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47 強者共の宴


 互いに紙一重の回避。

 回し蹴りがぶつかり合うと轟音が鳴り響き、衝撃で雨が飛び散る。


 周りのプロプレイヤーもその様子を眺めている。


 始めこそ格闘技の試合に見えた戦いだったが、もうすでに一撃一撃でお互いに相殺して体が弾かれる。


 始まりし街の広場で戦う二人は本来はある中心のモニュメントは、テストサーバーだからなのかそれはない。

 そして、その中心で何度も蹴りがぶつかりあう。


 離れてはぶつかり合う2人。次第にアニメーションの戦闘のように衝撃波と衝撃音が徐々にズレだす。

 

 見ていたプレイヤーも、「これは――仮想だからってできることなのか?」と呟く。

 離れて見ている視点で2人は互角に見えていた。しかし、クラークは思考はそんな状況ではなかった。


 RPS11で常に同じものを出されている気分だ。後出しでワザと同じものを出して勝たないように"手加減"している。


「ッチ!」


 身体の弱点を狙うロシアの実戦型軍事格闘術システマのような戦い方はVRでも友好な手段だが、それは格闘系に特化したタイトルならではだ。

 BCO(コレ)は剣よりに作られていて痛みを生成するペインアブソーバー。今はドゥラジェネレータ・リリバーと呼ばれるそれが低く設定されていて、殴打による攻撃での怯みが少ない。

 完全に人体を再現したVRでなら一撃で勝負がつくこともあるだろうが、このBCOではそれは稀だろう。


 それにしてもYATO――――以前とはまるで別人だ。


 クラークは、以前の圧倒的に敵を倒していくYATOを思い出してそう思う。

 勝利しても無感情なその表情を今でもはっきり覚えている。


「ならコレはどうかな――」


 ヤトの左手が動き出す前にその軌道を遮るようにクラークは左手を出す。


 相手の先手を取って攻撃する"Jeet(ジー) Kune(クン) Do(ドー)"。動きの速さでは武道界最速の攻撃型の武術だ。

 攻防一体のそれをクラークは今回の対YATO戦に練度を高めてきていた。


 左手が防御であり攻撃でもあり。さらに相手の足下へ自身の足を踏み込み、左手の攻撃後すぐに右手が放てる体勢にする。

 高速の連打攻撃を得意とするJKDは、リアルで得られる限界の身体能力で扱っても一瞬何をされたのか分からなくなる。


 確かに左手には当たった感触があった。クラークはそれがヤトの左手であると思い、自身の左手で軌道を逸らしながら顔に拳が叩きこめるはずだった。

 しかし、そこには顔がなかった。


 数秒前には視認できていた顔は、いつの間にか左手でできた死角によってクラークには見えない。

 離れて見てみていれば何でもない単純な動き。

 ただクラークより早く左手の動きを見切っていた。


 正確に言うと左手は最初からフェイク。それに対して動いたクラークの左手にヤトは右手を当てた。それをクラークが勘違いした。

 そして、ヤト自身は全力で左の胴回し蹴りを放つ。しかもどれだけ鍛えてもリアルではできえない速さ、鋭さは、見ている者からしたら瞬きで見逃すほどだった。


「がっ!」


 死角からの攻撃をモロに受けたクラークは、踏ん張ってはみたものの、その超人を軽く超えた蹴りで吹き飛ばされた。

 街中で破壊可能な物を吹き飛ばしながら建物に激突してようやく止まる。


「あの"C"が素手で吹き飛ばされたぞ――」


 すでにギャラリーと化した他のプロプレイヤーがそう呟く。

 クラークはすぐに立ち上がってヤトへと向かう。


「フェイクにかけられるなんてあまりない経験だ。JKDを習っていたのか?」


「勿論。ジークンドーは強者にしか扱えない地上最強の武道だ。先手を取られたら負けるのが格闘技なら、先手を取らせないのがジークンドーだ」


「強者にしか扱えない…同意見だな。同格の者同士が使ったらとても地味な戦いになってしまう。相手が強いと必ず負けてしまうのがJKDだ」


「ジークンドーを扱って強者たり得るのは常に最強の者だけだ。しかし、同格のジークンドー使いでも"後の先"を体得していれば、フェイントさえ使えば後手になりながらも先手をとれる」


 まんまと餌にかかった。そう言われている気がしてクラークはイラついてしまう。

 戦いにおいて短気は損気。冷静に冷静にと心を落ち着かせる。


「と言っても…同格とは言えないがな――」


 ヤトのその挑発にクラークは完全に乗せられる。

 飛び出して下段蹴りと左手の同時攻撃。

 それを鏡のようにし返すヤト。


 次第に手数を繰り出して攻撃するクラーク。

 ヤトは常に回避と相殺でそれをブロック。時おり死角から蹴りや拳をクラークに叩き込んだ。


「ぐっ!」


 どうしてだ。こっちの攻撃にもフェイクを混ぜている。だが、完全に読まれる。死角から攻撃されるのが分かっているのにガードすらできない。


 集中を増してクラーク自身今までにない攻撃を先手で出していた。

 だが、それは彼の勘違い。

 先手と言うのならヤトの攻撃が先に当たっていることの説明がつかない。


「…クソ!」


 足を払おうと水面蹴りをするクラーク。一瞬体を低くした瞬間にヤトを見失う。


「な!」


 どこへ―――


 前にいないのなら後ろにいるはずだ。その判断から後方へとバックブローを放つ。

 そのバックブローも空を切って、いよいよヤトがクラークの読みからも消える。


 現実の格闘戦で絶対にそこにはいないであろうという場所にヤトはいた。

 クラークの頭上。宙で体を捻って回転するヤトは、そのまま右足をクラークの頭上めがけて振り下ろした。


 踵落としが当たると同時に地面とクラークの頭が激突する。

 現実でなら即死だろうが、VRではすぐに起き上がれる程度のダメージしか入らない。

 映画のワンシーンのように回転して起き上がるクラーク。


 ヤトは着地と同時にクラークに右の中段蹴りを放つ。

 クラークはそれを視覚で捉え手で掴もうとする。が、その右足は途中で起動を変え踏み込みへと変化した。


 フェイク――


 そう思った瞬間にクラークは完全な防御姿勢に入る。

 右足が踏み込みならヤトの攻撃は左足での蹴りに限定される。


 その時クラークの脳裏によぎったのは、"なぜ自分は身構えているんだ"という疑問だった。

 先手を取るスタイルの自分が、回避ですらないそれを選らんだことが理解できないでいた。


 理解できないまま、ガードの上から何かが当たる。威力は無いに等しい。

 クラークは自身の手で死角になった右側に尋常じゃないほどに恐怖を感じた。


 恐怖を感じながらそれが"恐怖"であるという自覚が無い。

 痛みが抑えられている仮想世界でありがちな感覚麻痺。


 クラークは自身のHPバーすら頭から忘れていて、すでに赤く点滅しているのに気がつかない。

 恐怖から彼がとった行動はガードしたまま後退することだった。


 後ろへと飛び退いたクラークはその視界にヤトを捉えた。

 棒立ちではない。右足と左足の両方に全力の力が溜められているように見えた。


 その構えは"居合い"のように見える。


「鏑木流――奥義」


 突進。その速さはおそらく視覚では捉えられない。


 衝撃でビリビリと仮想空間にノイズが入る。


 クラークがエフェクトになったところさえ見えなかった。


 ヤトは小さく、「居合い突き」と呟くと拳を鞘に収めるが如く収めた。


 ただの鋭い突きで移動しただけで背景が所々黒くエラーを起こしている。

 その事実にプロプレイヤーたちは開いた口が塞がらない。


 そして、無言で一瞥するヤトに彼らの戦意はすでにない。

 徐に1人のプレイヤーが自身の剣でその身を貫く。


 ログアウトのないBCOにおいて彼らがその場から逃げるにはそうするほかない。


 最後の1人がエフェクトへと変わると、モニターの前のジョーカーは拳を机に叩きつけた。


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