33 自己紹介
2077年3月
その日はBJの誕生日だった。
ファミリアのメンバーにその他もろもろ、彼の元にはかなりの人が集まった。
ヤトも陰ながら祝福していた。
カイトはヤトの傍をずっと離れなくなっていて何度か、「ボクの視界からいなくなったらダメだからね」と過保護すぎるぐらいだった。
そんなカイトにヤトは眉を顰めることもなく、「どこにも行かないよ」と返事を返す。
そしてBJの誕生日を祝った次の日。
ヤトは、ナナやカイトにマリシャ、BJの4人をカイトのホームに集めた。
彼はかなり緊張した面持ちで4人に話をする。
「んん゛。今日――集まってもらったのは他でもない。俺の自己紹介をしておこうと思ってだな……」
数分しても話し始めないヤト。
リアル情報を他人に話す抵抗感は、簡単にはなくならない。
見かねてBJが先頭を切ることになった。
「俺の本名は成宮万丈。歳は25で社会人。現在彼女募集中です!ネット関係の仕事をしていて、と言ってもPC関係はあんまし得意じゃないのでよろしく!」
カイトが、万丈だからBJなのかと呟く。
そのBJのに続いてマリシャが席を立つ。
「伊藤真理。大学3年生よ。前は1人暮らしだったけど、今は都内の実家でのんびりしてます。将来については今現在模索中です」
BJは、女子大生か~大学懐かしいな~と呟いている。
さらに続けざまにカイトが席を立つ。
「小野坂凜です。女子高生で、リアルで髪型は黒髪のツインテールにしているよ。もちろんその方が可愛いからさ。ちなみに女の子の園である女子高に通っていて、しかもお嬢様学校だからかなり所作は躾けられているんだ」
リアルお嬢様…なんかいいよな~とBJ。
カイトが言い終えたところでヤトが、「俺の自己紹介の場なんだが…」と言う。
が、ナナも席を立ち話し出す。
「平千晶です。もうすぐ高3になるはずだったんだけど…どうなんだろう。剣道やってて、体育会系女子ってやつなのかな?小さい頃から竹刀を握ってます。………言うことはそれぐらいしかないかな」
ナナは、「結構自己紹介って難しいね」頬を染めて照れる。
次はいよいよヤトの番。
「……次は俺だな――」
と彼が口を開いた瞬間だった。
「私はシャドー。現状小さな小ウサギでしかないが、元はハイスペックなAI、artificial intelligenceなのだが、現状は役立たずのNPCだ。だが、キミたちの心の支えとなれるようこれから―――」
その口を塞いだのはナナの2本の指だった。心なしかそのウサギの顔が笑んでいる風に見えたのはBJの気のせいではない。
気を取り直したヤトははっきりとした声で自身を語った。
「俺は神谷裕人。学校には中学半ばから通っていない。通信制の特殊な制度で中学は卒業している。高校も通信で…確かBCOに来る前には卒業過程は終えていた。ちなみに歳は…………10代後半だ――」
その言葉に引っかかる部分がいくつかある者は、その場にいた全員だった。
シャドーが、「ジャスティスは16だ」と言うとBJは「飛び級かよ」と驚く。
「通信教育で高校って…ヤト、お前頭いいのか?」
BJの言葉にヤトは、「特に可もなく不可もなくだけど」と言う。
「でも、日本に飛び級できるような制度は無かったと思うけど…」
「何事にも特例があるって事だよナナ」
カイトはナナにそう言うと、ヤトは先輩なのかと呟いた。
「年下の先輩って…何か面白いよね」
「カイトちゃんは年下がお好み?私は断然年下だけどね~」
マリシャの言葉にカイトは、「ちょっと!かか勘違いしないでくれるかな!ボクは別に――」と戸惑う。
話の脱線を修正しようと、ヤトは咳払いしてから再び話し出す。
「それでだ。俺は2歳の頃からVRにフルダイブしていて、累計のダイブ時間は5年ぐらいになるんだが――」
5年――それは30代のプロプレイヤーの累計ダイブ時間とほぼ変わらない。
密度で言えばヘビーユーザーの数十倍に匹敵する。
「おま、5年って……マジかよ…」
BJは自身が300時間強であることと比べてその途方も無い時間の差に驚く。
「人生の3分の1は仮想世界で過ごしているってことになるんだ……思っていた以上に途方も無いね」
カイトはそう言うとヤトの顔をジッと見つめる。
「で、中二の春頃に親父に紹介されたVRCD、仮想現実管理課の人からVRCD権限を与えられて俺は政府のイヌになった訳なんだが」
「その権限はどういう物なの?私詳しくは知らないから」
マリシャの言葉でヤトはVRCD権限を知っている限り詳しく説明する。
「つまり、対チートのチートってことになるの?」
「簡単に言うならな」
マリシャが、「何かカッコイイ」と言うとヤトはそれを否定した。
「カッコイイとかそういう類の代物じゃない。ゲームをする側としてその道を外れてしまった存在が手にする傲慢な願望器。それがVRCD権限だ」
「VRで中二病が見る正義の体現が俺であり、現実の自身の無力さを痛感させられる秤だ。"悪の大きさ"を測った人間がいたとしたなら、それは俺と"正義を諦めた人間"だけだ」
「"正義を諦めた人間"?」
カイトの疑問。
「それって――」
ナナはそれを察する。
「"正義を諦めた人間"…それは"悪自身"だ。彼らは悟っている、世界には正義も悪もないと。力、理不尽、運、それらに押しつぶされて人は悪に傾く」
「例え最初は正義であったとしてもいづれはそうなる。それが彼らの考えであり真理。…だが、俺は違う。そう簡単に諦めてやれるほど諦めはよくない」
「俺に権限を与えた人も正義に取り付かれた男だった。そして俺はそれ以上の正義をこの身に懐いている。悪にとっての悪……だった」
BJは、「"だった"ってどういうことだ?」と問う。
「この世界で俺は4人斬って、実際に殺してしまった。彼らのうち3人はただ帰りたかっただけ、被害者のはずだった。俺の正義論からすると彼らも等しく救うべき存在」
「俺は今…人生で一番自身の正義と対峙している。正義とは悪を殺すことじゃない。悪を悪ではいられない存在にすることが正義なんだと思っている」
「こんな揺らいでいる心境の俺に、この力は相応しくない。使わないつもりでいるが、時に俺はそれを使うかもしれない。その時は止めてほしい。それだけは言っておきたいと思っていたんだが……伝わったかな?」
ヤトはそう言うと全員の顔を一瞥する。
BJはアゴ擦りながら理解できていない顔をする。
すると、カイトが手を上げる。
「要するに!ヤトは不安で不安で自身の制御が利かなくなるかもしれない。だから、注意して見ていてってことだよね」
「間違ってはいないが、そんなに常に見ていなくてもいいんだぞ」
カイトはジッとヤトを見る。
「おっし!ヤト坊!漢BJ!その願い引き受けた!」
「ヤトが見ていいっていうなら私は~ずっと見ていてあげる」
「私も見てるわ。だから、なんでも相談して。私が助けるから――」
ナナの言葉にカイトは不安を募らせる。それに気付く者はいない。
知っているからこそ、彼女の過去を彼女自身が克服できていないことも。
それがカイトであろうと、ヤトであろうと、誰であろうと救えないものだと。
ナナの問題は、ナナ自身が受け入れて背負わなければならないものなのだから。
この日自己紹介をし終えた俺は、自身に友というものができたのだと確信していた。
それと同時に、自身が間違えた時は彼らが自身を止めてくれると思っていた。
そして、3月という月は――俺たちにとってこの世界を本当に楽しめた唯一の時になる。




