35 イノベーション
2077/April
仮想空間。
黒い空間に浮かんだウィンドウが十数個。
中央に立つアバターはコウモリ男。
男は右手をスライドさせてウィンドウを表示させると名前を確認した。
「どうやら全員が揃ったようですので、総会を始めさせていただきます」
男の声で始まった謎の集まり。男が右手を振り上げると、その背後にグラフ、数字、映像が映し出される。
「囚えたプレイヤーの人数は順調にその数を減らし、6サーバーの内4サーバーで7000人を切り、1サーバーは6000人を切りました」
コウモリ男はさらに右手で一つのウィンドウを開き拡大する。
「しかし、現在も日本サーバーにて8900人以上が生存していて、担当のジョーカーによって削減のクエストを発生させました」
一つのウィンドウから、「さすがは経験のあるジャパンだ」と声が漏れる。
「ですが、このままでは目標数削減ができないことが既に分かっています。そのため、こちらから全サーバーに新たなゲームを提供することが決まりました」
その言葉に別のウィンドウから、「ゲームマスターが介入するのは~如何かと思いますけどねー」の声が。
「私、"バットマン"としても、この決断は致し方ないとしか言いようが無く。不徳の致すところです」
コウモリ男は自らを"バットマン"と名乗りそう言うと、次のウィンドウを表示する。
「明日から私、バットマンよりプレイヤーへ贈る新ゲーム。MALICIOUS GAMEと題した一対一の対戦式のルールで、各サーバーのトップテンのBCOプレイヤーをオンライン上にてリスト化し発表します」
ウィンドウに表示されたリストを指差すバットマン。
「その後、BCO外のVRユーザーがリストからBCOプレイヤーを選択。選択後BCOテストサーバーにて1対1を行ってもらいます」
「1対1では死者の数はそう増えないのではないか?」
バットマンはその言葉に更なる説明を交えて言う。
「その心配は尤もです。しかしご安心を。今回のMALICIOUS GAMEの報酬には各サーバーの勝利数トップにより、独断で"プレイヤーの半分を帰還させれる権利"を与えたいと考えております」
バットマンの言葉に、"なんと大胆な削減方法だ"、"日本サーバーはそれで5000人までいけるな"、と声が上がる。
「選別方法に関しましては、テスター・非テスター・年齢別・性別・Lv別に分けられます。"女性と15歳以下"や、ざっくり"非テスター"もしくは"テスター"などが選べ、非テスターから2千名を帰還させる等になった場合はランダム選抜となります」
ウィンドウの一つが、「つまりは、仮に"テスター"を選らんでも、全員がそれに該当するとは限らないと言うことかな?」という質問にバットマンは首を縦に振った。
「テスターに関しましては元々2千名しかいませんので、帰還項目に"テスター"と"Lv50以上"を選択してもテスターの3割は確実に選抜されない仕組みになっています。特にトッププレイヤー3割は確実に残留です」
「詐欺としか言いようが無いな!はははは!」
「弾かれるプレイヤーの殆どは各サーバーで"非戦闘員"とされている子どもや一部女性プレイヤーたち。ゲームに不参加な弱いプレイヤーたちとなります。ですので今後の"我々のゲーム"では必要がない者たちです」
「確かに、子どもは所謂スパイスとして選ばれている部分がある。今後のゲームに必要とは思えないな」
その声にバットマンは声を上げる。
「その通りです!我々に必要な人材は強いプレイヤーたちです!」
「私は子どもや女が殺される所が見たいですがね――ヒヒッ」
と一つのウィンドウが囁く。
「ちなみに、このMALICIOUS GAME後のプレイヤー残数の予測ですが…」
バットマンはその右手を左にスライドさせ大きなグラフを再度後方へ展開させる。
そのグラフにはサーバー名と人数が表示されていた。
アメリカ―――3238人
ロシア―――2478人
日本―――4576人
EU―――3843人
中国―――1894人
韓国―――2973人
表示されたグラフを見て一つのウィンドウが呟く。
「日本は予測の段階で数十名の犠牲しかでないのか?我が悪しき母国は2千人を切っているのに――」
バットマンは日本のグラフを指して、「コレは予測でしかありません」と言う。
「しかし、日本サーバーにはプロが少ないのにもかかわらず、一部頭出したプレイヤーが存在し、彼らに一般のプレイヤーが勝つことはまず無理でしょう」
そう言いきるバットマン。
「やはり、FDの環境がいいだけに日本のプレイヤーの潜在ポテンシャルの高さはゲーム大国中華に勝るか……」
「日本ではHMCの機能が優れていて、仮想空間に干渉する政府機関もあり、しかもプロのエージェントが存在すると聞く」
「わたし知ってます。それを仮想課と言う行政機関がそれですた」
「………変な英語になっているぞ。それに仮想課ではないはずだ。私が知る行政機関の名はVirtual Reality Custodian Division通称VRCD。日本語で"仮想現実管理課"と言う」
「日本の機関なのに英語で呼ばれているのか?」
「これは噂なのだが、どうも、この機関には米国が関わっているらしい。米国内ではVRの問題を裁判では裁けない事実がある、これは他の国でもほぼ同じだと思う」
「中国では仮想現実での問題は個人の判断で処理するのが普通だし、ロシアにいたっては政府機関がVRには反対的。韓国も同様だからな」
「国がいちいち取り合える規模の問題ではなくなっているからな。仮想の体がレイプされたところでそれを罪とすることはできないからな――」
「他の国はそうであるが、日本ではそういった問題を一つ一つ取り締まり刑罰に処することもあると聞く。法整備が早く、取り締まるための対策環境も確立している」
「ともかく、日本のVRCDという機関には米国が自国にもその機関を確立するための試験的なハッキング装置を提供、いや、合同で開発したらしい――」
「バットマン。実際に日本のサーバーで干渉されることはあったのか?」
バットマンは右手を上げて指を折る。
「4件ほど、それらしき干渉がプレイヤー元へあったことは確認しています」
「こちらには影響はないのかね」
「…"現在は"としか言いようがありません。実際に日本サーバー内で4名のプレイヤー元へ干渉があり、その際にこちらへと干渉しようとしたため無理やりに切断しました」
「いづれはゲームマスターにその干渉が及ぶこともあると?」
「いいえ。それほど高度なハッキングではないことから、おそらく何らかのシステムによるものであると推測しております」
「つまり……どういうことだね?」
「"干渉は外部から"ですが"発生は内部から"と分かっています。おそらくは、そのVRCDという政府機関のエージェントが日本サーバー内にいるのだと思われます」
「……ほーそれはそれは面白い――」
「どのプレイヤーか分かっているのか?」
バットマンは一つのウィンドウを拡大する。
「プレイヤー名、YATO、ASURAN、KJ、HEIZA-、彼らの内の誰かがその人物であると推測しています。ちなみに、日本サーバーのトップフォーです」
「ヤト、アスラン、ケイジェイ、ヘイザ………いや、ヘイザーかな」
「とにかく、皆々様、これらの問題も我々VRのみに存在する組織にとっては無意味としかいいようがない事柄です」
バットマンがパン!と手を叩くと、彼の背後のウィンドウが消える。
「BCOのデスゲームもお楽しみいただいたと思いますが、新たな舞台となるタイトルもテストを終了しています!生き残ったプレイヤーは新たなステージにて再び良き道化となるでしょう!」
拍手。その後バットマンの言葉で終幕。
ウィンドウの消えた黒いその空間に、新たにエフェクトを放ち現れたのはピエロ姿のアバターだった。
「バットマンさん……」
姿と違いその声は弱弱しく、俯き気味にバットマンに話しかける。
「聞いていましたねジョーカー君」
「ハイ!ぼくのせいで迷惑かけてすみません」
「仕方ないですよ。キミに任せた日本サーバーは実にしぶとい。平和に胡坐を掻いた愚かな者たちかと思っていましたがどうして…。中々に健闘していますね」
「クエストで生還したのが3人。PKの数が二桁なのはウチだけですからね」
「……MALICIOUS GAMEではちゃんと減るように調整して下さいね」
「ハイ!もちろんBCO外にいるプロプレイヤーに直接連絡を入れるつもりです!」
「足が付かぬように気をつけることを忘れてはいけませんよ。キミには期待しているのですよジョーカー君」
「ハイ!」
「ではでは――」
バットマンは、ウィンドウのログアウトの文字を押して青いエフェクトとともに消える。
残されたジョーカーもエフェクトとともにその場から消え去る。
HMCを外した男はリクライニングの椅子から立ち上がると、ホワイトボードに張られた写真を睨みつける。
「この屈辱は倍にして返すぞ……VRCDのイヌ――――」
写真はBCO内の姿のヤト、KJ、アスラン、ヘイザー。
男はそう言うとヘイザーの写真をライターで燃やした。




