46 VSプロプレイヤー
モニターの前で不敵な笑みを浮かべるジョーカー。
ジョーカーがBCOに干渉できる権限は、"モンスターのステータス"と"プレイヤーへの会話"と、ある程度の"システムロック"だけである。
日本サーバーと同じく、テストサーバーでも雨が再現されている。
見た目は始まりし街に見えなくもない。というか、そのものであるのかもしれない。
そこにいる人数は8人。
ジョーカーの依頼によって集まったプロプレイヤーたち。
そして、口元が隠れる黒いファンタジーコートを身に纏ったヤト。
今回ヤトが制限されているのは以前と同じで、始めから強制的に素手の戦闘を強いられていた。
強いられるといっても、ヤト自身それにより都合が悪くなるという訳ではなかった。
しかし、前回のように簡単には倒されてくれないのがプロプレイヤー。
「もらった!!」
水平切りを回避したヤトが宙に舞っているところにスキルを発動するエルフ風のプレイヤー。
振りかぶられた歪剣を空中で回避する方法は一つ。
歪剣がその身に触れる寸前でそれ自体を基点として、蹴るか殴るかし自身を移動させる。
圧倒的な反射神経がなければできないその芸当。そんなことができるのはヤトを置いて他にはいない。
地面に着地するヤトに大刀を振るう赤鬼のようなアバターのプレイヤー。
「はぁあああああああ!!」
それが振り下ろされるより早く間合いを詰めたヤト。
左足で踏ん張ると地面のテクスチャーが荒れ。そしてその足を軸に肩を大刀を振るうプレイヤーにぶつける。
触れただけに見えたその瞬間。見た目以上の衝撃で吹き飛ぶプレイヤーは、街中の端へと叩きつけられて倒れる。
「八極拳の寸勁を肩でやっているのか…」
打撃だけで色々な武術を繰り出すヤトをじっくりと、冷静に観察しているプレイヤーが一人いた。
金髪に赤い道着を着ているそのプレイヤーは、他のプレイヤーが一斉に戦うのを1人眺めている。
「眺めているだけなのか"C"ともあろう人が――」
立ち上がった赤鬼のようなプレイヤーがそう言って金髪にの男に近寄る。
「…俺は後でいい。今はもう少し観察していたいんだ」
「観察か……アレはチートにしては正面から戦っているように見えるんだが」
「ああ、アレはチートじゃないだろうな。しかし、それはどうでもいいことだ。敵は強い方が戦い甲斐があるからな」
クラークは、そう言うと笑みを浮かべるが、内心ではふと疑問に思ったことを考えていた。
俺が戦った時よりもずっと強くなっているかもしれない。
彼がそう思うのも無理はない。彼が戦ったのはAIの"YATO"で、目の前にいるヤトはそれとは別なのだから。
そして、さすがのプロといえども、このBCOのアシストなしの環境が戦闘での足かせになっていた。
「アシストがないのはいたいな。他のタイトルでなら、素手相手にリーチのある武器で負けることはおそらくないはずだ」
赤鬼の男がそう言うと、クラークは笑みを浮かべて「どうかな」と言う。
「あのチートプレイヤー…おそらくまだ本気を出してはいないだろうな」
「な!…アレで手を抜いているというのか?」
鮮やかな青い鎧に長剣を装備した男が、ヤトに片手で投げられて地上を仰ぎ見る。
その瞬間に低い位置にある頭を蹴り飛ばすと、風車のように体が回転して地面に激突する。
その様子を目の当たりにした赤鬼の男は、「……チートよりも凄いぞ」と目を丸くする。
「いや、あれは"チーター"だ。それも存在そのものが――」
「存在が、チート…」
赤鬼の男は恐怖、もしくは"畏怖"を感じたのか表情を歪める。
左手の操作でアンプルを出してヘルスを回復すると大刀を肩に担ぐ。
「…さてと~もう少し粘ってみるかな――」
「ふっ…前座としてはもう少し粘ってくれれば攻略法も見えてきそうだ」
クラークがそう言うと赤鬼の男は左手を上げてヤトへと向かって行った。
ヤトは常に棒立ちで構えをしない。というよりも、彼にとってはそれが構えなのだ。
低く構えても戦える。が、それは攻撃手段と防御手段がとれるというだけだ。
対武器にもっとも適した初手は"回避"だ。
「だぁあああ!」
黒い拳法着の男が連続的な打撃を繰り出す。
それを一つ一つかわしていくヤト。
左手で男の視線を遮ると一瞬だけ死角が作られて突きが鈍る。
視界前方を蹴り払いヤトに攻撃する男。
しかし、そこには既にヤトはいない。
時計回りで男の背後へ回ったヤトは水面蹴りで転がせ、宙に浮いた男をその反動で蹴り上げる。
蹴り上げられた男は衝撃で、「かはっ!」と大口を開いた。
そこへ大刀を持った赤鬼の男が突撃する。
ヤトは再び突っ込んできた鬼の肩に左手を当てて攻撃と突進を同時に止める。
止まった赤鬼の顔を右手で掴んで、肩と顔とで転がせて地面に叩き付けた。
叩きつけられた赤鬼。だが、そこでヤトの腕をガッシリと掴む。
ニヤリとヤトの手の平で覆われた顔の口元が笑む。
「セイアァァアア!!」
ヤトの背後からエルフ風の男が襲いかかろうと歪剣を振り上げた。
下から押さえられたヤトはその瞬間絶望的に見えた。
「……やれやれだ――」
そう呟いたヤトは現実でなら不可能な、寝ている人間を片手で頭を掴んで持ち上げると、エルフ風の男に向け突き出す。
赤鬼の男は、肩から腰にかけて歪剣で斬られてエフェクトへと変わってしまう。
「FFの判定はあるようだな……といっても、仲間という訳ではないんだろうが――」
ようやく1人減ったことでクラークは、「そろそろ俺の番だな」と言って前に出た。
金髪に赤い道着はヤトもどこかで見たことのある組み合わせではあった。
男のステップからして他のプロプレイヤーとは一角次元が違うことを察するヤト。
「かなりの使い手だな――」
「お前は"異常"な使い手だな」
そう言ってクラークは両手を広げて、「このスキンに覚えはないか?」と問う。
「……昔のゲームにそんなのがいたかな――多分」
「そうか、覚えていないか――」
ヤトが覚えていないのではない。彼はクラークのことを知らないのだ。
「まー昔の話はよそう。手合わせすればそれで思い出してもらえるかもしれないしな」
クラークはそう言って、ヤトと同じコンバットグローブを握り締めて中段に手を構える。
「次元の違う戦いをしようじゃないかYATO」
互いに飛び出した2人の拳が頬を掠め、それが剣の傷のように赤くエフェクトで再現される。




