表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/102

2 TUTORIALⅡ


 チュートリアルも中ほどに差し掛かると漸く戦闘が始まった。

 スライム相当のモンスターであろうザコ敵に、Lv1の俺がHPを削りきるまでには3回~4回の攻撃が必要だった。

 システムアシストの付かない普通の攻撃はよくて3~5のダメージが入る。試しに敵の攻撃を受けて見て驚愕する。

 HPは10分の1も減らないものの、自身の体に起きたことには驚かされた。

 VRMMOに必須なシステム――痛みを和らげるそれがかなり甘く設定されている。

 リアルを求めるゲーマーにとってこれは致命的な幻想要素となる。敵の攻撃を受けて痛みを感じないなんて世界は、リアリストにとっては苦痛に近いのではないだろうか。

 テスト段階だから甘く設定しているならまだ納得はいくが、これが正式なサービスに活かされた場合は即落ち必至だろう。

 要改善の旨をGMに報告することを心に留め、俺は武器のスキルを使ってみる。

 剣を水平に構え、頭で念じる。体が何かに押されてモンスターに突進すると、右手の剣が白いエフェクトを放って次の瞬間にはモンスターを貫く。

 ダメージ33の赤文字とSTRIKE SLASHの文字が効果音と同時に表示される。やはりそれには高揚感がある。

 今はこの片手長剣なる剣で、皆が等しくストライクスラッシュのスキルを使用しているが、将来的には世界に一つだけの誰も知らない武器で、誰も知らない自分だけのスキルを使って敵を倒す。

 そんな姿を想像すれば、ゲーマーならこれに高揚しないはずはない。


 戦闘のチュートリアルも終盤。

 紫のエフェクトと同時にNPCが現れる。

 女の姿のそれが現れると何故か"ここを触って下さい"と矢印が表記される。

 NPCの胸に表記された矢印に思わず困惑する。

 GMのジョークなのだろうが、例えNPCと言えど、その胸を揉むなんて事をチュートリアルで要求されるなんて思いもしなかった。

 ゆっくりと優しくそれをわし掴む。ハラスメント警告の後NPCによる鉄拳制裁。

 こうなることは予想していたが、その後の視界に浮かんだ文字には少し苛立った。

 "警告:あなたの触り方ではこの女性は満足しませんでした。残念!"

 その後、そのNPCは片手長剣を手にとって、このタイトルのもう一つの特徴を知ることになった。


 スイッチは他のタイトルでもなんども経験した複数人による攻撃手段。スイッチのコールから繰り出される連携攻撃はPTを組む上での強みと言える。

 ダメージに加算されるボーナスも低くはない。

 このタイトルに含まれるチェーンの意味が漸くここにきて初めて現れる。

 NPCの女がスキルを発動した時、視界にCHAIN(チェーン)の文字が浮かび、その瞬間に自身もスキルを放つ。

 この時、CHAIN!の文字が大きく宙に表記されて、スライム相当のモンスターに45と46の数字が何度も表示される。

 発動後にTOTALというダメージの総量が表示され、412の文字が浮かぶ。

「これが"チェーンスキル"――」

 通常スキルを大きく上回るダメージ。これがあれば簡単にクリアできるのではと思わせるほどのもの。

 しかし、そんな高威力のチート技が簡単に発動するはずなかった。

 前提でPTであること、能力値の各ポイント誤差の総合が15P以内、互いが同系の武器であること。

 むしろ、もう"シンクロスキル"と言ってもいいほどだ。

 これだけ見てもなかなかに縛られた条件下だと思う。さらに、これに加えて一番厄介な項目。


「"関連のある二種類のスキルのみで発動可"……このBCOにどれだけスキルがあるのかは知らないが、天文学的数値になるんじゃないか?」

 このチェーンスキルは初期でこそ扱えて、強くなるほどに条件がきつくなる。初心者用の必ずホームランが打てるバットと性能は一緒。

 特訓してステータスをあげてた時にはもう振れないバットになってしまう。

 そうと分かれば俺には無用な代物である。

 普段から協調性に欠ける俺は望んでソロになることが多い。

 数多あるVRMMOを経験した結果、社交的にって奴がどうにも肌に合わないらしく、諦めてしまったことは否めない。


 チュートリアルを終え、早速モンスターとの戦いを始める俺は一人転移ポートへと向かう。

 それからアラームが鳴り、ログアウトするまでの時間で、Lvは7にまで上がっていた。

 その日は、他のVRMMOのイベントに参加するつもりでそのアラームをセットした俺だったが、ゼリーを夕飯代わりにトイレを済ませて再びBCOへと向かった。

 VRMMOに入り浸るのは俺にとって日常だが、テスト段階のゲームに他の時間を割いてログインしたことは一度もなかった。

 イベントもない、現状優先度の低いその世界に再度来た理由は、テスト段階でしか手に入らない装備の情報収集。

 これも、テストが終わって正式に始まった瞬間、一月ぐらいで役に立たなくなることが多い。

 しかし、この世界には同じ武器防具は存在しない。手に入れておけばもう誰もそれを得られない。

 逆に言えば、誰かに取られたらもう手に入らないのだ。

 それらの情報は正式オープン時に役立つ。


 こういうVRMMOのドロップは、モンスター一種類に付き一個の固定ドロップがあるのが普通。

 初期に出会ったトリンボーというモンスターはいかにも武器を落としそうになかった。

 経験値を稼ぎながら"こいつだ"という奴に出会うまで4時間費やし、Lv12になった俺はマジロンなるアルマジロを凶暴化させたような、その赤いモンスターを狩って狩って狩りまくった。

「これで!23体!!」

 一時間弱過ぎて23体目を倒した時に軽快な効果音でレアドロップが表示される。

 この時ばかりは嬉しさで笑みも零れた。

「スクワルス……片手長剣、STR30、VIT0、DEX2、AGI-4……スキルは―――」


 スキル名:【ヴォーパルスラッシュ】


 リポップしたマジロンにそのスキルを試しに放ってみる。

 スラッシュというだけあって、構えは突きよりも斬るという感じの姿勢で駆け足と同時に、背中で何かが爆発したかのような轟音と共に剣が赤く閃光を放つ。

 VORPAL SLASHの文字が軌道に描かれると、マジロンの頭上に233と赤い文字が浮かぶ。

 効果音もグレードアップしていてついつい声を上げてしまう。

 ストライクスラッシュと同ランクであろうそのスキルは、おそらく初期の数多くあるスキルであることは当然なのだろうが、その体感の迫力は使った者にしか理解できない。

 その後もマジロンを狩り続けたが得られる物はなく。あとはモンスター単一に対して、各プレイヤーに別の名前の同じスキルの武器がドロップするかしないかを検証してみたい気はしたが、その検証は現状ソロである俺には縁のない試みだった。


 テスト期間最終日。

 俺はいつものように一人黙々とモンスターを狩っていた。

 Lvはテスト期間で決められた上限はなく。が、かといってすぐにLvが上がるなどということでもなかった。

 現状今いるフィールドは制限があり、戦えるモンスターも決まっている。

 得られる経験値は、Lvが上がるたびにそのモンスターとのLv差で変化するタイプで、現状最強の敵でもLv17でしかない今では、プレイヤーがLv19になった時点で1しか経験値が得られない。

 それでも人が減る気配はなく。それがドロップ目当てであるのは明らかだった。

 俺がフィールドの端でこそこそと戦っていると一人のプレイヤーが話しかけてきた。


「おいあんた、ローアントから何かドロップしたか?」

 情報を得たいならもう少し会話をするものだが、直球な質問からして初心者だろう。


「………特に何も――」


「…そうか、ありがとな――」

 そう言って男は去って行った。

 なにが目的だったのかは分からない。ただ俺は正直に答えた。

 数時間後、ローアントからアイテムがドロップすると俺はその場から立ち去る。

 その後、大体のモンスターからどういった武器がドロップするのか把握できたためログアウトしようと思った。

 けど、あの男が今まさにローアントを狩っているのではないだろうか?正直に教えてやろうかと思い、迷った挙句にあの場所へと足を運ぶ。

 そこには、二十人規模のレイドでも組んでいるかのようなプレイヤーがローアントを狩っているではないか。

 その中の一人が俺に近づいてきて言う。


「悪いなここは今、俺らの狩場なんだ」

 俺に質問した男だった。


「……なるほど、なるほど――」

 俺は不敵な笑みを浮かべる男に背を向けて、その場を立ち去りログアウトした。

 もし仮に、単一のモンスターから別の武器がドロップしないのなら、彼らはこれから数時間あのローアントを狩り続けることになるだろう。

 ベットの上で目覚めた俺は軽く鼻で笑うと、テスト期間で得たデータをHMCの領域に保存する。

 テスト期間はもう数時間で終了。

 次にBCOにインするのは8日後になる。



 8日はとても長くて、勘が鈍らないように他のタイトルにインするも、戦闘時に常時システムアシストの入るものばかりだったため、逆にますます勘が鈍りそうだった。

 BCOに近い環境はシステムアシストのかからない仮想空間。つまり、指紋や網膜認証のための空間が一番それに近くて、来る日も来る日も手に何も持たない状態で剣を振る動作をして過ごした。

 BCOの販売は午前0時ジャストに開始され、2万数千のフルダウンロード版を購入し、インストールを開始する。


「オープンは11時からか…」

 タイトルがマイナーなのか宣伝の質が悪かったのか、VRMMO関連のニュースにBCOの名はどこにもなかった。


「よほど自身があるのか、それともサーバーに不安があるから人数制限をつけたのか」

 正規版のダウンロード総数が1万できっかり止まった。日本国内で1万人だけでオープンするタイトルは旧世代のタイトルぐらいしか思いつかない。

 全五大陸といっても、始まりし街のある大陸だけでも六つのエリアに分かれていて、最初のエリアには二十体のボスモンスターがいた。

 テストの時はまだ一体のボスモンスターとしか戦えなかったが、正式にオープンすれば一つの大陸で各エリアで約20のボスの中からキーになる数体を倒さなくては次のエリアへ進めない。


「あと4時間…」

 PiPooon!家の呼び鈴がなると勝手に端末に訪問者の声が入ってくる。


「お届け物です!」

 家族の誰かの荷物だろうと無視していると、その運送業者は俺の名前を呼ぶ。


「アーツ様よりお届け物です」

 アーツ――その名前はBCOの開発元の会社名。

 こんな時間に開発元から何かが届くなんてことがあるのかと疑問を持ちながらも受け取りに行く。

 受け取ったそれは片手で持てるほどの大きさで。本当は1日前には届いていたらしく。

 中を開くとそこには小さな箱が入っていた。

 さらにそれを開くとHMCと連結できる仕組みのパーツが入っていて、説明書には「セキュリティーアタッチメント」とカタカナで書かれていた。

 BCO独自の干渉閉鎖装置らしく、電波阻害の対策のための外付けパーツなのだそうだ。


「……珍しいな、こんなのをタダで送ってくるなんて…」


 実際にHMCに干渉する妨害電波を嫌がらせで発している人物が逮捕されたケースもあり、俺は疑いも持たずにそれをHMCに取り付けた。


「あと3時間か…」


 その時の俺は、その小さな外部ハードが人生に大きな影響を与えるなどということは知る由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ