57 クロウ一家
26番街に入ったBJ。
彼の記憶では26番街の入り口は常にオープンな仕様だったはずだが、3年の間にできたであろう厳重な検問所が目に入った。
「いつの間にこんな厳重になったんだ?」
BJは恐る恐る顔を覗かせる。
「え~と、いらっしゃいませ(?)どなたか――」
そこまで言ったBJは後ろから肩を掴まれる。
「うぉう!びっくりした。…お前――」
振り返ったBJの前には明らかに日本人顔ではない、坊主頭に肌が黒く大柄な男が立っていた。
男を見たBJは目を細める。
「お前は……ドミ!ドミニクじゃなねーか!」
「YO~BJ!お久!3年ぶりだな!昔みたいに~またここらを占めようか!」
「相変わらずのテンションだな~」
BJにとってドミニクは幼馴染という感じ。それさえも、メモリージェネレータによって2人に生成された仮想の記憶なのだが。
「そっちは少し老けたようだな!ところでどうしたんだ入り口で立ち往生しているのか?」
「俺が出て行った時はこんなもんなかっただろ?どう入ったものかってな…」
BJの言葉にドミニクは両手の親指人差し指で長方形を作る。
「これっくらいのお弁当箱――じゃないけど!入場許可証がいるんだぜ!」
「そんなのもってね~よ俺」
ドミニクはBJの胸をトントンと叩くとバックパックからカードを取り出してゲートにかざす。
入り口の赤いランプだったところが緑に変わって扉が開くようになる。
「HAHAHAHA!」
「YO!ドミちゃん!」
2人はアレなテンションで無人の検問所を通って行った。
中に入ったBJはドミニクからクロウ一家とゲイル一家の話しを聞く。
クロウ一家は元々この26から28を縄張りとしていたヴァンパイアハンターの組織で、ゲイル一家は29を縄張りとしている組織。
3年前はそうだったという記憶情報をドミニクはBJへと伝えた。BJもそれを再確認して頷く。
「最近ゲイルのところがクロウの縄張りにちょっかい出してきたんだ。25からの対応が難しくなったからああやって大掛かりな検問を立てたんだが…人手不足でほぼ機械任せになっちまった」
まともに会話するドミニクにBJは少し違和感を覚える。
しかし、そこはBJ――すぐに頭から消し去る。
「クロウ一家は今のところゲイル一家と均衡を保っている。でも、最近現れたゲイル一家の用心棒がやたら強くて…ちょいと28番街辺りは危険地帯さ」
「そいつは…面倒だな~。急いで30番街に行かないと駄目なんだが…」
BJはコレまでの経緯をドミニクに伝える。
「そいつは切迫しているな…。しかし、よくあの24番街の目狐が通過を許したな~驚きだぜ!さすがわBJ!顔パスってやつかYO!」
「取りあえずま~なんとかな~。惚れられちまったのかもな~」
BJの勘違いは放っておいて、ドミニクは彼の事情からクロウに会うことを進める。
しかし、BJはそれを渋った。
彼の記憶上ではクロウはBJと同じくらいの凄腕で昔馴染みの1人。そして、BJはクロウに苦手意識を持っていた。
「BJは昔からクロウのことが苦手だよな」
ドミニクは笑顔でそう言うと嫌がるBJを無理やりに引っ張って行った。
地下鉄の分岐点。駅へと向かう道が奥のメトロへと繋がる道で、もう一つは元は車両の緊急待避所だった場所を現在はクロウ一家のボスであるクロウの住みかに改装している。
概観は洋風の家だが、所々ボロボロなのは銃弾の痕やそれの補修の跡。
それでも、大きさや立派さでは他の家とは圧倒的に違う。
「物々しいのは変わらないな」
「どうしたBJ?道を忘れちまったのかYO~」
「……忘れてなんかね~よ~」
BJはそろそろドミニクのテンションに飽きてきているようだった。
ドミニクが扉を叩いてクロウを呼ぶ。
「YO~クロウ!ドミニクだぜ!早く開けないとボロの扉が崩れちまうぜ!ヘイ!」
ドドドドドン!と大きな音を立てて叩くドミニク。
クロウの返事を数秒だけ待つが、返事がなかったからか再び扉を叩き始める。
「YO~!クロウ!ドミニ――――」
ズガァン!!と轟音が響くとドミニクの顔の隣を何かが通り過ぎ、扉に大きな穴が開く。
おそらくはガンブレイドから撃ち出された弾丸が開けた穴。
「このクソヤローが!返事は口でしろってかぁちゃんから習わなかったか!ハァン!!」
終始笑顔だったドミニクは歯を向き出しにして怒り狂う。
すると、やっとというかなんというか、家主がドタバタと足音を立てて出てきた。というか、扉を蹴破ってきた。
「やっかましいんだよ!クソヤローが!!」
「ダ!!」
扉と一緒に吹き飛んだドミニク。
BJは一歩引いて青ざめる。
現れたクロウはドミニクより薄い黒い肌、適度な厚さの唇黒く長い髪。そして、とても豊満な胸に大剣のガンブレイド。
BJの記憶通りの美人。そして、記憶通りのきつい性格。
「ようクロウ…久しぶりだな~」
「………BJ――」
クロウは薄汚れたタンクトップのシャツに赤い下着姿でBJを一瞥する。
ゆっくりと近づく彼女は大剣を床に落として両手でBJの頭を掴む。
唇をそっと近づけ…。
「3年振りだな!」
と言ってヘッドバットする。
BJは、「ぐは!」と痛みで白目を向く。
フラフラするBJに今度こそ唇を重ねるクロウの行動は、おそらく"ツンデレ"というやつなのだろう。
軽く意識がモウロウとするBJが周囲をはっきりと認識できるようになると、隣にでのびているドミニクに何があったのかは理解できなかった。
体を動かそうとすると頑丈なロープで椅子に縛り付けられている。
「…たく、なんだ?クロウ、どこだ!おいって!こっちは急いでいるってのに――」
ロープを外そうともがくBJの前に白いワイシャツに黒いネクタイ。体のラインが強調されるスーツ姿のクロウが現れる。
「ようやくお目覚めかい?随分久しぶりじゃない…BJ」
「ああそうだな。でも、今は懐かしがってる暇はねー。30番街へ行かなきゃならねーんだ!」
「……あっそ。捨てた女には興味はないっての?こっちはあんた以外に体を許してないってのに」
クロウはBJの膝に向い合うように座る。
鼻と鼻を擦りつけるようにくっ付ける。
「ちょ、ちょっと待てって。捨ててなんかいねーだろ?俺が出ていったのは――」
口にしたBJはしばらく記憶をさかのぼる。
この時、BJは記憶を思い出そうとしていたが、本来その記憶は自身のものではない。
システム的に前もって用意されてある記憶を認識するだけだ。
結果的に数年も前のことなのに映画でも見たかのように思い出すことができる。
「そうだ!俺が出て行ったのは、こっちの真祖のテリトリーにまで迷ってきた子どもを16番街まで送ったからだ!」
確認するようにBJはそう言う。
そんなBJにクロウは間髪いれずに言い返す。
「で、出て行ったきり帰ってこなかったのはどうしてだい?アレか?向こうで女でもできたのか?」
その言葉にBJは、「女なんて――」と口ごもる。
BJの頭にはエプロン姿のベロニカの顔が浮かぶ。
「…やっぱりそうなんだね!この!浮気者!!」
クロウは縛られたBJの鼻をカプリと噛みつく。
「いでで、いで!浮気じゃねーよ」
「なら!本気だってのかい?!正々堂々と話せば許してもらえると思ったのかい!」
今度は首元に噛みつこうとするクロウ。
「ストップストップ!今は30番街に急いでいかなきゃならねーんだ!」
「…どういう訳だい?」
BJはクロウに経緯を話す。
それを聞いたクロウは、「相変わらず子ども好きなんだね~」と笑顔で呆れた。
「なら、ここでこんなことしている場合じゃないだろう」
"それをお前が言うか"という顔のBJ。
クロウはBJのロープを解くとドミニクの頬を叩く。
「いつまで寝てんだい!さっさと起きな下っ端――」
「…う、クロウ…BJ…俺は――ママンの手作りケーキを」
「何言ってるんだ?しっかりしろドミニク!」
クロウに頬を打たれたドミニクはハッとして起き上がった。
「てめークロウ!この淫乱が!よくもさっきはぶっ放しやがったな!」
2人の言い合いに挟まれたBJは、「落ち着けって、いで!足踏んでる~」とてんやわんや。
クロウが、30番街へ向う手助けになってくれることを約束してくれたことでBJは少しだけ安堵する。
しかし、BJの向う先にはクロウと因縁のあるゲイル一家の縄張りが待ちうけていた。




