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37 スキルチェーン


 杖を右に1回、左に1回。そして、かつてボスフィールドだったそこで―――


「叩き割る!」


 騎士を模った宝石が現実的な崩れ方をするとフィールドのエフェクトが明滅する。

 以前ここを護っていたボスモンスターは"リザードフューラー"というモンスターだったが、今回召喚するボスは"キングストロングナイト"と言うモンスターだ。

 その姿は、第5フィールドで何度も戦った"ストロングナイト"にそっくりで、頭の上に王冠を載せ赤いマントをつけている。


 キングストロングナイトが完全に出現すると、戦闘前の演出が入る。

 少し緊張気味のカイトの肩を叩いて目と目を合わすと彼女はコクリと頷いた。


「狩人の目を使うわ!」


 マリシャはそう言うと、頭にある眼帯を左目に付けてキングストロングナイトのステータスを全員に見せる。


 Name:キングストロングナイト


 LV:37

 HP:40000


 STR:399

 VIT:547

 DEX:432

 AGI:270



「完全にVIT型のカッチカチの奴だな――」

 BJはそう言うと右手で腰の剣を引き抜く。


「AGIは低いけどSTRよりDEXが高いからスキルがきっと強いはずよ!油断しないで!」

 さすがはトップギルドのサブマスター。

 ナナは的確にボスの分析をして大声でその場に伝える。


「カイト、これは"俺たち"の戦いだ」

 俺はそう言ってカイトの横で長剣を抜いた。


「…分かってるよ。ボクもBCOで戦えるんだよ!」

 カイトは歪剣(ストレイン)を手に出現させると深呼吸して前を見た。


 BJやマリシャ、ナナがカイトと目を合わせる。

 カイトは頷いて「戦闘開始だよ!」と叫んだ。



 戦闘でパーティーを組むのは初めてだったが、仲間のスキルリチャージが分かるのは便利だった。

 カイトをリーダーとしていているため、Lv差分のステータスに若干のネガティブがあるが特に問題はない。


 俺は後衛で誰かが危険になった時にタゲに割り込むインターセプター。

 本来なら楯専がインターセプターとしての役をこなすがこの場にはいない。

 だから、今回の戦闘では俺がその役につき全員に目を配る必要がある。

 その場にいる全員が命をかけているため一線を守り抜く者が必要になるのだ。


 カイト以外は戦闘に慣れたメンバーだが、それでも命がかかっているのに変わりはない。

 ゆえに今回俺は気が抜けない。


「俺がタゲを取るぜ!!」


 BJはそう言うと早速スキルを発動し、モンスターへダメージを与えてヘイトを上げた。

 タンクと呼ばれる役割を今回BJがする。

 一番攻撃を受ける可能性の高いタンクは片手楯装備が妥当なところだが、コレも今回はいないため一番慣れているBJが引き受けてくれた。


「エネミーストライク!背後がら空きよ!」


 ナナは司令塔であるフィールド・ジェネラル。

 敵のどちら側から攻撃を仕掛けるのかを判断する役割を担っている。

 時に、フィールド・ジェネラルがしくじれば"パーティーが全滅する"と言われるほどに責任の重い役だ。


「BJヘルス200減!エネミー最大ダメージ400!!」


 マリシャはヘルスコントローラー。

 ヘルスを管理してヘイトが誰の順番で高いかを常に見ている。

 彼女が投剣使いなのもこの役をこなすためでもある。


「せやぁああ!!」


 カイトはアタッカー。シンプルにモンスターのヘルスを減らしていくだけの単純な役。

 しかし、シンプルゆえにアタッカーが難しい役であることは確かだ。

 ヘイトを上げすぎるとタンクの意味がなくなってしまう。


 そんななかで効率よくヘルスを減らすには、モンスターのタゲ変更時の隙を突くのが重要となり、BJとの連携も必須になる。

 その点でいうとさすがにカイトはFDVRMMOの経験が多いため簡単にこなしてしまう。

 が、やはりこのBCOの戦闘中アシストなしはプレイヤーに隙を作る。


 カイトの攻撃とキングストロングナイトの攻撃が完全に同じタイミングになる。

 このままだとカイトに直撃してヘルスを大きく減少させることは目に見える。


「はぁあっ――――」


 息を呑むカイト。その体に長剣が上から振り下ろされる。

 直撃の寸前にそれが逸れてカイトの横の地面を抉った。


「ヤト――」


 インターセプターである俺がカイトにヒットする前にパリィする。

 アシストのないBCOで難しいとされる技術がいくつかある。

 その一つがパリィであり、もう一つが"スイッチ"だ。


 BCOでは敵が体勢を崩した時にプレイヤー同士が入れ替わり連鎖攻撃する"スイッチ"を"チェーン"と言う。

 システム的にアシストのないその行為をチェーンと呼ぶきっかけとなったのが、スキル発動時のスキル同士の連鎖攻撃を"スキルチェーン"と呼ぶ事からスキルを使わないスイッチをチェーンと言う。


「スイッチ!!」


 しかし、俺のようなVRMMOのヘビーユーザーはついつい癖で"スイッチ"とコールしてしまう。

 と言っても、本来ソロである俺がスイッチとコールしてしまうのは癖ではなく固定観念なのだが…。

 ステレオタイプというわけではないが、そういった昔ながらをついつい使用するのは俺の個性なのかもしれない。


「いっくよー!」


 カイトの持つ歪剣(ストレイン)が淡い赤紫のエフェクトを纏うとスキルが発動する。

 SNAKE BITEと軌道に記されると、キングストロングナイトの2本のHPバーの1本目が4分の1まで減る。


「ナイス!カイト!!」

 ナナの言葉にカイトは左手でVサインを突き出す。


 その後も、陣形を保ったままで狙い通りキングストロングナイトのHPバーを最後の1本の半分にまで減らす。

 キングストロングナイトは残りHP約1,0000。通常の範囲攻撃を仕掛けてくる。 

 それを俺がパリィするといよいよ今回の戦いの見せ場がやってくる。


 俺はBJに目で合図を出す。

 BJはマリシャに。マリシャはナナに。

 ナナの視線が俺と交差すると、俺は左手で簡易スロットにあらかじめ入れておいたアンプルを取り出した。


 そのアイテムは"調律アンプル"という物。

 レアドロップアイテムのそれは、パーティーメンバーのLvを調律して全ステータスを+-の合計が10以内にすることができる。

 Lvの高い者が低い者へと調律されるそれは、本来のゲーム攻略には絶対に使いどころのないアイテムだ。


 しかし、Lvの低い者にあわせてゲームを楽しむ場合にはとてもメリットのあるアイテムである。

 攻撃にばらつきが出ない分ヘイト管理がし易くなる。Lv変動型のボスやモブに対して、そのLvを最低限抑えられる。

 そして一番の利点が"スキルチェーン"である。


「スキルいくぜ!!」

 BJの掛け声が起点。

 

「ドレインスラッシュ!!」


 BJが構えからではなくコールしてスキルを放つ。

 そして、俺がその時持っていた武器のスキルも同じもので。

 俺の視界にはCHAIN(チェーン)の文字が浮かぶ。


「チェーン!」


 コールして発動させられるため、そう叫んだ。

 俺の体は何かの後押しによってBJの側面からキングストロングナイトにスキルを発動した。

 軌道にはDRAIN SLASHの文字。そして、CHAIN!の文字が大きく宙に表記されてトータル2000オーバーの大ダメージ。


 俺はすぐに左手で装備を変更する。

 一度始まると俺の左手は忙しくなる。


「次いくよ~」


 マリシャが投剣ではなく鋸剣(ソー)を装備してエネミーに突進する。


「シェイブストライク~!」


 スキルによる突きを放つマリシャ。

 この時、俺が装備を変更し終えて視界には再びあの文字が浮かぶ。

 本来装備変更後でスキルはリチャージ中だが、スキルチェーンには片方がスキルを発動するだけで、もう1人はリチャージを待たずに発動できるのが仕様らしく。


「チェーン!!」


 マリシャの真横に俺の手に持つ鋸剣(ソー)が突き刺さる。

 一瞬目が合ったマリシャのウインクの意味は分からなかったが、俺はすぐに左手で装備を変更する。


「ナナ!行きます!!」


 ナナの掛け声は組み手や稽古の時にする掛け声を思わせる。

 俺は短剣を手にSHAVE STRIKEの文字を通り抜け移動する。


「ガトリングラッシュ!」


 高速連撃であるそのスキルは人の動きを超えていた。


「チェーン!!!」


 攻撃を断続するナナと付かず離れずの連携攻撃。

 ナナは笑みを浮けべて俺に何かを言う。

 おそらく、"最後決めて"だろうと俺は勝手に判断した。


 今までの流れですでにカイトは理解していた。

 歪剣(ストレイン)に装備を変更した俺は、カイトとキングストロングナイトを挟んで向かい合う。


「ヤト!!」


「カイト!!」


 互いに名前を呼び合い準備は整った。

 お膳立てのおかげでキングストロングナイトのHPバーも瀕死寸前。

 初見回避不可のスキルも類似性の高い範囲スキルで出が遅いのはすぐ分かった。


 走り出したカイトが叫ぶ。


「スネークバイト!」


 歪剣(ストレイン)が生き物のようにエネミーに突き刺さる。

 そして、俺は叫ぶ。


「チェーン!!!!」


 対極にいる俺が一瞬でキングストロングナイトに突っ込むと、そのHPバーを削り切る。

 エフェクトを放ち消失するエネミー。

 スキルの反動で交差するカイトと俺。


 BJにマリシャ、ナナにカイトを俺の武器変更で繋げる。


「スキルチェーン"コネクト"だね」


 カイトの満面の笑みに俺は、「どうだ?気持ちよかっただろ――」と声をかけた。


「す―――――ご~く!良かった!!」


 カイトの言葉に俺は手を上げてハイタッチを要求する。

 すると、パチンと音を立てて俺の手にハイタッチしたのは興奮したBJだった。


「うまくいったな!!おい!!」


 続けてマリシャ、そしてナナがハイタッチする。


「いい連携だったわ~」


「完璧だったわよ皆!」


 そして漸くカイトの番になると、カイトは頬を膨らませてハイタッチではなくタックルをした。

 俺は完全に油断して、直撃し、地面に倒れこむ。


「っつ~カイト?いきなり何を―――」

 俺は胸に抱きつくカイトが泣いていることに気付いた。


 ありがとうみんな。


 そう呟いてカイトはしばらく泣き続けた。


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