27 クエスト
『キミたち、日本サーバーにおいて現在生存する人数は9184人だ~!非常に優秀です!最下位のサーバーはすでに5780名にまで減っているのに~。さすが、経験のある国だね!』
その言葉に他の国でも同じことが行われていることを何人かが察する。
『ま~僕から言わせてみれば……つまんない!凄くつまんない!ですので今回特別にキミたちには"クエスト"を出します!』
ヘイビアのプレイヤーたちはそれを聞いてざわつく。
このBCOにおいてイベントはあれどクエストの概念が今までなかったからだ。
『クエスト名は!ドルドルドルドルゥ~デン!"ギルド討伐クエスト"!その内容は実にシンプル!ギルドに所属するプレイヤーをKillするとポイントが加算される!』
ナナが「ポイント…」と口にする。他の者もその内容に聞き入る。
『ギルドに所属するプレイヤーは等しく1Pの価値があります!さらに、トップギルドからは等しく2Pの価値が付きます!!』
マリシャは自身の体から血の気が引くを感じる。
『トップギルドを紹介しておこう!幻影の地平線!クラウン!オーダー!ファミリア!』
BJのその手に持つ剣が先から震える。
『どうだい!恐怖を感じるかい?危機感を覚えたかい?でも…まだ足りない。さらに項目を追加をしようか!』
『全てのギルドマスターのポイントは2倍!トップギルドのサブマスターも2倍!!最後に!トップギルドのマスターは…………』
アスランはジッと空を見ている。
『5倍だよ!』
BJはその手から剣を落とす。
『あ!そう言えば!言うのを忘れていた!報酬はBCOからの帰還だよ!』
"BCOからの帰還"その言葉を口ずさむ者は少なくなかった。
『帰還には1人10PいるからドンドンPKして下さい!後、現在時刻からギルド機能の操作はロックさせていただきました!誰も――逃げられないよ』
ナナは手元のウィンドウにギルドの項目が選択できないことを確認する。
『ふふふ、ふははははHAHAHAHA!HAHAHAHAHAHAH――ジジジッ―ブン―』
不気味な笑いを残し、空にいたピエロも室内にいたピエロも一瞬にして消え去る。
誰もが言葉を失った。
ギルドに入っているプレイヤーの頭上にはGの文字が表示されている。
互いの視線が自然と頭上に向く。
ヘイザーはレイネシアを見る男を睨みつける。
ジョーカーは、目の前に希望という名の絶望を置いて人に死を求める。
街中でなければ即座に諍いが起こっていただろう。
しかし、この誘惑に惑わされない人間はいない。
葛藤して選択を得る者の中には帰還の選択をする者いる。
恐怖の対象がいなくなった始まりし街のホーム。
「こんな……人をなんだと思っているんだ」
カイトはヤトの手を額に当て震えを止めようとしていた。
「危険なのはギルドに加入している人たちだけど…一番危険なのはギルド幹部」
幻影の地平線のアスランとナナ。
クラウンのヘイザーとミリアリア。
オーダーのKJとクラウ。
ファミリアのBJとオツイチ。
「特に、BJさんはテスターじゃない。他のギルドマスターより狙われる危険性が一番高い」
カイトは、非戦闘員の子どもやその近くで世話している人たちが、どのギルドにも参加していないことが唯一の救いだと思ってしまう。
そう―――唯一の。
「…ある意味、ギルドに加入してない人も危ないかもしれない。恐怖は伝染するし、"殺られる前に殺る"って考えの人だって現れてしまう」
カイトの言葉は間違いではなかった。
数日後、始まりし街の外で一番最初に犠牲になったのは、ギルドたちと鉢合わせたソロプレイヤーだった。
その後、ギルド間の戦闘が増えて非テスターが街の外へ出ることも減り、トップギルドの動きも警戒を強めていった。
その中で街中を堂々と歩いているのはアスランとナナ。それにBJぐらいだった。
「本当に出歩いて大丈夫なんですか?」
ギルドメンバーに心配されるBJは笑顔を浮かべて言う。
「何、心配するだけ無駄さ。俺たちがこうやって歩いているだけでこの辺のプレイヤーは安心できるだろ?俺たちを支持してくれているギルドもかなりいるしな」
「と言っても、BJさんはテスターでもないし」
別のギルドメンバーの言葉にもBJは笑顔を返す。
「だな、だからこそ、非テスターのギルドから信頼されてる。それに、堂々と歩いてるとほら――"狙われているのに堂々としてカッコイイ~"って女の子に思われるかもだろ」
「…まぁ――」
笑顔のBJに比べ、後ろに並ぶファミリアのメンバーは顔に警戒の色が窺える。
そんなメンバーも、BJが笑顔で道行くプレイヤーに挨拶している姿を見て表情を緩める。
しかしこの時、BJのことをジッと見つめる視線があった。が、彼がそれに気付くことはない。
そして、こんな状況で、いや、こんな状況だからこそ。
彼が目を覚ます。
「カイト。私には味覚エンジンのそれがあまりない。どれもこれも無味無臭だ。唯一"ナナの指が甘い"ということだけは分かったが――」
俯くカイトを気遣ってあれこれ話を振るシャドー。
しかし、さすがにPvPが起こってしまったことがカイトを暗くさせてしまう。
「ヤトが、起きたら食べてもらおうと思って…肉じゃがを再現したんだけど…そっか、シャドーは味覚がないんだね」
机の上の肉じゃがのジャガイモの代わりのそれを切るとカイトは口に含む。
数秒以内に食べないともう半分も消失してしまうため、「おいしい」と呟いてもう一つを持ち上げた時だった。
ダン!という音がしてカイトはそれを机に落とす。
椅子から立って寝室へ向かうとその足元にシャドーも続く。
カイトの視界にはベットから落ちたヤトが立ち上がろうとしているところだった。
「ヤト!」
駆け寄ったカイトに視線を向けた彼はゆっくりと立ち上がって言う。
「俺はどれだけ寝ていた?今はいつだ?この世界はどうなっている――」
カイトは驚きと嬉しさで口を押さえて涙を溢した。
そんな彼女の代わりにシャドーがヤトと話す。
「起きて早々質問が多いなMr.ジャスティス」
現れたシャドーをヤトは無言で頭を鷲掴み持ち上げる。
「お前……置き土産ってのはこれのことか?」
飽きれた声を出すヤトにカイトが勢いよく抱きつく。
「ヤトヤトヤト!」
「おい…カイト。少し落ち着け――」
しかし、ヤトの言葉にカイトが落ち着くまでには数分をようした。
約二月間彼女にとってはとても長い期間だった。
そう、とても。




