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40 Joker


 2077年4月22日


 男はMALICIOUS(マリシアス) GAME(ゲーム)をモニターの前で観戦していた。


 男がジョーカーとしてこの狂った行いをするに至った理由。

 それは、彼とVRの関係がそうさせたのかもしれない。


 彼は生まれてまもなく"視覚失認症"という脳障害と診断された。

 比較的まれなこの障害は失認症の一つ。普段見慣れているはずのものが障害により役割や用途とを結びつける機能を失ってしまう。

 頭頂葉、側頭葉、後頭葉このうちのどれかを損傷することで起こる失認症は、どの葉を負傷するかで症状に違いが出る。


 彼の場合、後頭葉に障害を持ち、親しい人の顔、普段手にするフォークやナイフなどその辺にある当たり前なそれが、見えていても認識することができない。

 この障害を"視覚失認症"と呼ぶ。


 そんな彼がFDVRに出合って抱いた感情は"怒り"だった。

 悪いことをしたわけでもないのに、この障害のせいで彼はVRの世界でも"不適合者"として弾かれた。


 何が"誰でも何にでもなれる"だ!


 彼はVRでも彼以外の何者でもなかった。

 悲観して怒り狂った彼は、違法MODをVRへ流し出した。

 それが嫉妬から来た行動か、恨みから来た復讐かは彼さえも分からなかった。


 彼がその行いを続けているとある日それが届いた。

 メールではなく、視覚データだった。

 視覚データはVR内でないと確認できないデータ。


 彼の部屋にもそれなりのFDVRの機器はあった。

 "不適合者"であってもVRに入ることはできる。

 それゆえ彼はそれを捨て切れなかった。


 彼はHMCを被るとその視覚データを見るためにコールした。

 仮想世界に入るとデータはすぐに再生された。

 表示されたアバターはコウモリ男の姿をしていて、本人は"バットマン"と名乗った。


「やぁ、キミがジョーカー君だね。私はバットマン――」


 バットマンの話す言葉は彼にとって魅力的なことだった。

 自身の存在理由の定義を示しているとさえ思えてしまうほどに。

 そうして彼はこの狂った行いに手を貸した。


 BCO日本サーバーを担当した彼は、BCO内のモニタリングと内部への干渉を行い続けた。

 しかし、プレイヤーの減少ノルマがうまく進まなかった。

 そのため、チート級モンスターへのプレイヤーの接続を行った彼はバットマンに呼び出された。


「予定にない段階でのプレイヤーの接続……ジョーカー君。"組織"はキミの事を酷く怒っています」


 バットマンの言葉に彼は、"ここでも俺は不適合者として弾かれるのか"と思った。

 しかし、バットマンは彼に言う。


「ですが、大いに結構!私はあなたがした行いは間違っていないと思います!ノルマ達成に奮闘する…実に!日本人らしい!ジョーカー君!キミの行いの全てをこのバットマンが肯定しますよ!」


 彼は救われた気がした。

 この時に、彼の中でバットマンの存在が大きくなったのだろう。

 バットマンの満足できる舞台を演出することが彼の使命だと思うほどに。


 そして、そのバットマンを悩ませる存在が現れた。

 日本のサーバーからのシステム干渉。

 その原因はおそらく1人のプレイヤーで、そのプレイヤーが持つ権限がその原因だと知った彼はどうにか探そうとした。


 日本サーバーに干渉できるといっても内部の映像を見ることはできない。

 ボス戦等の戦闘ですら映像では見ることができなかった。

 それは、BCO自体が組織の認識では、"優れたプレイヤー"を選別する"篩い"でしかなかったためである。


 どこで誰がどのモンスターと戦ったか、どのプレイヤーのLvがいくつか、プレイヤーのステータスと所持アイテム。

 彼の知れることはその程度で、とてもじゃないがモニター越しでは探せなかった。


 痺れを切らした彼はBCOにフルダイブしようとHMCに手を伸ばした。

 しかし、そこには"注意"の文字が書かれた紙が何枚も張られていて、それを張った自身がどうしてそんなことをしたのかを忘れていた。

 彼はしばらく悩んだ。その紙の意味することを。しかし、よく分からないまま彼はその紙を取り除いて捨てた。


 彼が自身に警告したのは、HMCに付けたBCOに接続するために必要な外部パーツ。

 それを付けなければBCOには接続できない。が、それを付けて接続してBCO内でプレイヤーが死亡すると、その外部パーツでリアルでも死んでしまう。

 そんな重要な物が付いていることすら、彼は障害で認識できなくなっているのだ。


 結局彼はHMCを被ることなく、再びモニターの数値を睨みつける日々に戻った。


 そして、MALICIOUS(マリシアス) GAME(ゲーム)の開始。


 対戦の映像がモニターで確認できるそれで、この日彼はそのプレイヤーを見つけた。

 組織の中でもそのプレイヤーの戦闘を見ている者はまず彼しかいない。


 6サーバーで同時に行われる戦闘の数は60。さらに、申し込みの多いプレイヤーは頻繁に戦闘が始まる。

 おそらくは韓国やロシア、アメリカのプロプレイヤーたちがその枠に入るだろう。


 彼はモニターの中で黒い剣を振るう男のプレイヤーネームを呟いた。


「ヤ……ト――見つけたぞ!VRCDのイヌ――」


 彼の存在理由とその定義。


 彼=ジョーカー=恐怖=死


 それを示すため彼は動き出す。


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