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23 シャドー

『ところでジャスティス、キミの思考を取り入れた結果――その結論はおそらく当たりだろうな』

 唐突にAI:Shadow(シャドー)がそう言うと、デスロードのに空中連撃をしているヤトは加速させた思考内で会話する。


「俺の結論?……この世界(BCO)のことか?それともKJのことか?」


『違う!ズバリ!キミの好みが"マリシャ"だと言うことさ!』


「……」


『次に!ナナ!最後にカイトだね!性格でいうとカイトが一番でナナ!マリシャとなってしまうんだが――』


「一体何を言っているんだ……」

 ヤトは自身のコピーであるシャドーの言葉の意味が理解できず少しだけ戸惑う。

 もう少しその意識が強ければ処理領域が停止し、デスリッチのサイズをかわせなかったかもしれないところだ。


『ジャスティス、キミだって男で性欲があるってことさ…割合はかなり少ない方だけどね。と言っても、私としてはもう少し男としての欲求を満たして欲しい所なんだが』

 まったく、こいつは――


「…戦闘の邪魔だ、黙ってろ」


 刹那の会話を振り払い、ヤトは装備を大剣に換えデスリッチに斬りかかる。

 大剣を刺したまま断続ダメージを与えてデスロードの大剣を避ける。

 その瞬間に再び処理の加速。


『ジャスティス、冗談はこれぐらいで本題に入ろうか』


「……冗談を言っていたのだとしたら、大したコピーだ」


『現在キミの記憶と推測を鑑みた結果、この世界の攻略は不可能だ。キミも察している通り、最初の大陸の一つのエリアをクリアするのにLv100は必要であると推測される』


「…おそらくだけどな」


『その結果からこの事件の首謀者はゲームのクリアなど望んでいない。Lvを上げさせたのち、おそらく新たに人と人の抗争を起こそうとするだろう』


「最終的な目的は――」


『日本サーバー以外もいくつか同じ状況である可能性が高い。つまり国対国のPvP――』


「そのための広域な戦闘(バトル)フィールドということだな…」


 さすがは自身のコピーだとヤトは関心する。


『ゆえに子孫を残すべきだ。現状無謀な事ではあるがね』


「…俺の関心を返せ――――」


 溜め息を吐くヤトは、デスロードの大剣を掻い潜り、空中で縦に回転して手に持つ大剣の刃を数回当ててHPバーを削り切る。

 赤いエフェクトと黒系統のエフェクトが飛散してデスロードが消え去る。

 瀕死の状態のデスリッチの動きが速くなったように感じるのは、モンスター一体分の処理が無用になったためだろう。

 加速された思考の中でシャドーと再び会話をする。


「外の状況は分からないのか?」


『私はスタンドアローンなんだよ、キミの記憶にあること意外は知りえない。しかし、一つ理解していることがある。例の小型爆弾は偽物、フェイクだということだ』


「何故そんなことが言える」


『私がキミと繋がってすぐセキュリティーが発動した。おそらくは私をウイルスと勘違いしたんだろうな。爆弾ならばそんなもの必要ない。考えられるのはそれがただの電子的部品であることだ』


「爆弾じゃない根拠は何だ?」


『アレに付いてた生産国が海外だったからだよ。爆弾なら輸出、輸入のさいに感知できるだろう。電子的な部品の塊なら感知されても問題ない』


「爆弾じゃないのだとしたら…」


『首の端末に接続されたHMCは脳の信号を読み取りVRに取り込む。本来は感覚器官に送られるそれを直接VRに――しかし、HMCは遮断と同時に臓器機関など生存活動に必要な信号を送るためにある一定の電力が供給され内蔵している』


「……電力を変換したり、出力を抑える部分に何らかの影響を与えるためのパーツ…」


『だろうな、それよって起こりうるのは、出力と制御が狂わされた結果、高周波誘導加熱された脳はその機能を停止するだろうな。文字通り"脳がゆでられる"ということだ』


「高周波誘導加熱の原理では、被加熱物が導電体の必要があるはずだが――」


『"脳を"と言ったのは間違いだね、HMCをコイルに利用することで頭に接触した金属部分の自己発熱によって、頭を外部から焼くことも考えうることだ。高周波誘導加熱は高速で加熱することができ、その加熱効率も高い』


「単に高出力させた電力でも脳内の水分を伝導体として脳を焼けないのか?」


『…さーな、キミが知りえないことは私も知りえない』


「知識不足か――」


『ところで、さっきも言ったが、私は"ウイルス"としてもうすぐあのパーツに弾かれてしまう』


「つまり平行処理ができなくなるってことか?」


『今後の同期も無理になる。ゆえに私はできるだけあのパーツの構造を記録してメモリ内に持ち帰る。そのぐらいしかできない。それによって外部からキミの父上辺りが取り外す手順も得られるかもしれん』


「たった一回で――使いどころは間違ってないと思うが…」


『私を役立たず呼ばわりするとキミも同じになるわけだが――』


「してないさ…しかし、この先チートに対してどう戦うか」


『何を言っている…キミは正義、過去に私のアシストなくとも戦っていたキミは相変わらず健在だ。私抜きでもやれるだろう』


「……当然だな」


『なに、置き土産ぐらいしていってもいいが―――どうする?ジャスティスジャンキー』


「…貰っておいて損はしないしな――」


 会話を終えたヤトは大剣をデスリッチに刺したままウィンドウを開いて左手の操作で装備を変更した。

 すると、大剣は消えないままに新たに長剣が現れる。


『あの大剣は言うならスタンドアローンコンプレックスだ。キミの意識や私の意識、それにこの場を形成するデータの処理があの大剣に集まって、孤立化しているあの大剣の処理が遅くなっている。それは触れているモンスターにも影響を与える楔となる』


「……完全なチートだな」


『そう、完全なチートだよ。なにせキミはチーターなんだからな。VRCD権限にしろ私にしろ本来持ち得ないものだ。それ以前に"キミ"という"存在"が完全にチートなんだが――』


「チーターか………いつだったか、誰かに言われたような気がする」


『覚えていないなら教えようか?』


「……必要ない」


 長剣を刺して、次に大剣、片刃長剣。普段なら使わない大刀や刀も次々刺していく。

 デスリッチはその殆どが骨であるため、肉ではなく骨を貫通しているのだが、そこはVRゆえに切断されるということはない。


『そろそろだな。それではジャスティス。いざ、さらばだ。幸運を祈っている』


「……幸運――ね」


『あと…私の好みで言うならナナがお勧めだ――』


「黙って消えろ」


 そして、平行処理が終了し、ヤトはデスリッチと距離をとった。

 すでに瀕死のデスリッチだが、刺さっている剣のダメージが1しか表示されていない。

 おそらくステータスの変更が行われて、VITが異常に上がっているのだろう。

 加えてスキルの断続使用で隙がまったくない。


「平行処理無しにどこまでやれるか判らんが――――」


 AI:Shadow(シャドー)抜きの高速戦闘は、処理をヤト自身の脳に頼りきりになる。

 サイズを掻い潜りアルシャナスで足を2回斬り払い、背後へ回る。


「くっ―――」


 ヤトの視界に身体的エマジェンシーを知らせるシグナルが点滅する。

 HMCが体の異常を感知して知らせているのだろう。

 しかし、ヤトは戦闘を続ける。


「はぁぁああああああああああ!」


 空中で攻撃し、落下しながら回転攻撃する。そして、地上に降りた瞬間に襲い掛かってきたサイズを避けてスキルを発動する。


 LIMIT OVERが表示されずに、デスリッチのHPバーが完全に無くなると、その体はデスロードと同じく飛散してエフェクトだけを残す。


 刺さっていた剣も辺りに散らばって、周囲の背景が黒くエラーを知らせる中。


 ヤトは完全に停止した。


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