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30 PK


「なんだよ、なんなんだよそれは!!」


 明らかに異様なその武器に男は焦る。


「お前ら早くそいつを拘束―――」


 一瞬。


 視界から消える。


 いや、実際には目の前で動いている。が、視覚の処理が間に合わない。


 次に男がヤトを目にした時、3人の女の子を拘束していたアイテムは消失し、仲間の2人の頭上にはログアウト表示。


「な、なんなんだ、なんなんだよお前!!」


 男は右手の剣をヤトに向ける。

 ヤトは男を見ながら悲しそうに呟いた。


「あんたは悪くない。誰も悪くない。悪いのは――」


 男の体を黒い剣がサクっと通り抜けてヤトの手から消える。

 剣を落とした男はバタリと倒れてしまい、頭の上にログアウトの文字が現れる。



 BJは呆然として倒れた男を見つめる。

 拘束から逃れたファミリアのメンバーが駆け寄って、BJの体を拘束しているアイテムを剣で破壊する。

 そして、他ギルドのメンバーが倒れている女の子たちを介抱する。


 カイトとマリシャはその時に転移ポートから出てきた。

 おそらく、2人はフレンドの項目でヤトの居場所を確認して来たのだろう。


 拘束から自由になったBJは立ち上がってヤトに言う。


「どうして…こいつら――死んじまったのか?」


「おそらくな――」

 ヤトに向かってBJは怒鳴った。


「どうしてだ!俺のことは構うなって言ったじゃねーか!こいつらだって悪い奴じゃなかった!ただ、ただ…苦しんでいただけだ」


「あのままにしていたらBJが死んでいた」


「俺なんて死んでも構わなかったんだ!!」

 その言葉にヤトは右手でBJを殴る。が、その威力はまったくなく、ただ触れただけだった。

 そして、BJはヤトの見たことのない表情を目にする。


 いつものように眉はキリとしているのに、どこか悲しげで。


「ヤト……」


 そして、ヤトははっきりとした声で言った。


「お前が死んだら……寂しいだろうが――――」


 そう言って背を向けたヤトに、BJは小さく「すまねぇ」と呟いた。



 その後、BJに駆け寄る女の子たちが(キャット)(ハンド)だと知ると、どうしてBJにとって彼女らが好みじゃないのか分かる。

 3人ともが中学生で体も小さく、BJにとっては可愛い妹分にしか思えないのだろう。

 泣いてすがり付く2人にBJは困惑気味。もう1人は他ギルドのマスターやそのメンバー。

 それにファミリアのサブマスターやメンバーに1人1人丁寧に感謝を言って回っていた。



 ヤトは、自身の斬った3人を1人ずつ端へと寝かせる。

 駆け寄ったカイトはすぐに状況を理解してヤトに話しかけた。


「ヤト…VRCD権限を使ったんだね」


「……仕方なかった」


「相手がチートアイテムを使ってたのかい?」


「いいや、普通のプレイヤーに普通の装備だった」


「それって……VRCD権限を使ってしまってもいいものなのかい?」


「執行規約違反で罰則だ。権限の剥奪に悪ければ刑罰の対象にもなる」


「刑罰――どうして、普通に戦ってもヤトなら――」

 カイトの言葉にヤトは小さく呟いた。


「俺を買い被り過ぎだ」


 ヤトは初めて弱弱しい姿でカイトとマリシャの横を俯いて転移ポートへ向かった。

 カイトもマリシャも後を追うことができず、ただただその場で立ち止まっていた。

 2人の脳内にはヤトの言葉が何度も繰り返し流れ。初めて彼という存在がそれほど特別ではないと理解する。

 しかし、ヤトになんと声をかけていいのか2人にはその言葉が見つからなかった。



 その事件は始まりし街。特に非テスターたちにとって大きな話題になった。

 現実へ帰りたいという願い。その果てにクエストを強行する者がいた事実。

 その者たちに抗ったBJたち。その者たちをログアウトさせた黒い剣使いのヤトの存在。

 かつてヤトがブラックプレイヤーとして一時噂になったことも再び再熱した。


 その週の内に始まりし街に流れた噂はその噂だけではなく、ブラックプレイヤーと戦う一人のプレイヤーの噂が広く知れ渡った。

 始まりし街周辺のブラックプレイヤーの数は激減し、ファミリアのメンバーと一緒にLv上げでフィールドへ出るプレイヤーも増えた。

 その影で、ヘイビアやシトリー近辺はさらに危険度が増し、日に日に始まりし街へと流れるプレイヤーも増えていった。


 あの事件以降ヤトは姿を消した。

 カイトやマリシャ、BJとファミリアのメンバーは暇になると彼の姿を探したが、ヤトの行方は一向に分からなかった。


 そんな事情を知らず、漸くシトリーから始まりし街に現れたナナ。

 カイトとマリシャにその事件の真相を聞いたナナは、見たこともない表情を浮かべてカイトの頬を打つ。

 圏内だったため頬に当たることなく衝撃だけが再現されたが、カイトは衝撃よりも彼女との約束を護れなかったことに対し心を深く傷つけた。


「私、言ったよね」


「……ナナちゃん」

 マリシャはナナの肩に手を置こうとするが、その手は払われてしまう。


「"ヤトを一人にしないで"ってカイトにお願いしたよね」


「……ゴメン、ナナ。ボクは――」

 カイトは俯いてそう言うと、マリシャがナナの肩にもう一度手を置く。


「私の所為でもあるわ。ヤトに声をかけられなかった」


「……きっとヤトはボクやマリシャさんじゃいけないところにいる」

 カイトはそう言うとナナの手を握る。


「お願いだよナナ。ヤトを連れて帰ってきてよ」


 戦闘力の低いカイトに、戦闘力そこそこのマリシャではいけない場所にヤトがいるに違いないとカイトは言う。


「検討はついているのね?」


「第9エリアに向かったんだよ。きっとこのBCOを攻略する気で――みんなのために――」


 ナナはカイトの手を握り締めて頷き、マリシャにも目で"必ずヤトを連れて戻る"と訴えてホームを後にした。


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