39 秩序の代行者
「この者たちの罪を我々が罰するのは必然である!!」
「なんだ?」「オーダーの連中だ」「オーダーのクラウだ」
「彼らの罪は重い!彼らの行いは全てが悪である!!」
「俺らが何したってんだ!!」「放しやがれ!」「こんなの横暴だ!」
人だかりの中心にオーダーのクラウとその部下らしき男たち。
テスターや非テスターの集まったそこに、拘束系のアイテムで縛られた5人の男がいた。
俺とBJはその光景を見て、なにがどうしてそうなっているのかをすぐには理解できなかった。
「おいおい、どうしたってんだ?」
知り合いらしき他ギルドのメンバーに話しかけるBJ。
「BJさん――よく分からないんですが、オーダーの人が突然あの人たちを街中で捕らえてここまで連れて来てしまって」
しかし、現状説明には不十分な回答しかえられなかった。
「この者たちは罰しなければならない!!―――」
「ちょっと失礼するぜ――」
BJは人ごみを掻き分け前へ出た。
「キミは…ファミリアの…何のようです?」
「何の用もくそもねー、一体何してんだ?」
「見て分からないか?"公開処刑"だよ」
BJはクラウの言葉に眉を吊り上げる。
「"処刑"とは穏やかじゃねーな!そいつらが何をしたってんだ?」
「彼らの罪か?…いい機会だから教えておいてあげよう。キミたちの傲慢な考えが彼らのような"クズ"を生んだんだ」
「は?…どういうことだ?」
「マリシアスゲームでキミたちはLvの低い非テスターを帰還させると言っているようだが、そのLvの低い非テスターが彼らのことだよ」
クラウはそう言うと膝を突く5人の内1人を蹴り飛ばす。
「自分たちが帰れると知ったこいつらが何て言ったと思う?」
「……さーな。なんて言ったんだ?」
「こいつらはこう言ったんだ―――"攻略組みって威張って死んでった奴らは本当に馬鹿だよな"――とね」
その言葉に元攻略組みであるオーダーのメンバーが吠える。
「俺のダチは!攻略組みでこの世界から皆を救うために戦った!……そのダチは死んじまったが――それを馬鹿呼ばわりされて黙っていられるか!!」
装備した剣を縛られた男の足元に振り下ろす。
その剣が一度でも縛られた男に当たれば、Lv差がある以上は一撃でそのアバターが散ることは確かだ。
「BJ君。キミは攻略組みではなかったから"そんなことで"と思うかもしれない……。しかし現にこいつらは笑ったんだ!この世界から全員を助け出す為に戦った勇者を!死した者たちの骸に唾を吐いた!!」
その細身には似つかわしくない大剣を振り上げるクラウは、ゆっくりと腹の出っ張った男に振り下ろした。
「やめぇぇええ――――」
赤いエフェクトを放ち飛散する男であったそれがBJに降り注いだ。
「――てめぇええ!!」
BJは腰の剣を抜こうとする。が、オーダーの他のメンバーが残りの4人に剣を向けると奥歯を噛んだ。
「これは彼らへの罰だ…亡き戦友たちの無念をここで晴らさず何が"秩序"か!!」
クラウの言葉にBJは柄を握ったまま立ち止まる。
俺もいつもならすぐに剣を取って斬りかかる場面に、どうしても剣を握る気になれなかった。
「何が秩序だ!!」
吠えたのは捕まっていた男の1人で、不細工な面にニキビの痕がびっしり再現されたその男は唾を吐きながら言う。
「お前らだって俺らと同じだろ!!逃げてこの街に引きこもっていたのは俺たちだけじゃないだろ!!」
その言葉は引き金になった。
振り下ろされる大剣。
飛び出したBJ。
しかし、大剣は弾かれBJは現れたそいつを見て足を止めた。
クラウは現れた男を見て息を呑んだ。
「KJ―――」
久しく見ていなかったその顔は、何か狂に浸ってしまった狂人のようなものを彷彿とさせる。
KJの登場はクラウにとって想定外だった様子で、その顔が引きつっていた。
「クラウ…コレはどういうことだ――」
「KJ君…コレは――こいつらが攻略組みを馬鹿にしたから罰を与えているんだ」
「………」
「僕たちオーダーは秩序の代行者だろ?だから、こいつらのような自己中心的なやつらは――」
ザクッという音がその場に響くとクラウの右腕が大剣ごと体から切り離された。
クラウは自身の身に何が起きたのか理解できず、「は?」と口にする。
そして、自身に何が起こったのか理解した彼は叫んだ。
「はぁぁああああああ゛あ゛あああああぁあああ!!」
KJは大剣を一振りしクラウの腕を切り飛ばしてすぐにそれを背負った。
「誰が勝手に罰を与えることを許したのだ?ラビットか?それともキミ自身か――」
クラウの取り巻きがKJに剣を向ける。
「どうして今更…オーダーを捨てた貴様が!!」
クラウは地面に落ちた大剣を手に取るとKJに切りかかった。
しかし、KJはこのBCOにおいて強さで言うなら2番目に強い男だ。
「オーダー…それは秩序。しかし、それは今はもう幻想だ――」
素早い攻撃が2回。ここにいる何人がそれを捉えられたのだろうか。
「クラウ…残念だ――」
三度目の切り返しでクラウは弾けた。
オーダーの面々は後退り、囚われていた4人の内の不細工な面にニキビの痕がびっしり再現されたその男がKJに言う。
「あんた、外してくれ!」
助かったと言ってKJに背を向ける男。
俺は嫌な予感がした。おそらくBJも――
「何してんだよ!早く―――」
一閃。
クラウより呆気なく、男はKJの大剣の下で赤や黒や紫の光りの欠片に変わってしまった。
「お前たちの罪は――私の秩序の下で罰してやろう」
俺は体を縛られた。いや、誰かに押さえられたのだ。
視野を胴に移すとそこには腕が2本。そして、無意識の内に抜いていた剣を持つ右手にも2本の腕。
胴の腕はマリシャの腕。右手のはカイトの腕だった。
「駄目だよヤト!今キミがKJと戦ったら――」
「だが!」
「ヤト!しっかりしなさい!たとえヤトがKJに勝ったとしても!」
マリシャの言いたいことは分かる。
KJを倒したらこの後も続くMALICIOUS GAMEという名のデスゲームで、繰り上がった者がこの先も勝ち続けられる可能性は少ない。
最近俺の対戦相手も確実に実力を上げている。
KJと言えど今は戦力。
分かってはいる。分かってはいるんだ。分かっているんだが――
「このままじゃ!」
この状況飛び出したのは俺だけという訳ではなかった。
「コノヤロー!!」
BJがKJに切りかかっていた。
2人はおそらく顔を合わせたのは数えるほどだろう。
KJは、誰だという表情でBJを見る。
思い当たったらしいKJはBJに言う。
「ファミリアのギルドマスターか…」
「だったらなんだ!」
「キミのことは斬るつもりはない。この場はキミにたくそうか――」
そう言ったKJは、BJを軽くあしらうと転移アイテムを使いその場から消えた。
消え去るKJの視線が俺に向いていたのはおそらく気のせいではない。
その後、オーダーのメンバーは始まりし街へ逃走。
捕まっていた男たちもBJに解放された後、すぐさまその場から去った。
人ごみも消えたその場に残ったのは俺とBJとマリシャとカイト。
カイトはしばらく俺の腕を掴んでいた。
へたり込むBJにマリシャが声をかける。
その時、乱れた心も整理できぬまま、俺はいつものように視界にVSの文字が点滅して、37回目のMALICIOUS GAMEへと強制転移された。




