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69 少年少女


 後ろ手に手錠の拘束をされる少年二人。

 黒ネコは少年二人がナナの服を既にダラーに換えてしまった事実に、「やれやれだ」と呆れ顔で首を振る。

 少年たちは下着姿で身を振るわせる。

 ナナに"素足では"とヒールとニーハイをアイテムストレージから渡したシャドー。

 それを装備した自分の姿を想像した彼女は、「変質者だよ」と苦笑い。

 コートに黒のレースの下着、ニーハイにヒール。確かにカジュアルから逸脱している。いや、むしろこの界隈(かいわい)ではフォーマルなのかもしれない。


「はぁ~~スースーする」

 寒さに対して設定は緩いこの世界だが、さすがに下水道の中はヒンヤリとしていてナナはそう言う。


「ね、シャドー。もっとちゃんとしたズボンとかないの?スカートとかでもいいんだけど」


「私のアイテムストレージはタンスやクローゼットや衣装置き場ではない。そのコート以外、ヒールもニーソックスもたまたま(?)持っていた物だ」

 肩の上の黒ネコの言葉にナナは「たまたまね~」と疑り顔。


 狭い下水道内を少年たちに道案内させて、少し開けた場所に出ると黒ネコがナナに止まるように言う。

 立ち止まったナナの手元には少年二人に繋がったロープがあり、2人は急停止の所為で後方へ体を仰け反らせた。


「ここを左だ」


「え?でも、2人はあっちだって――」

 少年たちは"マズイ"という顔をして見合わせた後、互いにとぼけた表情をする。


「向こうに私を連れ去った者の知り合いのミシアという少女がいる。彼女とは約束があるんだ」


 シャドーの言葉通り、左を道なりに進むと電気の点いた家らしき建物が見えてくる。

 扉が布という簡素な作りの家の前に来ると黒ネコが肩から飛び下りて中に入った。

 ナナがその布を暖簾(のれん)のように潜ると少女が1人床で遊んでいた。


「この子がミシアちゃん?」


「あ!ブラックキャット!!ね~遊ぼう」

 小学校低学年ぐらいの少女はシャドーを見てそう言う。


「もちろんだ。約束だからな」

 そう言ったシャドーは少女と唐突に遊び始める。


 ママごとを始めた2人にナナは静かに部屋に置いてあった椅子に座る。


 その後、暫くは少女と黒ネコのママごとが繰り広げられる。その間に、ナナは2人の少年と話をする。

 立場が逆転したことでナナは最初に2人に忠告した。


「…一言云わせてもらうわ。今後――"他人の首は絞めない、他人の服を脱がさない、他人の服を捨てない、知らない女性の体に許可なく触れない。"以上――」

 少年たちはナナのさっきに満ちた言葉に肯きながらも、『一言じゃない』と内心ツッコミをいれる。


「で、あなたたち名前は?」

 

 ネコ目の飄々とした少年がトム。

 ブラウンの目がクリクリした敬語を使う少年がジェリーと名乗る。


「トムとジェリーね……それにしては仲良いけど」

 そして、ナナは忘れてはいない。彼らの異常な行動。

 特にジェリーが敬語を使っていても腹黒いことは理解しているため気を許さない。

 ナナは唐突にトムの頬を平手打ちする。

 パチン!という音が再び鳴ると今度はジェリーの顔が打たれて膝から崩れた。


 2人はナナの平手打ちに怯えてしまい互いに体を抱きあう。

 さすがに子どもだから"仕方がない"と許せないナナ。

 しかし、偽りの記憶で行動している二人をこれ以上は懲らしめる気にもならなかった。


 その後は少年二人をジッと見つめていたナナ。

 少年たちは監視されていると勘違いしてコソコソと話している。


「やばいぞ。このねーちゃんヤル気だ」


「アレーシャさんが男を見る目と同じだよ」


「きっと、キッチンで唐突に発見されたゴキブリと同じ目に合うんだぞ」


「フライパンでノックアウトだね」

 少年二人が話していることはヒソヒソという雰囲気を出している。が、ナナの耳にもはっきりと聞こえるほどに彼らの声は大きかった。


 溜め息交じりにナナが質問し出す。

 ここは何?あなたたち以外にも人がいるの?ミシアちゃんとは友達か何か?と畳み掛けるように言う。


「ここは大人に捨てられた子どもが住んでる所です」


「俺たち以外にもいたぜ。今はかなり減ったけどな」


「ミシアはここの住人です。ああ見えて大人の男の人相手に稼いでるんだ」


「俺らは盗賊団!!トム~………特に名前はなかったな」

 彼らの発言はこの世界では珍しくないのだろう。

 ナナにとっても、そういった環境や設定に置かれるプレイヤーを目にした事もあった。

 しかし、ここまで荒れた子どもたちを目にしたのは初めてだった。


 ジャンク集めは大人でも苦労する仕事。それができないとなると人相手に商売する他ない。

 そうは言っても、少女が、少年が、そんなことは日本人のナナには受け入れられない。

 が、ミシアと遊び終わったシャドーが彼女に言う。


「現実でも少年が銃を持ち、少女が遊ぶ金欲しさに体を売ることもある。"仮想世界で良かった"と思うしかないな」

 その言葉は"仕方ない"や"どうしようもない"といった言葉と同義だ。


「ねー。どうにか――」


「どうにもならんさ。この世界では空腹が再現されていて食事をしないといけない。それに、地上の難易度はLv30程度が水準だからな……ミシアはおそらくLv10程度だ。どうにもならんさ」

 この世界は終わりがない。クリア条件がないから、プレイヤーがリアルかVRのどちらかで死ぬまで続く。


「性的な部分の再現が細部にまでされて、排泄がないのがせめてもの救いだ。ただ、幸か不幸かナナは記憶を保ってしまっている。それに関しては寧ろ"残酷だった"と少し後悔している」

 やけに気落ちしているシャドー。どうやらナナが酷い目に遭ったことに責任を覚えているようだった。

 ナナは、「そんなことない。記憶が残ってて良かったよ」と黒ネコを優しく撫でた。


「ね~お姉ちゃん。ブラックキャットくれない?」

 それはミシアの言葉だ。

 少女はナナに縋る様な目をしてそう言う。

 ナナは返答に困ったが、黒ネコが優しく話しかける。


「私は自分の意思で彼女といる。ミシアには悪いがここには留まれない」

 その言葉に少女はポロポロと涙を流す。


「すまないミシア」

 そのシャドーの言葉に喰らいつく獣の如き声が響いた。


「ミシアを泣かすな!!!」

 声の主は、立っていたナナに体当たりする。

 しかし、その体当たりは軽くてナナはその体を受け止めた。


「その子が私を連れ去った張本人だ」

 シャドーの言葉にナナは、「彼女が?」と言いながら体当たりの主を押さえつけた。

 中学生くらいの青い髪の少女は瞳も青かった。

 そばかすが再現された顔に歯をむき出しにしてナナに叫ぶ。


「ミシアを泣かすな!!」

 ナナは今にも噛みつきそうな少女と話そうとするが、暴れてそれどころではない。

 そんな少女を黙らせたのはミシアの一言だった。


 お友達に乱暴しないで!エミリィ―――


 ミシアの言葉はトムとジェリーが耳を塞ぐほどに響いた。


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