22 超レイド級モンスター
2077年1月11日
AM02:21―――――First Continent――Area One―――Section Area The Seven――
戦闘開始から20分。
超レイド級モンスター、デスロード・アンダーリッチ。
騎士の胴、スカルタイプの脚部、腕は鎧を付けた腕が2本とスカルタイプの腕が2本。
騎士の両手には大剣が。スカルタイプの両手には1本のサイズ。
平原をスカルタイプの足が駆ける。
その巨体は真下に立っても胴体に手は届かない。
アクロバットな動きに2本の大剣は付いて行けない。時折振られるサイズもヤトには掠る気配もない。
HPバーは半分ほど削っている。と言っても"12本中の1本の"だが。
剣士になりたての彼はまだ剣の扱いに関して完璧とはいえない。それもアシストのないBCOだからだろう。
本来自身の感覚以外にゲームのシステム的サポートは、常に彼の傍にあった。
だからこそ、彼は苦労を強いられている。
だが、彼には幼い頃からその身(脳)に積み重ねた格闘術の経験が玄人に達する域である。
無論、現実でも実戦として何度か使ったこともあるぐらいだ。システムアシストなど必要はない。
しかし、剣士になる過程でその間合いの違いはすぐには修正できない。
リーチが素手に近い短剣の方がヤトにとっては戦い易いが、武器自体に攻撃力というものがあるが故に、片手長剣や片刃片手長剣、大剣などに頼らざるを得ない。
デスロード・アンダーリッチは攻撃が素早く、連撃系が多いため回避に時間を取られて討伐には相当時間がかかる。
ヤトの攻撃はその殆どがモンスターのウィークポイントにヒットしてはいるが、刃先が掠めたり鍔元が当たったりとダメージにネガティブが加わってしまうのもその要因と言える。
「まだまだ、扱い慣れないな――」
油断しているとデスロード・アンダーリッチのスキル攻撃がヤトを襲う。
仮想世界で体を切り裂くことなく剣の刃が自身を貫く感覚。
普通なら少し痛みを感じるだけのはずが、彼は恐怖を感じる。
彼の脳は仮想かそうでないかは全く関係がない。
VRMMOの大多数で可能な死に戻りは可能だ。が、彼にとってその手段は手段たり得ない。
2歳から続くVR歴で彼は一度として"デス"したことはない。
「もっと速く――」
おそらくヤトはこの先もVRで"デスループ"をすることはない。
一度でもその身をエフェクトにしてしまったなら、彼は二度とHMCを、FD事態をしなくなってしまう。
そう、彼にとってBCOの"死ねない"は特別な要素ではない。
それが日常なのだ。
「もっと――」
誰にも理解されない。
誰とも共感したことのない。
誰かもきっと懐いている。
誰しも孤独と戦っている。
「相手を見る!斬る!避ける!どの動作でも大事なのは見ることだ、目を背けない。そこに強大な敵、巨大な悪がどれだけいようとも俺は――」
デスロード・アンダーリッチのHPバーが、ヤトの持つアルシャナスのスキル【リミットオーバー】によって2本目を削り切る。
LIMIT OVERの文字が軌道に記されると彼は呟いた。
極限の上方(高み)に――
すると、デスロード・アンダーリッチのHPバーが5本ずつ分離するように上下に分かれて、それと同じく、胴と脚部が分裂した。
胴は大剣2本を持った足のない浮遊型のモンスター"デスロード"に。
脚部はサイズを持った不恰好なスカルモンスター"デスリッチ"に。
「ボスが2体――KJの奴……」
おそらくはKJが送り出した"攻略組み"が壊滅した原因。
KJがコレをあえて隠していたことはすぐに察することができたヤト。
超レイド級と名を謳うだけはある。そう彼は思っていた。
対複数の戦いは今まで何度も経験してはいたヤトだが、レイド級ボス2体は経験のない相手だ。
なにせ、彼はどのタイトルにおいてもLv上げとレアアイテム集めしかしてこなかった。
最終目的が違法なプレイヤーとの戦闘であったため、ボスと称されるモンスターとの戦闘経験は数える程度。
極論を言えば、コンバートが可能ならどのタイトルでもモンスターと戦うことなく、チーターと戦ったり違法MODを削除したりできればそれでよかったのだ。
このBCOにアカウントを作成したのもそのためなのだから。
デスロードの大剣が振り下ろされて、デスリッチのサイズがなぎ払われる。
ルーティンが読みづらい。ヤトはそう思いながら戦っていた。
2体いるからとかボスだからとかではなく、エネミーのアルゴリズムが通常のそれと違っている。
「AIを搭載しているのか――」
AIは自身の学習から選択手段を増やしていく。が、この2体の動きはかけ引きや戦略に富んでいる。
つまり学習しているのではなく、すでに戦略思想があるということだ。
「プレイヤーか…」
呼吸をしている気配がないことからフルダイブしているのではなく、画面の前に座って操作をしているだろう。
それはそのプレイヤーが、ジョーカーと同じ意思を持っていて、GM側にいるということだ。
前回第3エリアのボス戦で出てきたチート級モンスターを操作していた存在と近しい者。
FD経験の不足、ゆえにディスプレイ上でキーボードとマウス操作でプレイしている。
相当な経験があることから、おそらくプロだろう。
アナログな人物。スキルの連発からみてチート状態。
ヤトは目の前の存在を"悪"だと認識した。
こうなってしまっては彼は止まれない。動きが速過ぎて情報の処理が徐々に遅延していく。
次第にヤトの処理も限界を迎える。
「スタンドアローン―――ノーマル――アクティベーション」
コールと共にヤトの脳内に言葉が繰り返される。
『 Stand Alone―――Normal――Activation………Shadow――Import……Accept』
VRに置いてプレイヤーの動きが速過ぎると、背景や諸々の処理速度が低下してしまう。
速く動けば動くほど、高がゲームサーバーの処理能力では処理しきれなくなる。
しかし、ヤトの脳とリンクしたそのアバターはゲームサーバーの処理ではなく、現実脳とHMC内の仮想脳との平行処理を基にしているため。アバター自身をシステム的に孤立化させて、HMCの処理を安定化することで、仮想現実で高速に動こうとも遅延なく体を動かせる。
それでも、断続的にそれを続ければ処理しきれないデータの蓄積でエラーが起こることもある。
必要な時に必要な時間だけその状態にする。それによってデータのエラーを補正、修正、処理し比較的長時間の処理の高速化が可能となる。
つまりは、ヤトが速く動くことでモンスターは動きが遅くなり、命令を受けるのも遅れて、行動が絶対的に遅れることになるのだ。
「あえて言うとしよう……ここからは、ずっと俺のターンだ―――」
アバターを構成するステータスはすでに超人の域。
1000分の1秒とはいかずとも、体の反応は敵の攻撃の挙動から避けられるほどには速い。
攻撃に関しても、秒間3回斬り付けることが可能だ。
難点を挙げるなら、思考の加速が行き過ぎると体が反応するまで数分かかる時もあること。
戦いの最中、ヤトの頭に響く声。
『やーキング・オブ・ジャスティス。どうやら難敵なようだ…と言ってもジャスティスの敵ではないかな――』
「…シャドー」
思考領域に会話するだけの余裕があるがゆえに、平行処理を行うとAIがヤトに話しかけてくる。
その純粋な欲求は知識欲のそれだが、戦闘中でもお構い無しだ。
「変な呼び方をするな、俺のことはヤトと呼べと言ってる」
『私の完璧なネーミングセンスを疑うなんて――"シャドーショック"だよ』
ヤトは戦闘中シャドーの会話を遮る手段がないため渋々それと会話をする。
本当に"渋々"である。




