48 最終幕への序章
5月末。
ジョーカーはVRの黒い空間でバットマンと会っていた。
彼はバットマンにヤトの存在を話していない。
それは、ジョーカーにとってバットマンを裏切る行動ではなく、信頼を失わないためにとった行動だ。
バットマンがジョーカーを信頼しているかは定かではない。
「MALICIOUS GAMEも終わって計画は第3段階へと以降します。で?このような重要な時にどうしたんですか――ジョーカー君」
コウモリ男の姿のバットマンは左手を上げて指をジョーカーに向けてそれぞれ別々に動かす。
「…呼び出してこんな事を言うのはアレなんですが――」
見た目の愉快さに反比例するその声の緊張感。
ジョーカーは恐る恐るという感じでバットマンに言う。
「日本サーバーはどれだけ減りましたか…」
「日本サーバーですか?そうですね……4人ですね」
その数字にジョーカーは頭を下げた。
「ごめんなさいバットマンさん!僕がうまくできないばっかりに――」
「…ジョーカー君、そんなことを気にしていたんですか?ノープロブレム!!今回のことは想定の範囲内。所詮BCOは前座ですので君がそこまで気にすることはありませんよ。今後がんばれば問題はないのです」
「はい!バットマンさん!」
ジョーカーがそう返事をするとバットマンは、「ですけど――」と言って首を傾げた。
「一つ困ったことが起きているのですよね~」
「困ったことですか?」
「ええ、日本サーバーの今回のゲームの1位が……なんと―――二人もいるのです!コレは問題ですよ~いやはやどうしたものか――」
それを聞いたジョーカーは"ここぞ"とばかりに声を発した。
「僕に考えがあります!その2人に順位を賭けて争わせるというのはどうでしょうか!」
「…1位の2人をですか~………少々勿体ない気がしますね~。有能な人材が欠けるのはいささか…」
あまり乗り気ではないバットマンにジョーカーは一言言い足す。
「2人の内どちらかがライツかもしれませんよ」
「…"ライツ"――確かに候補の2人ではありますね~。・・・よし!」
そう言ってバットマンはジョーカーに、「この件は君に任せましょう!」と指差す。
ジョーカーは返事をすると密かに拳を握った。
「報酬に関しては置いといて、取りあえずはBCOは終了で次からのタイトルへと私は最終確認しておきましょうかね」
バットマンの言葉にジョーカーは疑問を口にする。
「わざわざ新しいタイトルに移行させる必要があるんですか?」
その疑問にバットマンは静止してジョーカーを見つめる。
「……バットマンさん?」
ゆっくりとジョーカーに近寄ると顔を数センチの距離に近づけた。
じっとそのまま動かなくなるバットマン。
「…………………」
「………」
「興味がおありのようで~なによりです!物語の続きが気になるのですね!ある意味ジョーカー君はこの計画においての主役の1人――」
「…僕が主役?」
「実に人間らしい!いいでしょう!私も脚本を務める身。少しだけ"あらすじ"を君に話してもいいかもしれませんね!」
「……」
「次の舞台では各プレイヤー"強くてニューゲーム"。そして、記憶の一部をとある方法で遮断し新たな記憶で設定を与えます!まさにRPG!」
「記憶を…」
「プレイヤーには人としてその世界で住む住人になってもらい、敵対存在としてとある生き物と日々を堪能してもらうつもりです」
「敵対存在…それはモンスターとは違うんですか?」
「ええ!その存在にはMALICIOUS GAMEで優秀だったプレイヤーたちになってもらうんです!記憶はないが、元はヒーローであり仲間を守ってきた者たちが逆に人を襲いだす構図……スポンサーからの受けがいいこと間違いなしですね~」
「なるほど……で、その敵対する存在というのは――」
バットマンは両手を広げクルクルと回転しながらジョーカーから離れる。
ピタリと止まったバットマンは自身を両手の親指で指すと、「私です!」と言ってみせた。
ジョーカーはその言葉が理解できずに沈黙する。
「ですから、私です!と言ってもこんなコウモリコウモリしたのではなく"真祖"と呼ばれる存在ですけどね。その体はとある特殊能力者でなければ傷すらつけられない設定にしてあります!勿論!性交渉もできるタイトルになっています!子どもはできませんがね!」
「つまり…真祖が子孫を残すために人を狩り、人はそれを邪魔するために戦うということですか?」
「……大体合っています。真祖にとって人は家畜、男は殺し、女は犯す……人のまま玩ぶのか、同属にして隷属させるのかは真祖の好きに行われます」
「それで何が得られるんですか?我々…いや、バットマンさんたちの利益は?」
「利益?そんなの決まっています!コレはショーなのです!存分に人を楽しませ、苦しめ、裏切らせ、愛し、愛され、奪われ、人の人たる根源と起源を見届ける―――」
バットマンはそう言うとジョーカーに指を指す。
「おっとお時間がやってまいりました。私はこれにて…ではでは――」
唐突に消え去るバットマン。
バットマンの意図はジョーカー自身理解できなかったが、彼は一つだけ確信していた。
「今度こそはYATOを葬ることができる!この僕の計画で――」
2077年5月30日。
日本サーバーでMALICIOUS GAMEの順位が発表される。
4位――ヘイザー
3位――アスラン
1位――ヤト
同1位――KJ
ヤトとKJの対戦総数は106戦。
KJは日本サーバーで最もLvの高いプレイヤーだったのが、それだけ挑まれる結果に繋がった。
そして、現れたピエロは言う。
「2人も1位が出たから、ここで決勝戦開催だ~!どっちが勝つのか楽しみだぞ~!」
ケタケタと笑ったピエロの真下。
始まりし街の広場に立っているヤト。
BJ、マリシャ、カイト、その他にもかなりの数のプレイヤーが彼の周りに集まっていた。
対照的に、始まりし街の外のエリアで、1人地面に刺した大剣柄に手を置いてその時を待つKJ。
2人は静かにその時を待った。




