31 7NANA7
私はカイトちゃんの傍で、彼女がナナちゃんとどんな約束をしたのかを聞いた。
カイトちゃんの話では、ナナちゃんは自身の過去をカイトちゃんに話して、どうしてヤトを気にかけるのかを伝えたそうだ。
ナナちゃんはカイトちゃんがヤトの友達と言える人物だからこそ自身の話をしたのかもしれない。
それか、カイトちゃんが同い年ぐらいだからなのかもしれない。
私は大学生で、おそらく2人よりもお姉さんになってしまう。
カイトちゃんもナナちゃんも高校3年生くらいで、ヤトが2年生って感じがする。
ひょっとするともう少し年下かもしれないけど。
ナナちゃんは始めに、「私は親友を見殺しにした」と言って話し始めたとカイトちゃんは言う。
親友とナナちゃんは小さい頃からの幼馴染で小中と同じクラス、高校も同じ学校だったそうだ。
私の親友は人見知りの強い内気な子だった。
小学生の時は互いの家にお泊りする仲で、中学生になって部活で私が忙しくなった時でも、時々家に泊まったりしていた。
でも、高校に入ると私と親友は別々のクラスになり、さらに私自身部活で忙しくなった。
親友からは時々メールやアプリで連絡し合うぐらいで直接顔を合わせることもなかった。
高1の夏休み明け。噂で親友が不良化したことを耳にしてすぐに会いに行った。
赤い髪にピアスにネイル。一体親友に何があったのか。
親友は直接話してはくれず、周りの人間から情報を集めると、どうやら高校から友達になったグループがどちらかと言うとそういう人たちだったからだった。
何度も私は親友に「友達は選んだ方がいい」と、「あの人たちとは付き合わないほうがいい」と忠告した。
すると親友は、「あなたには関係ない!」と、「子ども扱いはウンザリなのよ!」と怒鳴られてしまった。
私はそれ以来親友と連絡を取らなくなった。家族からも体裁がよくないから関わるなと言われていたし、正直変わってしまった親友はもう友達ではいられないと思ってしまった。
それから見かけても声をかけなくなったり、家にも近寄らなくなった。
連絡もしないし、もしきたとしても返事をすることもなかった。
そんな感じで高2の春。
久しぶりに親友が直接会いたいと言ってきた。
けど、その頃私は部活のインターハイ予選に向けて忙しくすぐに返信はしなかった。
インターハイ予選も終了して夏の合宿前に親友と会うことになった。
親友は、「会ってくれてありがとう」「ゴメンね私が間違ってた」「だから――」と言って私に謝った。
しかし、私は「今更ね」と軽くあしらい遠ざけてしまった。
部活の夏合宿。とても熱い日だった。
親友は自殺した。
原因は妊娠。
友達付き合いで友達の彼氏に無理やりに…。
どうやら、それは一度や二度じゃなかったらしい。
春前には日常化していて、おそらく親友が私に連絡を取りたがった理由だった。
葬式で親友の母親から手紙を渡された。私宛の遺書だった。
"平千晶様"
"あなたとの友情が思えば私の唯一の本物でした"
書き出しはそう書いてあった。
"小学生の時、足を擦りむいた私を負ぶってくれたこと今でも覚えています"
"中学生の時、怖い先輩に絡まれた時庇ってくれた事今でも忘れません"
思い出話が長々綴られて。
"そんなあなたに私はとても酷いことを言いました"
"心配してくれてありがとう。手を伸ばしてくれてありがとう"
"あの時、私が手を払わなければ今でも私たちは友人でいられたのでしょうか"
"平千晶様"
"ちーちゃん"
"ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい"
"本当にごめんね"
"私が今日死に行くのはあなたのせいではありません"
"最後まで馬鹿な私でごめんなさい"
"橘愛美"
その手紙は私に事実を突きつけた。
あの日あの時、私が親友の伸ばした手を握っていたなら。
手を握らなくても話しさえ聞いていれば――
その瞬間、私は全身の痙攣に襲われた。
実際には発作に近いものだったのだが、ストレスによるものなのだろうと医師は言う。
結局、私は全力で取り組んだ部活の大会でもその発作のせいで棄権することになった。
私はその発作は彼女の私への恨みが引き起こすものだろうと思ってしまっていた。
何度も親友と会った最後の瞬間を思い出して胸が苦しくなる。
医師は気分転換が必要だとVRMMOを薦めてくれた。
今までも何度かFDVRは体験したことがあった。
親友とも――
私は部活柄BCOを選んだ。
オープン前のテストだったこともあり、私は前に親友がVRで使っていた名前をアバターにつけた。
7NANA7。
橘愛美の名前の分身、それを自身のアバターに選んだことは、もしかすると贖罪だったのかもしれない。
BCOは楽しかった。仮想であってリアルに剣を振っている感覚。
素直に打ち込めた。
次第に発作も起こらなくなり、部活にも顔を出せるほどには回復していった。
このまま以前のように……そんな考えも頭にあった。
BCOオープン当日。すっかりこの世界に魅了された私はこの日あのピエロに会った。
私は悟った。コレは忘れようとした私への罰。
そして私は誓った。このデスゲームをクリアすることを。7NANA7として。
刀は握れなくなってしまっていた。それに気付いたのはBCOに囚われたその日。
モンスターと対峙して腰の刀の握りがどうしても引き抜けなかった。
仕方なく短剣でモンスターと戦い、そして勝利した。
KJに会い。ヤトに会った。
ヤトがあのYATOなのか知りたくてすぐにフレンドになった。
でも、実際に本物かどうかは名前だけでは分からなかった。
一日中フレンドの画面を眺めていた。
YATOはずっとエリアのフィールドにいて、それだけで彼が通常のFDVRMMOプレイヤーでないことは分かった。
第5エリアでチートボスが現れた瞬間ヤトに助けを求めないといけない気がした。
けど、ヤトが駆けつけた時私は自身の間違いに気がついた。
私が戦わなければいけなかった。そうすればヤトだって戦ってくれる。そう信じていた。
それからこのBCOを攻略するために幻影の地平線に入った。
そして、正月。ヤトがあのYATOではないと聞いた。
どこかに期待があったのかもしれない。その日私はホームへそのまま帰った。
そしてヤトがオーダーに呼ばれたと連絡が入る。
私は彼が無茶をする気がしていた。
それは現実になり。
第7エリアでヤトを発見した時。
あの時の現象がなんだったのかは分からないけど、彼の意識が私に入ってくる感覚。
ヤトはあのYATOではなかったけど、それよりもっとずっと…。
どこまでも深い正義。
純粋な悪意に対する敵意。
この世界を受け入れ現状を打開する意思。
彼とならこのBCOをクリアできると思った。
しかし、同時に彼の幼さにも気がついた。
ヤトの唯一脆い部分を構成する要素はおそらくその幼さだ。
1人にしたらこの世界で誰も知らない間に死んでしまいそうな気がした。
だから、私はカイトに話した。
ヤトの危うさ。誰かが傍にいなければいけないという事を。
それは私でもいいし、あるいはカイトやマリシャでもいい。
誰かがいれば簡単にその命を捨てない。
いや、捨てられない。
私の過去をカイトに話したのは、知っていて欲しかったからだ。
本当はヤトに話したかったが、彼はすでに色々背負いすぎていて私のことを背負わせる気にはなれなかった。
とにかく。
あの時親友の傍にいられなかった私には分かる。
今、ヤトを1人にしてはいけない。
私は走る。
第9エリアのボスフィールドへと――




