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66 心と体


 36番街から移動するナナとアーロンと黒ネコ一匹。

 30番街に着くまではアーロンによって顔パスで通ることができた。

 アーロンの顔は大きい。いや、顔の広さではない。…実際には大きいんだが――顔が知れているという意味で"影響力"が――だ。

 

「ね、アーロンってどっちなの?」


「どっち?どっちって~な~に?」

 アーロンは頬に手を当ててそう言う。


「いや、女の子の心を持った男の子なのか。男の子の体を持った女の子なのか――」


「それって違うの?」


「全然違う。前者は完全に男なの。自分でも低い声が出たり、ちょっと力強さを出した時に"素が出ちゃった"って言うの」


「つまり、いつもは女の子を演じてるってこと?」


「そう。それで、後者は完全に女の子なの。いいえ乙女よ私なんかよりずっと女子意識が高いの。キャ!とか言ったりした時とか、とにかく行動と言動が女の子なの」


「女の子を演じているんじゃないってことね。でも、それって分かりにくくな~い?」


「そう、分かりにくいのよ。自分ですらもどっちか分からないぐらいに…。だけど、前に後者の体は男の子~って人の話を友達から聞いた時、その子は"一緒にして欲しくはない"って言ってたらしいの」

 ナナの言葉にアーロンは眉を顰める。


「"一緒にして欲しくない"?女の子の心を持った男の子と男の子の体を持った女の子をって意味よね。……アレ?私今変なこと言ってる?」

 その言葉が同じ意味のように思えてアーロンは少しずつ混乱する。


「その友達の友達は性別的には男の子だけど根っからの女の子。でも、体が男の子だから辛い人生なはず――って勝手に友達が思っていたら…その子は"体は間違っていない。心が間違ってるの"って――」


「それって、自分で自分を否定するってことでしょ?」


「うん。彼女は"心が間違って男の子の体に入っちゃっただけ"って言ったらしいわ。それで、彼女は自分と同じような悩みを抱えた人と知り合って、悩み打ち明けあったけど"まったく違う"って思ったらしいの」


「ふ~んそれで?」


「彼女が出会った人は"好きになった人が男だったから"とか、"昔から可愛い物が好きだったから"とか言って"自分は女の子なんだ"って。でも、そんなの彼女にしてみれば"体は関係ない"ってことで、気持ちの問題ってことになっちゃうの。だから"この人たちとは違う"って思ったんでしょうね」


「…確かにその二つはまったくの別物ね。性別云々で恋は決まらないし、男の子だって可愛い物が好きな子は多いし。でも、その子にしてみれば、体は男で間違っていなくて、でも自分は女の子で――そこまで考え込んじゃったら…辛いって思うのが普通ね」


「けど、彼女は"辛くない"って。"理解してくれる人がいれば体なんて関係ないの"。そう言って男の子の体のまま彼女は生きてるのよ……立派だと思うし尊敬する。私に尊敬されてもって感じだろうけど」


「"理解してくれる人がいれば体なんて関係ないの"――か~。カッコイイわねその子…そうなると、私もその子とは違うわね。私、好きになる人って性別関係ないから。この喋り方だってこの方が落ち着くからだし」


「じゃ、アーロンは"男の子の体を持った男の人で、喋り方は女の人ぽいけど、とても善い人"ってことね」


「あら、褒めてくれてありがとう。ナナこそ、その子に負けないぐらいもっといい女になりなさい!恋しなさい!」

 アーロンの言葉にナナは視線を落とす。


「今は無理だけど――いつかは…ね」



 2人が会話を終える頃には30番街を抜けていた。

 そして、アーロンが1人で29番街への道に待っていたグレンとその部下の所へ行く。

 1人になったナナにさっきまで黙っていた黒ネコが話しかける。


「アーロンとの話…始めから間違っているぞ」


「…間違ってる?」


「そうだ。彼はどう見ても男だ。心などは関係ない、外見だけで判断できる」


「…そうね。AIであるシャドーからしたら人間のこういう考え、精神論っていうの?…そういうの分からないでしょうね」


「……なら、ナナに質問する。外見が可愛い女のアバターがいて、それを操作しているのは完全に中年の男だとしよう。キミはその外見の可愛い女のアバターの性別をどう見る?」


「そんなの…女の子でしょ?」


「ふむ。ならその女の子とジャスティス…ヤトが恋中になった場合キミは祝福できるか?ちなみに、ジャスティスはそのアバターの中身など知らないとする」

 黒ネコの言葉にナナは言葉を詰まらせる。


「そ、それは…ヤトが騙されていたのなら真実を言うわね。それでも構わないってヤトが言ったなら――仕方ないじゃない」

 ナナがそう言うと黒ネコは、「ほらな、やはりそれに行きつく」と言った。


「それって?何のこと?ヤトの気持ちが大事だって言ったのよ」


「だから言っている。結局…"他人事"なんだよ。人のことなど関係ないと割り切るのが人で、だからこそ精神論などという言葉で誤魔化す」


「…別に誤魔化してないでしょ?なんか今――(凄くムカついたんですけど)」


「大体、恋なんてものは元々"勘違い"でしかない。ヤトは勘違いしていて、実際に中年の男と顔を合わせると恋心も冷めてしまう。キミはそんな彼を"仕方ない"の言葉と"精神論"という言葉で誤魔化して見捨てたのだよ」


「………(イラっ)」


「外見で女の子だから、キミは"中身は関係ない"と言った。結局、キミは"そうあって欲しい"という願望でその女の子のアバターの"中身"に目を瞑った。外見だけで判断したのと何が違う?」


「…………そんなの、その中年の男の人と話さないと分からないわ」


「話してどうなる?その男が"ヤトを本気で好きだ"と言ったところで何の意味がある?外見は男だ。その事実は曲げられない」


「……私、シャドーのこと嫌いだわ」


「構わない。私にとってキミの気持ちなどどうでもいい。好かれているから好いている訳ではない。嫌われていようが、私は好きでい続ける」

 ナナはそう言い切ったシャドーをギロリと睨む。


「私が男だったら?」


「ありえない。キミは女性だ。例えキミ自身が女の子が好きでしかたなかったとしてもその事実はどうにもならない」

 完全に言い負かされた形のナナは不快感を表情に現して、「むかつく、シャドーウザイ、AIのクセに――」と愚痴を言い出す。


「だが、しかし、AIだからこそ分かることもある」


「……何が?」


「ナナの友達とはカイトのことだ。そしてその友達は誰かは――分からないが…その友達は男として産まれてそれを受け入れている。つまり、外見を受け入れて内面を受け入れている」


「………そうね」


「その友達は"正しい"。体は男でも、心は女であると私でも認めることができる。勿論、私になんと言われてもどうにもならないだろうがな」


「…なに?結局私とアーロンの会話のどこが間違っていたの?」

 ナナはシャドーの言葉が否定なのか肯定なのか分からなくなってしまっていた。


「始めからだよ。アーロンがどちらか?それは見れば分かる。肝心なことをキミは忘れている。彼の記憶は本物ではない。つまり、この会話には始めから真実はない」


「…………私が話したのはこの世界のアーロンにだもん」

 ナナのその言葉にシャドーは溜め息を吐く。


「やれやれ、また精神論のような誤魔化しだな。人という生き物はいよいよ面倒だ」


「……私にとってアーロンはアーロンだもん。元のアーロンとか関係ないもん」


 その後、シャドーは人という生き物についてナナに話かけ続けた。が、ナナがその話に耳を貸すことはなかった。


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