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1 TUTORIALⅠ


 2076年10月


 視界の右上で手紙の絵が点滅しているのに気付いた俺は、それを右手の指で弾いて開く。中身はよくある新作ゲームの案内だった。

 Blade Chain Online (ブレイド・チェーン・オンライン) というFDVRMMO。

 俺はゲームの世界観を映像と説明文で確かめる。

 内容はよくあるRPGもので、プレイヤーは剣士として騎士団の一員となって全5大陸を魔物から取り返すというものだった。

 ストーリーなんて無視して、スペックと概要を読む。スペックが足りないことはありえない。なにせ最新のVR環境が揃っているんだから。


「よくあるテスター募集か…」

 俺はすぐにそのゲームのダウンロードをし始める。こういったゲームの募集は大体体験してみることにしている。

 実際にログインしてみなければその世界の感じはつかめない。

 前にストーリーとゲーム説明で期待してログインした事があるが、随分ガッカリしてログアウトした記憶がある。

 アラームを2時間後にセットして瞳を閉じる。ダウンロードが終了して、ゲームのアップリンクが完了すると、閉じた視界にCompletion(コンプリーション)の文字が点滅する。

 ゲームを始める時にコールコネクトかタップコネクトが必要になる。コールコネクトは"ログイン"や"コネクトスタート"と言葉が必要となる。

 俺の場合はタップコネクトに設定しているため、頭に付けたHMC:Head(ヘッド) Mounted(マウント) Connect(コネクト)の指定位置を2回指でタップする。


 一瞬の脱力感から寝起きのダルさを感じると、擬似的な仮想体の俺の手や足が視界に入る。

 その姿は3Dスキャナーで作られた現実の自分の姿で、指紋認証や網膜認証に対応させるためのものだ。

 黒い広さも分からない空間で浮かび上がる文字。

 Character(キャラクター) Select(セレクト)と書かれたそれには、髪の毛の長さから足のサイズ、尻尾や猫耳などの実際に現実ではその身に付いていないものも付けられる。

「意外と種類が豊富だな――」

 俺は自身のデータを基礎に作ったキャラクターに外見を付け替えたアバターを複数用意していて、その一つを選択すると、外見が青いエフェクトに包まれて姿が変わっていく。

 黒髪のイケメン風の男。日本人にしては整いすぎたその顔は、自身の潜在意識の中にも美的感覚というやつがあることが窺える。

 ゲームの設定はその外見の設定だけで終了し、その後の設定はゲーム内で行うようだった。

 complete(コンプリート)のボタンに手を置くと、日本語で「ようこそBCOへ」と響く。

 視界がポリゴンを加速させて思わず仮想の目を閉じる。この時の機械音はいつになっても好きになれない。

 数秒後、周囲がざわついて、世界の構築が完了した――実際には、俺が世界に誕生したと言うべきなのかもしれない。

 目を開けるとすぐに多数の人間が視界に入る。それぞれ多種多用な外見で人とは思えない者もいる。

 俺はすぐに右手を下方へと振る。が、考えとは違いその行為で思惑の現象は起こらなかった。


「………基本設定が左になっているのか」

 一言小さな不満を呟いてから再度左手を振るう。すると、目の前にスクエアの枠が表示されていくつかの項目が現れる。

 上から日本語で表示され。


 キャラクターステータス、装備、図鑑、機能、その他、ログアウト――


 それらの表示の機能を開きタップハンドの項目を探す。が、機能にはその項目がなかったために、なれない左手でのそれを妥協するしかなかった。


「今時左手オンリーなんてナンセンスだろ」

 更なる不満を抱えつつ俺は装備に手を触れる。


 剣、防具、装飾――


 実にシンプルな装備画面だ。

 次にキャラクターステータス。


 LV、HP、STR、VIT、DEX、AGI――


 それだけ見てもこの世界には魔法が存在していないのが理解できる。

 魔法がない方が、身体的な感覚で動かすことがより強くなり、その結果、高揚感や満足感が得られることはもう大体分かってきている。

 人は、体を動かして何かをすることに喜びを感じるのだろう。そんな考え方ができるようになったのはこの世界を通じてだ。


「Lv1か…まずは身体能力の把握から始めようか」


 俺の生まれた所の横に、青いエフェクトの出ている円柱の空間があり、それが転移ポートであることは一目で分かる。

 そのエフェクト内にクルクルと回転している何かがあり、よくみるとテストステージの文字が浮かんでいた。

 よくあるチュートリアルというやつで、VRMMOでは体を動かすことからそれが始まる。

 タイトルが変われば仕様が変わるのは必然で、ごく一般的な身体能力から超人的な身体能力までそれぞれに体の動かし方を知らなければならない。

 エフェクト内に体ごと入ると数秒で視界が変わる。

 そこではすでに体を動かしているプレイヤーたちがいて、その動きから初心者なのかそうでないのかはすぐに分かる。

 他人の動きを見て、自分が同じ動きをできるとは限らないのが仮想世界の常識だ。

 ステータス上で上回っているプレイヤーが相手でも、能力ではなく、体の動かし方が上手いステータスの低いプレイヤーの方が強い場合も少なくない。


「おい、あいつ」「すげー慣れてんな」「かっこいい~」

 俺の前で等間隔に置かれた黄色い柱の足場を、軽快な足取りで渡って行くプレイヤーがいる。そいつは走り抜けると次の反り建つ壁にしがみ付いてよじ登った。

 明らかに手馴れている褐色の男は、羨望の眼差しを初心者らしきプレイヤーから向けられる。

 俺は肩を回して2回跳びはねると息を整えた。


「次は俺の番だな――」

 さっきの男よりも素早く黄色い柱の足場を駆け抜けて、壁を蹴って片手で上ってみせる。

 褐色の男よりもその場が沸くとそいつは不満げに俺を見てくる。

 ダテにVRMMO歴が長いわけじゃない。俺は余裕の表情でその男を見返して鼻で笑う。


 この世界の身体能力は、元の世界の運動神経抜群の高校生男子並だろう。

 Lv1でこれなら…、上昇値にもよるけど、ちょっとした超人気分を味わえるかもしれないな。

 チュートリアルも進みついに武器の操作に辿り着いた時、このゲームの本質に触れた。

 俺は左手でウィンドウの装備項目を指示通りに押していく。すると、アイテムストレージに片手長剣と表記されたアイテムが入っていて、それを装備スロットへとドラッグしてドロップする。

 装備すると自動でウィンドウが閉じて右手にずしっと重みが加わる。


「意外と――重いな」

 剣を振りながらそう言う俺は、その時点で感じた違和感に気付く。

 こういうVRMMOのバトルシステムには大体、システムによるアシストなりサポートなりが入るのが普通なのだが、BCOに関して言うならそれがない。

 剣を振る時に、理想とする太刀筋を再現することで、プレイヤーの戦闘での違和感を緩和する。

 そういったシステムは必須というのが、現行しているVRMMOでは当たり前だったため違和感を感じなかったと言えば嘘になる。


「これは初心者には厳しい仕様だな…」

 テスト段階だからかもしれないけど、後でGMに変更したほうがいいと報告しとこう。その時はそう思った。

 剣を直接タップするとその武器のステータスが表示される。


 STR、VIT、DEX、AGI――SKILL――


 自身のステータスに上乗せされる数値とスキルの文字。

 そう、このBCOの特徴の一つであろう剣のスキル。

 片手長剣と表示されているこの武器のスキルは【ストライクスラッシュ】。


「"直線の突きを放つ"…ただの突きか――」

 ストライクが突き、スラッシュが斬る。どっちだって思ったが、どうやらバグのようだ。

 ナビに従い体を動かして剣を構えると視界に文字が浮かんで。

 頭に思い浮かべる。

 その瞬間、自身の体が何かに押されるように前に進むと、右手の剣が白いエフェクトを放ちながら突き出た。

 STRIKE SLASHの文字が効果音と同時に表示されたときはなかなかに新鮮な感覚だった。


「なるほど、これは今までになかったな」



 その後の説明で、このBCOには戦闘時の常時システムアシストの概念はなく、スキルも武器や防具に付加されたものだけであることが分かった。

 システムアシストはスキルの発動時にのみ適応され、スキルの種類によって構えなどが変化することも分かり、構えを覚えられない場合は音声による発動も可能らしい。

 この世界では装備こそが唯一スキルを得る手段で、さらに一つとして同じ武器防具がないことから、ゲームの難易度の高さが伝わってくる。


「強い武器は強いプレイヤーの手に渡り、弱いプレイヤーは弱い武器しか手にはいらないってことか」

 タウン、街の外でならPvPもできるため武器の奪い合いも起こりうる。むしろそうなるようGM(運営)は作ったのかもしれない。

 クラスやジョブといった概念もないこの世界では、モンスターを倒してドロップした物でしか強くなれない。

 Lvの差で強さが決まるだけじゃなくて、モンスターからドロップした武器でも強さが決まる。

 つまり"努力"だけじゃなくて"運"も必要となる。実に現実に近い。

 他のVRMMOでも同じことが言えるが、武器にここまで依存したこの世界は、明らかに他のそれとは別物だ。

 スキルの使用にはリチャージタイムが存在して、スキルが使えない時間が必ず発生する。

 その時間にはシステムによるアシストは一切ない。

 自分の体で剣を振るう感覚。

 ステータスではどうにもならないそれをこの世界は要求しているのだ。


「…ふっ面白そうじゃないか――BCO」


 俺は一人口元の端に笑みを刻んで剣を振った。


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