49 PvP
MALICIOUS GAMEの終了は、5月29日の昼に通知された。
そして、俺たちは転機を迎えている。
同戦闘数の1位が2人。
俺とKJ。
ジョーカーの、「Let's Killing!!」と言う声で俺は強制的に転移した。
見たことのある風景。
そこが、第5エリアのボスフィールドで、最初で最後のKJと共闘した場所であるということは一目で分かった。
KJが転移してくると周りを見渡して呟く。
「懐かしい場所だ」
しばらくしてKJが俺に目を向けると、「あの日以来だ」と言った。
「そうだなKJ」
「まさか、同順位になるとは思いもしなかった」
「可能性がないわけじゃなかった」
「…いや――もしかするとこれは、運命だったのかもしれない」
KJはかつての戦闘をその脳裏に再生している様子で言う。
「あの日この場で戦った時から"いつかこうなるのではないか"と思っていた」
それには俺も同感だ。
「ヤト…私たちは似ている。同じ"正義"を懐く者だ」
「"同じ"…正義ね。俺にとってはまったくの別物だけどな」
「そんなことは分かっている。いや、当然と言うべきだな。むしろ、"正義"という部類ではあるということだ。正義には色々ある。私なら"秩序"…君なら――"暴力"と言ったところかな」
「その理屈でいけば、暴力は"秩序"の部類に含まれはしないか?」
「…そうだな。私は正義という秩序で、秩序という暴力。君は正義という暴力で、暴力という正義。どちらにしても間違いではない」
「………」
KJは右手を俺に向けて差し出すと囁くように、だが、しっかりと聞き取れる声で言った。
「我々が戦う必要性はないとは思わないか?」
その言葉に少しだけ考えて俺は返答した。
「戦わないと終わらないだろ――」
俺の言葉にKJは溜め息を吐く。
「知らないようだから教えておくが、このゲームにもリザインはある」
リザインとはデュエル等で自身の負けを宣言する行為のことだ。
「……それは初耳だ」
「コールすればウインドウが開く。そうやって私は何人か戦わずに済んだ。……どうやら君は戦闘で全てを解決してきたようだな」
「……知っていればそうするようにはしたかもしれない」
「どうだろうね。何せ君は説得が下手そうだ――」
的を射たことを言われ、"確かに説得に成功したことは一度もない"と思い、跋の悪い顔を浮かべてしまう。
「で、どうだろう。君にも一応尋ねておこうか――リザインする気はないかな?」
その言葉に俺は同じく右手を差し出す。
「俺は――KJ、あんたの考え次第では考えなくもない」
「私の考え?」
「報酬で返すプレイヤーのことだ」
それに対し、KJは笑顔で答える。
「……私はLvの高い順に帰還の権利を与えるつもりだ。この世界で生きこの世界を勝ち抜いた者が帰るのは"当然の権利"だと思っている」
それを聞いて俺はそっと右手を下げた。
「リザインはできないな――」
「交渉――決裂ということだな」
KJは大剣にしては少し細いそれを右手に持ち。白い鎧に赤いラインの入った防具の前に構える。
俺が左手で装備をするのは片手長剣のリュドリラス。
青い柄が特徴的なこの武器はユニーク武器でスキルがない。
その代わりに、この武器には他の武器にない特徴がある。
KJと俺は互いにその時を待った。
開始の合図は俺の駆け出しか――それともKJの方だったか。
間合いに入った瞬間に大剣と長剣が火花を再現する。
大剣と長剣の主な違いはリーチとSTR。そして――競り合った時にHPバーが競り合った分だけ削られる。
それを踏まえての競り合い。余裕の表情のKJを少し驚かせてやろうと、リュドリラスのスキルに変わる能力を発動させる。
柄を捻るように回すと、片手長剣の形状が変化する。
それを見たKJは、「トランスフォーム!?」と驚きを隠せない。
リュドリラスの能力は武器形態の変化。
その形はスピア――槍の形状で。俺にとっては素手の次に得意な武器である。
「槍に変形する武器…」
想定通りの驚きをKJから引き出して、それに関して俺は満足する。
槍は突いて良し、払って良し、叩いて良し、リーチも長く、近距離にも対応できる。
現実では頑丈に作ると重過ぎて動きが鈍って、軽すぎると素材によって脆くなる。
しかし、仮想現実では耐久値がなくなるまでは折れない。重すぎるということもまずない。
手元でクルクルと回転させて脇に挟む。それを見たKJは、「使い慣れているようだな」と呟く。
「使い慣れてるなんてもんじゃない。これでも一応は鏑木流槍術を修めているんだが――」
「鏑木流?……聞いたことがないな」
鏑木流は槍術を極めた流派。俺が取り入れた武術の中で唯一"師"に教わって体得した。
マイナーな槍術だが、演舞は今でも人気が高い。
演舞ばかりが知名度が上がり、本質の武術として陰る。が、絶対に日本最強の武術だと俺は認識している。
「このBCOで剣を使わないのは"無粋の極み"なんだろうが…、KJ――あんたとの一戦に"手抜き"は逆に失礼だろうと思ってな」
俺が槍を演舞のように回すとKJは鼻で笑ってから言った。
「…別に手を抜いてもらうのは、こちらとしては望むところだが」
一歩踏み込んでなぎ払うKJ。
それに対し俺の回避――からの攻撃。槍のリーチの長さは大剣では防ぐしか手がない。
大剣を滑るように矛先がKJに牙を剥く。
さすがのKJも手元に伸びるそれを回避できない。
手首に赤いエフェクトが走るとHPバーが減少する。
現実でなら右手の負傷で剣を握ることもできない。が、ここは仮想現実――握れなくなるということは決してない。
「さすがにリーチがあるな――」
「リーチだけと思うか?」
俺個人の意見だが、槍においての利点は拳武との相性がいいことだ。
胴薙ぎを避けられた後の胴突き。
それを防がれるのは理解している。
KJは簡単にそれを往なす。
往なしたKJは驚きを露にする。
大剣は槍と接触したままで動かせないが、俺が左手だけでそれを突き、その勢いに載せて右手の拳を鎧に叩き込む。
「ぐっ!――ふん!!」
さすがはSTR極振り。
大剣が棒切れのように軽々と振られる。
左手に持った槍を使って大剣を足元へと往なし、大剣と槍の上で逆立ちしKJに蹴りを浴びせる。
KJもコレには堪らず体を後ろへと反らす。
だが、それで避けられるのは蹴りだけだ。
蹴り足を反動として、大剣から浮き上がった槍も独楽のように回る。
大剣は地面へとひれ伏し、KJ自身はバランスを崩している。
槍はKJの腹部を数回切り刻む。
回転による反動で体を捻って大剣に着地する。
それだけの攻撃にもかかわらず、KJは冷静に大剣を振り上げて俺を飛ばす。
宙を舞って離れた位置に着地する。そして、KJの表情を見るとなぜか笑みを浮かべていた。
「さすがはヤトだ…仮想現実の体を完全に制御しているな」
そう言って大剣を地面に刺したKJは左手を操作してそれを消した。
「……」
「忘れてはいないか?私の戦闘スタイルというやつを――」
忘れる訳がない。KJは最初こそ大剣を使っていたが、初めてここで戦った時にはそれを装備していた。
現れた装備は長剣。そして、おそらくはその武器のスキルに変わる能力。
極端にいうと若葉マークのような形の楯が現れる。
色合いは対面して左が赤で右が白に3本の赤い斜線が入った見た目だ。
KJが好む組み合わせ剣に楯。前に見たときは防具の楯で、そのスキルはダメージを数秒間10にするというものだった気がする。
「さて、これで私は完全な戦闘態勢に入ったことになるが…」
槍と楯は相性が悪い。楯だけだと槍が優位だが、剣を装備することで槍を楯で防いで攻撃されれば簡単に反撃に転ずることができる。
と言っても、それは現実での話だ。
KJは楯を前面に構えて突進してくる。
槍を楯に対し突き出すと、予想通りに外側へと弾かれる。
楯に往なされた槍は地面に刺さり、右手の長剣が振り下ろされる。
捉えたと思ったKJは笑みを浮かべる。が、それを簡単に回避されて今度は驚きを露にする。
地面に刺さった槍を楯で押したKJだったが、その力を利用すれば簡単に槍と同じ方向へと移動できる。
そうして回避した俺はさらにバク宙して後方へ距離をとる。
両足に力を溜めて腰を深く落として言う。
「鏑木流――奥義」
それは、以前プロプレイヤーに素手で見せた槍術の奥義。
居合いのような構えから一瞬にして間合いを詰めて繰り出される鋭い突き。現実で初めて見たときには自身の目を疑うほどに鋭かった。
「居合い突き―――」
スキルではないそれは、むしろスキルにも見間違えるほどに極めた術。
KJは楯を構えて踏ん張ったものの、衝撃が加わった瞬間に、その体が後方へと押し飛ばされる。
何とか体勢を立て直して地面に足を突いたKJは、元の位置から数十メートルは離れていた。
「まるで車にでも撥ねられた気分だよ」
轍のように足元が抉れて、リアルのように土煙や草が舞う。
KJは、「私も武術を習っておくべきだったな」と呟いて足の汚れを払う。
VRにおいて汚れは時間で消えるものだ。それなのにわざわざ汚れを払ったのは動揺の表れからだろう。
「まだまだこんなものじゃないぞ――KJ」
槍は本来投擲武器としての性能がある。
しかし、投げることは武器を捨てることと同義だ。
だが、あえてそうすることで生み出される戦術もある。
例えば――
「はぁあああ!」
投擲した槍を相手の足元に投げる。
それで相手の行動は大体"予測"できる。後ろに下がるか、何かで防ごうとする。
KJが選んだのは前者。
後方へ飛び退くとその一瞬で俺の行動も決まる。
ステータス上この体は走るだけで投げた槍に追いつける。
KJが着地するより早く槍へと駆け拾う。
虚を衝くには完璧な攻撃手段だ。が、KJもそれなりに考えているようだった。
楯を地面に突きたててその勢いを殺す。そして、楯で土を掬い前方へと散りばめる。
反応できない人間なら目潰しとなるのだろうが、俺にとって目隠しにすらならない。
視認できる土を避けながら槍の間合いまで近づく。すると、思いもしない不意打ちを食らってしまう。
KJがいつの間にか地面に撒いておいたトラップアイテムの"まきびし"。
おそらく楯で勢いを殺すと同時にそれを撒いたに違いない。
簡易スロットにはアンプル以外にトラップも設置できる。
「姑息とは言わないだろ?」
言わないさ、それも戦略戦術の範疇だ。
まきびしで俺の足が鈍る。ダメージはないが、所謂"鈍足化"という状態異常にかかる。
そして、KJの足に装備した防具はおそらく鈍足耐性がついている。
まきびしをものともせず突き進んでくるKJ。
速度重視の突きでダメージを受けると、それがこの戦いでの俺の初めての被ダメージとなる。
「速過ぎて捉えられないのなら遅くしてしまえばいい――」
「その発想は当然だな」
俺自身は相手が速過ぎるということがないから、こういったアイテムには目が向かなかった。が、どうして―――効果は"大"だ。
矛先で地面を突きその場を離脱する。
突きで追撃してくるKJに槍で反撃するが、楯を前に出されて完全に防がれる。
やはり宙に浮いている状態では突きが"軽い"。
そのまま楯で体当たりされると宙に浮いた体が軽く吹き飛ばされる。
思っていたよりもいい動きをするKJ。
受身を取った俺も負けじと槍を振るう。
「鋭い突きだ――だが」
KJの全身が淡く青みを帯びて、俺の渾身の一撃を受けても後ろへ下がることがなかった。
おそらくはスキルなのだろうが、効果がはっきりと理解できない。
「名前だけでも教えておいてあげよう!"不動城壁"と言うスキルだ!」
完全に槍も打撃も楯で防がれて、むしろ攻撃すると反撃でヘルスが削られる。
BCOでここまで対等に戦えた相手はKJが初めてだ。
「どうしたヤト――――笑みを浮かべて」
どうしたもこうしたもない。
純粋に戦いを楽しめることが嬉しい。
「君は途轍もない戦闘狂のようだ」
「……褒め言葉と受け取っておこう――」
俺とKJの戦闘は誰も見ていない。そのはずだった。
何故か誰かに見られているような気がして俺は時折視線を周囲に送る。
おそらくはKJもそれが気になって視線を散らすことがある。
「まったくやりにくい」
「…同感だな――」
KJは楯をフィールドの何もない場所に突き出す。が、どうやら空打ったのか眉を顰めた。
だが、大体の位置は俺の方で捉えていた。
「いつまで覗いているつもりだ!」
無人の空間に槍を投擲するとそれが何かに当たって宙で止まった。
そして、笑い声がその場に響く。
「くくくく、フフフフ。はははは!よく気がついた~」
おそらく透明になって気配を消していたのだろう。声の主が足元からその姿を現した。
「ライツ…ヤトが隙を見せた時に斬りかかろうと思っていたんだけど。ジャジャ~ン!僕様参上!」
現れたジョーカーは、ピエロではなく戦士風の格好をしていた。




