28 ファミリア
2077年2月28日
ヤトが覚醒してから5日後。
「お~!ヤト坊!この寝坊助が!」
BJは現れたヤトに両手両足を広げて飛びつくが、サッと避けられて地面に激突してしまう。
避けることねーだろ、と言うBJに「つい」と言ってスマンと謝るヤト。
「でも、よかった!本当によかった!」
「何も泣くことじゃないだろ」
ヤトの態度に目頭を擦るBJは、「白雪姫ならぬ黒ヤト姫が目覚めたんだ。別に、うれし泣きしてもいいだろ」と言って再び目に涙を溜める。
「別にリンゴを喉に詰まらせてなんかないぞ」
その言葉にカイトは、「じゃー眠れるVRのヤトだね」と笑みを溢す。
「ところでヤト坊。3人にちゃんと礼は言ったのか?ナナにカイトにマリシャ…、3人ともお前の心配ずっとしてたんだからな。もちろん俺もだけど――」
「言うには言ったんだが…何せ、俺の体感では一瞬だったからな。うらしま太郎がどうだったかしらないが、不思議な感覚だ」
3人はファミリアのギルド本部に入ると、そこにすぐマリシャも合流する。
「へい!ジャスティス!私を置いて出かけるとは愚かな選択だと思うんだが――」
それに加え、ウサギのシャドーもマリシャに抱かれて現れた。
他愛も無い会話をしてからクエストの話をする。
「ナナが来るのを待ちたかったんだが。来ないものは仕方ない」
「彼女もトップギルドのサブマスター。簡単に外を出歩けないのは分かってあげないとね~」
マリシャの言葉にヤトは頷く。
「で、最近の始まりし街はどうなんだ?」
ヤトの質問にBJは溜め息を吐く。
「どうもこうも、Lv上げもままならないぜ。オーダーとウチのギルドがちょくちょくケンカしたり、ブラックプレイヤーが外をうろうろしているしな」
「PKが日常化しているのか?」
「ああ。特に、始まりし街は外にいるモンスターが弱いから出待ちし放題だしな」
BJはそう言いながら肩を落とす。
「ギルドに入っていないプレイヤーも、毎日ホームに篭るか、ファミリアの巡回時間に移動することしかできなくなちゃってるからね」
カイトはそう言うと、いつもお世話になってますとBJとマリシャに頭を下げる。
「そんなたいしたこた~してね~よ。漢なら当然のことですよ」
デレッとした後、BJは決め顔でそう言った。
「最近じゃ~猫の手のギルマスとサブマスと結構仲いいのよBJは~」
マリシャは、「二人とも可愛い子なんだから」と言うものの、BJの「ま、まぁ~な…」と言う言葉で話をきろうとする。
おそらくBJ的にその二人が好みじゃないのかもしれない。
「一先ず、BJがいるおかげでこの街は大丈夫そうだな。俺がいたところでこうもプレイヤーを纏められるわけじゃないから…」
「んなこたね~よ。俺だって1人だったらなんもできないただのチャライおっさんだしな」
「そうね。みんなのおかげでこのギルドはうまくいっているって感じよね~」
「マリシャ、そこは否定してくれないと俺の立場が……」
BJの扱いに慣れたマリシャに、以前とは違った印象を受けるヤトは変わったなと声をかける。
「おかげさまで。ヤトとBJのおかげよ~」
手元のシャドーをギュッと抱くマリシャに、BJは「うらやましいなウサギ」と呟いた。
ギルド間の話の後はBCOのクリアが非常に厳しいことを話題に上げたヤト。
その口火はシャドーが切る。
「計算上このBCOを攻略するにはLv320以上。時間は26280時間必要。ちなみに、昼夜Lvを上げて320に到達する時間がそれだけかかることになる」
「26280時間ってことは――」
BJが指折り数えようとするとすぐにヤトが「3年だ」と言う。
「Lv上げだけで3年……」
「実質、倍近くかかるんじゃないか…」
カイトとBJがそう言うと、ヤトは「いいや」と言ってその考えを否定する。
「シャドーが言ってるのはモンスターがこのままの状態でならってことだ」
「するってーとーつまり…なんだ?」
「モンスターがチート過ぎて攻略は不可能ということだ」
全員が沈黙する。
無理もない。彼らは現実への帰還を糧に今までBCOないで生きてきたのだから。
「が、攻略は不可能だが、生きていれば一年以内にBCOからの帰還は果たせると思う」
ヤトの言葉にBJは驚いて「え!なんでだ?」と言う。
マリシャの膝の上のウサギを捕まえたヤトがそれを机に置く。
「シャドーは知っているだろうが、俺のHMCの中にあるAIのコピーだ。こいつの本体はBCOからHMCへ戻る時に、HMCに取り付けられた外部パーツのスキャンをして、ある程度の構造はデータとして持ち帰っただろからな」
「左様、ゆえにジャスティスの父にして我が生みの親が、一年以内にそれを取り外す算段をつけるだろう」
ヤトとシャドーの言いようは確信がある言い方で。BJは「お前の父ちゃん何者だよ」とヤトに聞く。
「ただのHMCオタク、VRマニア、AIファンってとこかな」
「違うぞ!彼は有名だ!かの仮想空間への感覚全投入のシステム、フルダイブシステムの開発者に負けず劣らずの鬼才だ。主に感覚的な部分でずば抜けた研究をしていたのをジャスティスの母が―――」
ドゴ!と机が叩かれる音でシャドーは喋るのを止めた。
ヤトの拳が机に当たりimmortal Objectと表示される。
「その話は…必要ない」
思わずBJが話題を変えようとした時だった。
「BJさん!」
ファミリアのメンバーが血相を変えてBJを呼ぶ。
「なんだ?どうした?」
「見回り組みがやばいことになってますよ!」
「…悪いみんな、俺ちょっと見てくるわ」
BJはそう言うと1人足早にその場を後にした。
数十分経っても戻らないBJ。ヤトは何かあったのではとファミリアのギルド本部を出る。
ファミリアのギルド本部は転移ポートからは遠く、非戦闘員が集う場に近い。
外に出たヤト。追いかけるようにカイトとマリシャが出てくる。
辺りを見渡してもBJの姿はない。
ヤトは左手を操作してフレンドの項目を選択する。
【KJ】※ブロック中
【MARI】:IN:FamIlIar:始まりし街街中
【7NANA7】:IN:Phantom Horizon:シトリー街中
【BJ】※ブロック
【KAITO】:IN:――:始まりし街街中
BJがブロックしていることがすぐに見て取れる。
「マリシャ、カイト――フレンドを開いてBJの状態を見てくれ」
ヤトに言われてすぐ左手を操作する二人。
「え?なんで――」
「ブロックされてる…」
いよいよBJに何かあったに違いないと、ヤトは珍しく眉を顰めるだけじゃなく地面を強く踏みつけた。




