29 帰還を急く者
カイトを残し、ヤトは単独で、マリシャはファミリアのメンバーとBJを探す。
ヤトはなんとなくだが、BJは圏内にいるのではないかという勘でできるだけ人気のない、がスペースが確保できる場所を考える。
始まりし街は現状2分化されている。南の転移ポート近くはオーダーが占拠。
北側商業地区、ホーム部分、非戦闘員の区域。
ヤトは商業地区の地図を見て気付く。
「…チュートリアルルーム――」
テスト時には転移ポートの近くにあったが、オープン後は北側の街と通常の戦闘フィールドとの間に移った。
得られるものもないため誰も近寄らない。誰も近寄らないからブラックプレイヤーもいない。
「盲点だったな」
ヤトは街中を駆けてBJの元へと向かう。
チュートリアルルームはアスレチックコースのようになっていて、上に向かって広くなっている。
かといって、ヤトの視界上にあるミニマップにも入りきらない広さは確保されていることから、直径でも1km四方はあることになる。
ヤトが入り口のポートから現れるとすぐにそれが目に入った。
BJが何かのアイテムで拘束されている。
ヤトは身を隠して様子を疑う。
BJを拘束するアイテムはユニークアイテムに違いない。そう判断するヤト。
BJ以外に立っているのが3人。その奥にさらに3人。しかし、奥の3人はBJとは違うアイテムで拘束されている様子だった。
姿を隠しているとBJが話をし出す。
「どうしてお前らがそんなことしてんだよ。俺の仲間はどこだ!無事なのか――」
BJの言葉に3人の男の内1人が話す。
「もう限界なんだ。こんな世界間違ってる。俺は毎日働いて2歳になる子どもがいて嫁さんがいて――」
「その気持ちは分かる。が、こんなことをしても誰もよろこばねーぞ!」
「BJさん…あんたには世話になったが俺は現実に帰りたいんだ!毎朝モモをだるくして電車に揺られて、会社で上司にいびられて、疲れて帰って嫁さんの愚痴聞いて娘の寝顔見るんだ…」
「だからって、こんなことするのかよ」
「BJさんが10ポイント。あっちの女の子たちが合計4ポイント。捕らえているファミリアのメンバーが11ポイント。その他のギルドマスターとメンバーで4ポイント。コレで合計30ポイントだ」
「他の奴はまだ無事なんだな!」
「ああ、今はな。でもあんたをPKしたらすぐに後を追うことになる」
「お前ら!!」
おそらくあの3人は、普段はBJと仲のいいソロプレイヤーたちだろう。
奥の女の子たちが人質にされてファミリアと他ギルドのメンバーが捕まった。
その捕まった仲間を助けるためにBJも抵抗しない。
ヤトは壁を蹴って上へ上へと上る。
すると上にアイテムで拘束された人影を数名見つける。
近づくとヤトは静かに話しかけた。
「おい、あんたファミリアのサブマスターの"オツイチ"だな?」
「そういうあんたは、ヤトさん…頼む助けてくれ」
「ジッとしていろ…すぐに解く――」
ヤトは彼の拘束を解くと他のも解くように言う。
拘束しているアイテム自体は武器さえ装備すれば簡単に外せた。
見た目の装備からも3人のLvが高くないことはすぐに理解できる。
このまま拘束するか――
ヤトは上から飛び降りて拘束された3人の女の子たちを見張る2人を蹴り飛ばす。
チュートリアルルームはPKのできない非戦闘フィールド。
吹き飛ばされた2人は近くの壁にぶつかりエマージェンシー表示が現れる。
「な、なんだ!」
「ヤト!!」
現れたヤトに男とBJは驚きを表す。
「BJ、助けに来た」
ヤトは最後の男を殴り飛ばそうと拳を握る。
「待て、ヤト坊!!」
しかし、BJはヤトを止める。そして、その理由は男が勝手に話し出した。
「動くな!誰か知らないがな抵抗するとそこの3人のHPがなくなるぞ!」
よく見ると3人の女の子を縛るアイテムはそのHPを徐々に削っていて、男の左手操作でさらにその速度が上昇した。
3人は悲鳴を上げて苦しみだす。
「レアアイテムのトラップだ。このアイテムは圏内でもHPを削る。それに――」
男は右手の剣をBJに突き刺す。
「ぐぅ!」
おそらくすでに男とBJはデュエルの状態。BJの体に難なく剣先が刺さる。
BJのHPバーがゆっくりと減少していく。
「ヤト坊、俺に構わずそっちの子たちを助けてやってくれ」
「BJ!」
「俺がやられちまう前にその子たちを助けろってんだ!頼む――」
BJはそう言うがヤトはすぐには動けない。
「勝手に話すな!バインド!!」
「ぐぁ!!」
BJを縛る鎖状の拘束が彼を締め上げる。
ヤトは考える。その間に吹っ飛ばした男たちが起き上がり、女の子は悲鳴を上げ苦しみ、BJはヤトに願う。
BJに剣を刺す男が起き上がった仲間に指示を出す。すると、2人は手元にアイテムを出現させる。
その時。
「VRCD権限発動―――」
ヤトの言葉に男たちは立ち止まる。
「エージェントID【YATO‐0031‐9218】――」
BJは「ヤト?」と呟く。
「オブジェクト"S"――ジェネレート!」
張り上げた声。突き出した右手に全体が黒い長剣が現れる。




