2 閉ざされた世界
視界に入る草原。それはテスト期間、最後にログアウトした街外れの境界線の上。
その先に広がるテストでは入れなかったエリア。本当ならこの先には行けないまま、始まりし街で再びLv1からスタートするはずだった。
しかし、それは突如ジャックと名乗るピエロに宣告された言葉で、再びこの場所に現れることになる。
「……ステータス!」
左手を左に振ってウィンドウを開くと、そこにあるキャラクターステータスを選ぶ。
「……Lv――」
LV:19
HP:3158(3158)
STR:78(78)
VIT:43(43)
DEX:52(52)
AGI:65(65)
「…………」
俺が言葉を失ったのはそのステータスを目にしたからではなく。
「…これは――俺だ!」
キャラクターステータスのウィンドウにはっきりとアバターである俺が映っている。その姿は、テスト期間で使っていた顔ではない。
網膜認証や指紋認証に使うあのアバターなのだ。声にしても現実の俺そのものだった。
おそらくはHMCの基礎登録の一つ音声認証機能の設定時に、あいうえお順でわをんまで言葉を入れるのだが、HMCの中にデータが残っているためそれで再現しているのだろう。
その鋭い目つきは、漫画に出てくるとある兵長みたいだと前に誰かに言われた記憶がある。
16にしては少し大人びていると言われる顔立ちに10代の幼さはない。
「どうして…」
それがあのピエロの仕業であることは間違いなかった。
図鑑はロックされ、機能で使えるのはフレンドの項目だけ。
装備を選択して項目のアイテムストレージを選択すると、テストの段階で手に入れた装備が全てあった。
回復用のアンプルも各種残っている。
装備は一度外されてストレージに戻っていたが、おそらくアバターが変わったからだろうと推測できる。
「……早めに装備しておくべきか――」
指でドラッグして装備を付けていく。
武器
1:ローズソード【片手長剣】STR48 HP8%
防具
1:フロントアーマー【鎧】VIT52 AGI-9
2:コルラの腕輪【腕】VIT15 DEX15
3:ミリタリーブーツ【足】AGI30 VIT20
4:暗殺者のストール【頭】AGI5 VIT5 DEX5
装飾
1:コルラの耳飾【アクセサリー】DEX20
2:
3:
その結果、上から黒、黒、黒と黒一色に、腰に赤い鞘の剣という見てくれが悪人のような仕上がりになってしまう。
ストールで口元も隠れて鋭い目つきが際立っている。
明らかに初対面で嫌がられること間違いないな。
街に入った瞬間、不意に"街中で剣を抜けるのか?"という疑問が浮かび、左腰の剣を抜こうとする。
「…抜けた――」
そうして俺はその剣をオブジェクトに振り下ろす。
紫のエフェクトが発生して六角形の赤文字に表記される"破壊不能"の文字。
「ふー……ま、そうだよな」
安心したのは、街中が安全なセーフゾーンであると確認できたからだ。
これで唐突なPvPの発生はない。
もう一度キャラクターステータス開いて装備後のステータスを見る。
LV:19
HP:3158(3411)
STR:78(126)
VIT:43(135)
DEX:52(92)
AGI:65(91)
「どうやら下方修正は入ってないみたいだな」
枠内のその数値は装備の性能込みの数値で、テストの時となんら変わりはなかった。
ホッと一安心してもう一度ログアウトボタンの有無を確認する。が、やはりそこには何もなかった。
その後視線を街中に向けると人が集まり始めていた。
現状次のエリアへ向かうことはできる。が、それよりも今は、情報を収集することにプライオリティーの高さを感じて、俺はその集まりへ向かった。
数百人のテスターが集まって話をしている。
話題はもちろん、自分たちの現状である。
「冗談なのか?」「だったらGM呼べないのはどうよ」「その前にログアウトできないのが事実でしょう」「これやばいわ~」
真剣に悩んでいるやつの中で、未だ半信半疑でふざけている奴もいる。
そんな中で一人の男が叫びだす。
「ヤバイ!ヤバイ!俺死んじゃう!!」
男は20代の茶髪で装備はまだ付けていない。
「俺!十五分たったら彼女にHMC外してって言ってあるんだよ!どうしよう!後一分しかない!」
「死亡確定ー」「乙です~」「どうにか連絡できないのか?」「もう遅いだろ…」
時計が15になった瞬間に男はバタリと倒れて白いエフェクトと共に消えてなくなる。
それは強制ログアウト時と同じで。
「これで死ぬかどうか分かるな!」「ば~か、こっちに知らせる方法がないっての」
結局、その後男が再度ログインすることはなく。
話題は始まりし街へと向く。
「今頃、始まりし街はPvPで死者多数かも」「俺のフレ五人くらい"いいえ"を選択したみたいだ」「テスターだってバレバレだしな」
そう、自身の頭の上に出ている"T"の文字は見えないが、周囲のテスターの上には確りとその文字があった。
フレンド登録していると、その人がどこにいるのか、Lvがいくつなのかが見れるため、確実に"いいえ"を選んだ人もいることが分かる。
「……おい、俺のフレが一人ログアウトしたぞ」「あ、俺も!」「俺もだ…あ!また!」
そのログアウトがどちらなのか俺には答えが出せない。
リアルでHMCを外されたためにそうなったのか、強制的なPvPを街中で仕掛けられてそうなったのか。
街中は戦闘行為ができない。が、PvPでありがちなデュエルは別だ。
相手に剣を当てると、その人物の視界に決闘を受けるか否かの文字が浮かぶ。
仮に"T"の文字を持つ一人を羽交い絞めにして、剣で突き、その後指を操って勝手に認証してしまえば街中でもPKはできる。
「おそらくはHMCを外したことによるログアウトだろうな」
一人の男がそう言う。
男は体躯のガッシリしたこわもてで、腕は丸太のように太かった。
正直、それが本来の姿なら格闘家か何かかと思わせる風貌だ。
「どうしてそう言える?」
俺は咄嗟にそう口にしていた。
「始まって15分だ。殺し合いが始まったにしては早すぎる」
たしかに、男の言葉は理解できる。
ここにいる俺たちも未だ決めかねている。
「だが、このままだといつかはそれが起こるかもしれない。今は疑いを持った者が多数を占めるが、いづれはそれが少数になる」
「そうなると人はもう止まらない」
俺と男は目を合わせて話を続ける。
「今すぐ始まりし街へ行って、Lv1のテスターをこの街まで連れて来る必要がある。でないと――」
「Lv1のテスターたちはそこから自力では抜け出せない。街から出たらモンスターが待ち構え――」
「後ろからは非テスターたちが押し寄せてくる。…後、一時間もすれば街中でテスターを拘束するよう声を上げる者が現れるだろう」
数が少ないテスターが有利なのは現状だけ、半年も過ぎれば非テスターたちに追いつかれて物量で潰されるかもしれない。
「大事なのは今だ。まだLvが低い非テスターたちに"秩序"を与えなくてはいけない」
男の言葉はもっともだが、それはいずれ不満となり膨れ上がって爆発するかもしれないもの。
秩序が成り立つのはそれが自由だからだ。
こんな閉ざされた世界で秩序を作った場合。
不満がいつかはその檻を破って暴れだす。
「必要なのは秩序じゃない…自由であることだ――」
俺の言葉に男は笑みを浮かべる。
そしてこう言った。
与えるさ――"秩序"という名の―――"自由"ってやつをな――




