黒ネコを抱えてナナは眠りについたに違いない。

 そしてその日、久しぶりに彼女がいい夢を見れたのは黒ネコのおかげであるということもまた事実である。



 翌朝、ナナは起きて愕然とした。

 小さな黒ネコがハンモックよろしく左右の胸の真ん中で寝ていたからだ。

 AIであるシャドーに睡眠は必要ない。

 つまり、その時間は色々と退屈な時間。暇を持て余した黒ネコが丁度いい大きさと柔らかさを再現した胸をハンモック代わりに寝ていても仕方がない。

 仕方がないことではなかったのがナナの寝起きの笑みで黒ネコも理解した。

 "つい"という言い訳にナナは明らかに威圧的な笑みを浮かべる。


 黒のコートに胸を左右から首の後ろで結んだだけの白いブラ。短めの白いスカートから絶対領域を際立たせるニーハイ。赤いヒールに腰から下げたガンブレイドが存在感を放つ。

 絶対に変だ、とナナは安宿のヒビの入った鏡の前で苦い顔をする。

 青春を剣道に費やした彼女に裁縫のスキルなどない。


「そういえば―――最後に竹刀を握ったのって――何時だっけ…」

 呟くナナに、「ゴホ!ゴホ!」と咳払いで存在感を出す黒ネコ。

 ナナは自身の足元にいる黒ネコの存在をすっかり忘れて、鏡の前で"胸がはみ出てないか下着がどれぐらいで見えるのか"を確認してしまっていた。


「なんでそんな所にいるの!」

 黒ネコは特に悪びれる様子もなく、「キミがここで反省しろと言ったからここにいるんだが?」と言う。

 数十分前にハンモックよろしく自分の胸で寝ていた黒ネコにそう言ったことを思い出すナナ。

 そして、自分の不注意を認めたナナは少し頬を赤らめて黒ネコに聞く。


「で、見たの?」

 その言葉に黒ネコは笑みを浮かべて、「何を今更――」と言って親指を立てた。

 顔を真っ赤にしたナナに黒ネコは放り投げられて安宿の窓から外へとフェードアウトした。


 クルリと一回転した黒ネコは地面に着地すると安宿の窓を見て、「やれやれ」と言い入り口から入り直す。

 本当は見ていないのにもかかわらず、親指を立ててみせたのはシャドーの優しさであるとナナは気が付かない。

 姿は黒ネコだが、彼はヤトのコピーのコピーでもある。

 目の前で女性が油断していたとしても気が付いてない振りをして視線を向けないのがヤトなら、目の前で油断しているナナを見ないように必死に我慢するのがシャドーなのだ。


「AIにも理性があると証明できる展開ではあったな」

 そう呟く黒ネコは、閉まっている安宿の部屋の扉を爪の立たない両前足で、必死に"開けてほしいポーズ"をする姿にはとても愛嬌があったが誰にも見られることはなかった。



@作者

 ※毎日見てくれている人のための記載です。(それ以外の人は見なくてもいいし見てもいいですよ)


  次話は来週の月曜日になります。


  ゴメンなさいしている黒ネコを想像して下さい。

  足元に縋ってくる姿が可愛いから許してくれますよね?

  (カワイイ~だが許さん!by読者)注意:コレは作者の想像です


  (えぇい!私はイヌ派なんだ!だがカワイイから許す!by読者)注意:コレは作者の想像です


  寒いのがいけないのです(ストックに追い付いてしまっただけです。作者は元気玉作れるくらいには元気です)

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