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55 侵食病


 ミチルは3階屋上でハウンドに囲まれていた。


「ハウンドが4体…でも!私だってヴァンパイアハンターなんだから!」

 腰から剣を引き抜いてトリガーを引くと形状が銃へと変形する。

 打ち出される弾丸がハウンドに当たる。銃声が3回、その内2回は見事屋上のコンクリートにめり込んだ。

 ミチルはトリガーを再び引くが銃声は響かない。


「再装填されてない!?」

 ガンブレイドはそれぞれにリチャージ時間があり、それが弾丸の再装填に当たる。

 ミチルのような短剣はハンドガンタイプで3から6発撃てば再装填が必要。


「グルルルルゥゥゥゥ…」

 撃たれたハウンドも一発で即死するほどHPは低くない。

 ミチルの目にはHPバーは見えない。スコープ付きのガンブレイドを構えるとそれが見えるが、ハンドガンタイプには装着できない。

 飛びかかるハウンドを短剣のガンブレイドで斬りつける。

 1体は対処できても、さすがに複数を相手にできる技量はない。


「きゃー!」

 その悲鳴は銃声で消される。

 二発の銃声で3匹のハウンドがミチルから離される。

 BJの長剣はスナイパータイプ。打ち出される弾丸は貫通力に優れるが連射性能は低い。


 ベロニカの長剣もスナイパータイプだが、消音性能のあるサプレッサーを装備している。

 連射するとサプレッサーが壊れてしまうが、単発撃ちなら姿を見られることなく敵を排除できるアサシンとなることができる。


「ミチル!!助けに来たぞ!!」


「BJ!!ベロニカ!!」


「こっちに来なさい薄汚いワンちゃんたち――」

 ベロニカは装弾数が多く6秒間隔で弾丸を撃ちだす。そうすることで消音性能を保ちながら連続で撃てる。


 BJはガンブレイドを手にハウンドへと駆け寄る。


「うぉら!!」

 振り下ろしたガンブレイドがハウンドに命中すると、その体は結晶へと変化して塵と化す。

 その現象はBCOでモンスターを倒した時と同様のものだ。


 BJはそのままミチルを抱えると一目散に左側へと駆け出す。

 ベロニカはそれを見ると上ってきた階段から降りてゆく。


「BJどうするの?そっちは行き止まりだよ」


「まー見てな!!」

 BJはガンブレイドを鞘に収めると、バックパックからスコープと引き換えにロープを取り出した。

 ロープの端には鉤が付いていて、それを屋上のパラペットへ引っ掛ける。


「だりゃ!」

 空中に飛び出して地上が近寄ってくると右手でロープをきつく掴む。

 地面ギリギリに止まったBJはロープから手を離して地面に降りる。

 ベロニカと合流すると駐車場へと向かい、マンホールへと降りて行く。

 ハウンドはマンホール手前までは追ってきた。が、それより下は真祖のテリトリー外だ。



 道具屋の前までミチルを抱えたBJはそこで彼女を降ろすとその頬を引っ叩いた。

 パチンと音が鳴るとベロニカは、「BJ――」と声をかける。


「どうして叩かれたのか分かるよな?」


「………うん」

 ミチルが肯くとBJはギュッと抱きしめた。


「心配させてんじゃねーよ」

 BJがそう言うとミチルは目から大粒の涙を流して、「ごめんなさい」と謝った。

 それを見ていたベロニカは笑顔を浮かべて、「ほら2人とも、みんなが帰りを待ってるわよ」と言って歩き出した。


 BJたちが暮らすのはかつて貯水槽だった場所。ヴァンパイアハンターではなくモグラの家が多い所だ。

 モグラたちの家が多いといっても交流はほぼない。

 何せ彼らはNPC――決められた行動以外とることはない。


 BJは律儀に隣人のNPCに挨拶をして我が家へと入っていく。

 ミチルもそれを真似するが、ベロニカはNPCを一瞥しいただけ。

 家の扉はトタンを貼り付けた板で引くと鈍い音が響く。


「あ!ミチル!!」

 椅子から飛び降りたミシェルが、駆け足でBJの後ろにいるミチルに抱きつく。


「ミシェル!心配させてごめんね」


「もう!勝手にどこか行かないでよ」

 抱き合う少女たちを見てBJは鼻を掻く。ベロニカはBJと腕を組むとそっと肩に凭れ掛かかった。


 少女たちが互いの無事を確認しあったあと、BJがバックパックから何かの入れ物を取り出す。


「ほれミチル、これが欲しかったんだろ」


「BJ…それ上回復薬!」


「よかったわねミチル。でもBJいつの間にそんなの用意したの?」

 ベロニカの疑問にBJは、「ミチルを助ける前に結構いいジャンクを拾ったんだ」と満面の笑み。


「これでトーマ…治るかな?」

 ミチルはBJとベロニカのそう聞く。

 2人は即答することができない。


「とにかく早くトーマにお薬あげよミチル」

 ミシェルにそう言われたミチルは頷くと左奥の部屋へと入る。

 その部屋にはしっかりとしたベットが置かれていて、その上にミチルやミシェルより少し年上の男の子が寝ていた。

 彼の名前はトオマ。

 トオマは3日前にとある病にかかった。

 病名は"侵食病"と言い、その原因はハウンドに噛まれたこと。

 真祖に連なるものに噛まれた者はステータスに"感染"のデバフが付く。

 それを直す方法はあるが、直さないと数分単位で3から8のダメージを受ける。感染は自然回復しない。

 つまりトオマは現状回復薬を飲み続けないと死に至る。

 しかも、ステータスが見えないため回復薬を頻繁に与えてしまうことになり、BJもベロニカも回復薬やお金が底をつきかけている。


「トーマ。コレ飲んで」


「やーミチル。いつもありがとう」

 表情の暗いトオマにミチルは申し訳なさそうに下を向く。

 トオマが噛まれた原因はミチルにあるからだ。


 BJやベロニカに内緒で真祖のテリトリーへジャンクを集めに行った時、偶然にも真祖の系譜にある眷属に出会ってしまった。

 その時、いたのはミチルとミシェルとあと2人の近所の知り合いの男の子の四人。

 ミチルとミシェルを逃がすために1人の男の子は囮になろうとした。しかし、一瞬で眷属の手で死んでしまった。

 その後ミチルがその眷属に捕まるのだが、急いで駆けつけたトオマによって助けられる。

 その戦闘でトオマは腕を噛まれてしまったのだ。


「ボクなんかのために無茶したら駄目だよミチル」

 トオマは右手でミチルの腕を掴む。


「でも、私の所為で!トーマが…」


「違うよミチル!私の所為でもあるんだよ!」

 ミシェルがミチルの左手を握ってそう言う。



 BJはそんな3人の姿を見て溜め息を吐く。


「どうしたのBJ。溜め息なんか吐いて――」


「いや、どうにか"抗血清"を手にいれないとなって」


「"侵食病"を直す薬ね…。現状メトロだと簡単に手に入らないわよ」


「分かってるさ。でもな、噂で聞いたんだ。"抗血清"を仕入れるヴァンパイアハンターが30番街にいるってな」

 BJの言葉にベロニカは組んでいる腕を強く握った。


「だめよBJ!20番街から向こうは危険よ!絶対に行っちゃだめ――」


 ベロニカがこうも強く反対する"20番街の向こう"というのは、そこから先が秩序が乱れた地域だからだ。

 1から19までは比較的治安がいいが、20から25までは治安がとても悪い。

 一歩踏み入れるだけで身包みを剥がれた上、拉致された挙句に監禁は日常。運が悪いと後ろから連射系のガンブレイドで撃たれて即死ということもある。


「忘れちゃいないか。俺は元々26番街に住んでたんだぜ?」


「そうかもだけど…前に"17番街の住人が24番街で死体で見つかった"とか、"19番街の女が22番街で首輪で繋がれてた"って噂だって聞いたことあるわ!」


「おいおいベロニカ~俺を誰だと思っている?」


「少し間抜けなヴァンパイアハンターよ」

 BJは肩をガクッと落として、「間抜けって」と言う。


「俺は仮にも"元"クロウ一家の凄腕ハンターだぜ?」


「……でもクロウさんが手を貸してくれる保障はないんでしょ?」


「おいおい、いつクロウの手を借りるっつったよ。重要なのは俺が"凄腕"ってところだよ。それに作戦だってあるしな」

 BJはキメ顔でそう言う。が、BJのその顔でますます心配になってしまうベロニカだった。


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