34 ラストリゾート
BCO日本サーバー限定"雛祭りイベント"は3月から4月までのイベント。
見た目装備にイベント用の物が装備できて、イベントエリアにてモンスターを討伐することでゲットできるポイント。"ヒナP"で交換可能になっている。
主に女用装備がメインであるため男にとっては楽しむ要素は少ない。が、見た目装備の一つに【お色気】の文字を見つけると、BJやファミリアのメンバーがポイントを集めてはマリシャに献上するという謎の現象が起きていた。
ヤトはイベントエリアで大活躍していた。
特に子どもが遊ぶアスレチック場で、アクロバットスキルもなしに忍者のように跳ね回る彼のことを子どもたちはキャッキャと喜んで見ていた。
カイトもその姿をずっと目で追いかけている。
BJたちはイベントエリアでモンスターを追い掛け回す。
「テメーら!根性!見せてみろ~!」
「「おおぉぉおお!!」」
その執念というか結束力にはマリシャもドン引きである。
雛祭りとは本来女の子の女の子による女の子のための祭りなのだが。さらに言えば女の子のすこやかな成長を祈る節句の年中行事である。
ところ時おりによればそれは"ひいなあそび"とも称された。
平安時代には川へ紙で作った人形を流し、雛人形は災厄よけの守り雛として祀られる様になった。人はそれを"流し雛"と称した。
イベントエリアにある川に流された人形に向かって手を合わせるプレイヤーも少なくなかった。
この世界を荒む現状を刹那的に幻惑してくれるのは、こんな時にでも"特別"なのだと再確認できる。
特に子どもたちや非テスターたちにとっては心を休めるのに貴重な時間になった。
「どうした?カイトも遊ばないか」
ヤトは座ったままのカイトに声をかける。
朝から様子のおかしいカイトは、「うん、大丈夫」しか言わないためにヤトはそれ以上声をかけられない。
「カイトちゃんの様子?」
ヤトはマリシャにも相談してカイトの異変について心配する。
「元気が無くて、動きたがらない。本人が大丈夫と言っている…アレかな――」
「アレってなんだ?」
「えーと、私に任せて~」
マリシャはヤトにそう言うと一人カイトのもとへ向かう。
アスレチックの反対側に敷いてあるピンクの敷物に体育座りで、1人ポツンといるカイトを見つけて隣に座る。
座ってすぐに声をかけるでもなくカイトの表情をジッと見るマリシャ。
「……何日目?」
「…3日目…今日も朝から頭がだるくてさ」
「女の子は仮想現実でも大変だよね。私はいつも少なくて貧血になることもないんだけどね~」
「感覚遮断されていても生理による貧血はシステム的に回避できないからね」
「現実の痛みと切り離せても、やっぱり脳は繋がっているんだもんね~」
「普段ならこんなことないんだけど。実際に数ヶ月寝たままだと、血液の循環も万全でなくなっちゃうし…仕方のないことだけどね」
「でも、生理よりも私は"それを誰かに世話してもらっている"って考えると、ちょっと複雑になっちゃうかな」
「…病院なら看護師さん、勿論女性のだろうけど…自宅でって人がいないとも限らないね」
「自宅はどうだろう…爆弾が~って言われていたから、病院でもかなり特殊な病院で、もしかすると軍病院とかになっているかもだね」
「軍病院か…男の人しかいなかったらどうしよう…」
「大丈夫よ軍属の女性看護師さんがいるから」
マリシャの言葉にカイトはしばし間を取り。
「生きているんだねボクたち――」
「そうだね~」
見上げた桜の舞う花びらはリアルより鮮明に見え、2人は声を合わせて「キレイだね」と呟いた。
「な~に見てんだよヤト坊。お花見じゃなくて雛たちを愛でる趣味があるとは中々の助平さんですな~」
イベント用の見た目装備のカイトとマリシャをジッと眺めていたヤトに肩を組むBJ。
「…カイトが最近元気なくてな――」
BJの言葉に突っかかることなくカイトの心配をするヤト。
肩透かしを食らったBJは真面目に話題を聞く。
「カイトちゃんが?ヤト坊…なんかやらかしたのか?」
「いや、俺っていうよりカイト自身の問題らしんだがな」
「カイトちゃん自身?元気が無い……あ!!なるほどね」
BJは頭を掻いてヤトに言う。
「お前ちゃんと保健体育の授業を受けたか?」
「保健…ああ、もちろんだ」
「女の子の日って分かるか?」
「…生理……そうか、そういうことか」
BJの言わんとすることを理解したヤト。
「FD中の生理現象は軒並み感覚遮断でこっちに影響は無い。けどな~、月経…生理ってのはリアルに血が出ちまって多い人だと貧血になるからな」
ヤトは、「やけに詳しくないか?」と疑問の表情。
「いやいや、実はな~最近子どもらの授業を見学する機会があってだな。その時丁度やってたのさ。こっちに来る前に生理のきてない子たちが、リアルに戻ってからもしそうなっていた時に驚かないようにってな」
「…なるほど」
「…俺はそんなこと、ちっとも頭に無かったぜ。俺はほら"友達の友達ぐらいまでは助けたい"程度の考えだったからさ」
「そんなことないだろ。俺は羨ましかった…BJの持っている正義は人の心を癒し慰める正義だし、その授業をした人は子どもたちの未来を心配した正義だ」
「正義っていうか、人柄ってやつじゃないか?」
「俺にとっては一緒だ。正義ってのは言葉であって、大義であって、想いであって、BJの言うとおり人柄でもある。俺にとっての正義は――――暴力であり、悪に対する敵意なんだ」
「……ヤトの正義は―――重いな」
「いいや、軽いんだ…悪に対して揮えても…それで救われる人間は一握り。BJや子どもに教育する人たちの正義と比べると救える力としては――――軽すぎる」
ヤトはそう言うとBJの肩に手を置く。
「これでも尊敬してんだよあんたをさ――」
BJはテレながら頭を掻く。
「…よせよ~らしくないぜ~」
その後、数日かけてマリシャに献上されたポイントは彼女の独断で"雛あられ"に変わり子どもたちに配られた。
BJとファミリアメンバーとその他一部のプレイヤーは肩を落としていた。
しかし、最終日に現れた"騒々しい五人囃子"なるボスモンスターをヤトがあっさり倒して手に入ったポイントで、マリシャとカイトと前日合流したナナがその【お色気】の文字が入った見た目装備をカイトのホームでヤトのためだけに身に付けた。
言い出したのはカイトだったが、マリシャはノリノリで、ナナは渋々だった。
それを見たヤトの感想は、「裸より如何わしい」と一言。
言いだしっぺのカイトは赤面。ナナはむしろ開き直ってヤトに、「ほら、見なさいよ」と挑発気味になり。
マリシャは、「もう、いっそ裸のほうがいいんじゃない」と言う。
ヤトは冷静に、「合法的に視線を向けて構わないのなら、裸のほうが"わいせつ"では無いかもしれない」と言う。
そして、知らぬ間に現れたシャドーが短い両手を広げて言った。
「ブリリアント!!はっきり言って18歳以下には自主規制、自ら目隠ししてもらわないと性的にハレンチであると言わざるを得ない!!きっとヤトの息子もお――――」
ウサギの口にナナの3本の指が入る。
その口に指を銜えたウサギが、甘露を食べた時のように笑んでいるのはヤトの気のせいではない。
そうして彼ら彼女らの最後の休息は終了を迎えた。
翌日、昼過ぎにあの不敵な笑みを浮かべる者の再来でBCOは再び変化する。




