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プロローグ


 廃街となった都市"サイデル"。

 100年前までは人が築いた立派なビル群の集う都市だった。今でも少しだけそびえ立っているが、それでも残骸としか言いようがない。

 人が住まなくなったその都市で息づくのは"真祖"と呼ばれる者たちだ。

 人はその存在に恐れ地上から地下へと生活圏を移した。


 真祖は"始まりの8人"しかいない。

 しかし、人の血を吸う過程で眷族を増やすことを覚える。

 眷属として成るのは"ヴァンパイアハンター"と呼ばれる者たちだけ。

 "モグラ"と呼ばれる人は絶対に眷属にはなりえなかった。


 100年の期間で300と言う数にまで増えた真祖の眷属。

 中には人のまま自身の眷属として扱う真祖も稀にいた。

 それは人権を与えるという訳ではない。人のまま"飼う"ということだ。


 何せ、真祖は人を片手で肉塊に変える力を持ち。その体は特殊な武器以外効かない。

 真祖にとって人など初めから"玩具"の類と変わらない。

 ゆえに、従順な同属にするよりも人として玩ぶことのほうが多い。


 そして、眷属となった者たちも他の真祖と戦わせて競い合わせることが多く。結果、増えすぎるという事もない。



 アトリアン歴2308年。

 真祖たちはヴァンパイアハンターを狩ることを"趣味"としている。

 そして、ヴァンパイアハンターは真祖に連なる者たちを狩ることを"生業"としている。


 地下に広がる旧地下鉄の廃線や下水道と貯水地帯を"メトロ"と呼び生活する人々。

 モグラと呼ばれる人は常に同じ場所同じ行動する。

 どこからともなく武器を調達し、どこからともなく食料を調達してくる。


 ヴァンパイアハンターたちは、モグラからそれらを得るため各真祖のテリトリーへ赴き旧時代の遺物を持ち帰る。鑑定して金銭"ダラー"に換えて日々の糧とする。

 その中でヴァンパイアハンターたちは真祖たちと戦うことがある。が、逃げるので精一杯なことが多く、とてもじゃないが真祖を狩れるには至っていない。


「な~バーさん。20ダラーは高いだろ?もう少しまけてくれないか?」


「回復の小瓶は20ダラーだよ」


 老婆の言葉に男はもう一度繰り返す。


「だ・か・ら!10ダラーにならね~かな?」


「回復の小瓶は20ダラーだよ」


 同じことを繰り返し言う露天の老婆。

 その前で指折り値段交渉をする無精ひげの男は、表情すら変えない老婆に約20分近く睨み合っている。


 もう一度男が老婆に話しかけようとすると、その後ろから妖艶な声の持ち主が呼び止める。


「はいコレ、20ダラーよ」


「毎度、はいコレが回復の小瓶じゃ」


 男の横に現れたのはオレンジ色の髪の女。

 肩や胸元を露出させた女を見た男は、「おい!交渉のじゃますんじゃねーよ~」と残念そうな顔をする。


「呆れた。"モグラ"たちが値引き交渉に反応するはずないでしょ」


「そんなこと分かるもんか!きっと、もう少しで値下げしてくれるはずだったぜ!」


 女は溜め息を吐く。


「もうそろそろ受け入れなさい。彼らはそういう存在なのよBJ」

 BJと呼ばれた男は、「わからねーだろ?」とまだ納得していない様子だった。


「大体、お前が勝手に金払ってんじゃねーぞベロニカ!」


「はいはいはい。こんな所で時間潰していいの?子どもら心配してるんじゃない?」

 ベロニカと呼ばれた女はそうBJに言う。


「心配?仮にも俺はヴァンパイアハンターだぜ?子どもらに心配されるこたーねーよ」

 BJの言葉に笑みを浮かべて耳元で囁くベロニカ。


「この前あたしに助けられたのは~どこのヴァンパイアハンターさんだったかしら?」


「どぅえ!ど、どこのヴァンパイアハンターだ?そりゃ――」

 とぼけるBJにベロニカは人差し指をその鼻に当てて言う。


「ここのおバカさんよ」

 突いたベロニカはBJと腕を組むと、「ほら行きましょ」と廃線址を歩いていく。



 彼らは理解していない。

 ここはBCOに次ぐ仮想現実。その名もVAMPIRE(ヴァンパイア) METRO(メトロ)

 囚われたままのBCOプレイヤーは、この世界でヴァンパイアハンターとして生活している。

 モグラとはNPCのこと。

 プレイヤーは彼らがNPCであるという理解はない。


 そして、"真祖"と呼ばれる者たちがプレイヤーであることも理解していない。

 正確には彼らは記憶を封じられ、新たに役を与えられてそれに成りきっている。

 文字通りの"RolePlaying"である。


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