19 ブラックプレイヤー
ボクがヤトを事件に巻き込んでから一週間。
事件の真実の大部分はボクだけが知ることで、ヤトに口止めされたらもう何も言えなくて。
ヤトがプレイヤーをログアウトさせてしまったことで、その噂がゆっくりと時間をかけて善くも悪くも広まった。
ブラックプレイヤー。
PKをした者のヘルスバーが黒く変わることから"ブラックプレイヤー"と呼ばれる。
本来はそうなのだけど、ヤトはヘルスバーは緑のままなのにそう呼ばれることになった。
それは勿論―――ボクの所為なんだけど。
「ね、ヤト。キミはどうやって仮想課…じゃなかった。VRCDからその権限を与えられたんだい?噂だとプロプレイヤーの中でも数人しかいないって聞いたけど」
カイトの質問攻めにさすがのヤトも渋々口を開く。
「親のコネだよ。むしろ、コネというより"所為"って言った方がいいか。本当なら申請枠には18歳以上の規定があるんだが…俺は15の時から認定されている」
「あの黒い剣は削除ツールか何かかな?HMCにデータを保存しておいて、権限の執行コールで呼び出される仕組みになっているんだよね?あれがあればこのゲームからすぐに脱出できるんじゃないのかい?」
やんわりとウザ過ぎないカイトの話方に、ヤトは別段嫌がる様子も無く話した。
「仕組みはそうだが、脱出に関して言うなら爆弾がHMCに直接刺さっている以上は到底意味を成さない。あれ自体はチートMOD専用のデリートアイテムみたいなものだからな…その用途以外に使い道もない」
ヤトの言葉にカイトは「対MOD対策なんだね」と言う。
「HMCを開発した研究者たちからしたら、唯一HMCを悪用させない手段がそれしかないのが現状だからな」
今ボクらがいるのは始まりし街のプレイヤーホームの一つで、ヤトがボクのために買ってくれた二人のホーム。実際にはボクだけしか使っていないんだけど。
今日ヤトは知り合いのギルドのマスターに呼ばれているらしい。
オーダーというこのBCOで警備や生活基盤を作ったギルドだ。
用件は…ボクがいくら聞いてもヤトが話さない。だから、ボクはそれ以上聞けない。
ボクは女の子が好きだけど、もしかすると、性別じゃなくヤトという存在が好きになっているのかもしれない。
「もう行っちゃうのかい?」
「時間だ。待たせてもいいが、ここで時間を潰す用もないしな」
ヤトの言葉にカイトは頬を膨らませて「その言い方はボクがその程度の存在って言われてるみたいでやだな」と言う。
カイトの言葉に首を傾げたヤトは眉を顰めながらもホームを後にする。
街に出たヤトはそこにいるプレイヤーたちのヒソヒソと話す声を耳にする。
"アレが例の―――"
"ログアウトさせたってよ"
"ブラックプレイヤーよ"
"人殺しってこと?"
"おい、逃げようぜ"
逃げる者や中傷する者、怖がる者は問題ない。問題なのはブラックプレイヤーに目を輝かせる者たちが少数ながらいることだ。
主にテスターたち。この世界のクリア条件の一つ"非テスターの全滅"を心のどこかに持っている者たち。
怯えるのは非テスターたち。いつ襲われるのかと怯えている。
この世界においての異分子としてヤトは見られるようになってしまっていた。
ゆえにオーダーのギルドマスターKJは彼を呼び出したのだろう。
「やーやー少年!いや…"ブラックプレイヤー"のヤトくん――」
細めの体に細い目。オーダーの主要メンバーの1人ラビット。
「ラビット、彼のことはまだそう呼ぶべきではないと僕は思うけど」
メガネをかけた男はそれを右手で持ち上げる。オーダーの主要メンバーの1人クラウ。
ヤトは眉を顰めたままコの字型の机の内側に入る。
目の前の男を一瞥する。その印象が以前のものとは違うと気付き言う。
「……顔付きが変わったなKJ――」
「…秩序を維持するには少々苦労が多くてね。キミは――相変わらずのようだねヤト」
ガッシリとした体躯に強面なのは相変わらず。しかし、どこか疲労感に包まれ表情は暗い。
KJは手元に山ほどの資料を置いてあり、それがヤトの件だけのものではないことは察することができる。
ラビットとクラウがKJの左右に座ると漸く話が始まる。
話はヤトが圏内でプレイヤーをログアウトさせたことについてだ。
「報告ではヤトくんが街中、所謂圏内でプレイヤーの1人をログアウトさせたとあります。これについてはヤトくんに何か事実と異なることがあるなら言ってもらいたいけど…どうだいヤトくん」
クラウの言葉にヤトは「別に」と返す。
メガネを持ち上げて溜め息を吐くとクラウはKJに言う。
「KJさん、ヤトくんはこの件に関して全肯定するようです」
クラウがそう言うとKJは資料を机に置いて溜め息を吐いた。
「ヤト、ここでの発言は今後キミに不利になることがある…。発言の撤回はもうできないが…構わないのかい?」
まるで裁判の裁判長のような物言いにヤトは思わず呟いた。
「…裁判ゴッコとは笑わせるな―――」
その瞬間ラビットが手からロープのアイテムを取り出してヤトに投げつける。
アイテムはヤトの体に巻きついて拘束するとラビット自身が彼に飛び乗った。
「あんまり調子に乗らないことだね…少年」
「……」
「ラビット――」
KJに声をかけられるとラビットはヤトの上からゆったりと退いた。
ヤトの体に巻きついたロープを外すとラビットは元の席へと付く。
「体を起こすといい」
KJが見下ろしているのをヤトは一瞥して立ち上がった。
その後、ヤトはラビットを一瞥してKJに用件を聞く。
「で、俺を呼んだのはこんなお遊びにつき合わすためだったのか?」
「……ヤト、キミに第7エリアのボス攻略をしてもらう」
眉を顰めKJを睨みつけるヤトは「何を考えているんだ…」と言う。
KJは手の中の資料から一つを取り出してヤトに手渡した。
内容はオーダーの攻略組みの活動記録。
第7エリアの攻略。076年12月26日。
攻略参加メンバー、オーダー20名。
外部協力メンバー、45名。
死者38名。帰還者27名、内オーダー4名。
「……どうして、同じことを繰り返した――」
ヤトは目を見開いてKJを見る。
KJは溜め息を吐いて椅子から立ち上がるとヤトに背を向けた。
「我々オーダーは"最強"でなければならない。…が、最近我々の他に強いメンバーが集うギルドが増えている。一つは"クラウン"」
KJの話からその"クラウン"のギルドマスターはヘイザー。ヤトは面識があるが話しをしたことはない。
ヘイザーを筆頭にレイネシアや多数のテスター陣を主力としてレベリングしているらしい。
「もう一つはご存知――幻影の地平線だ。彼らが第7エリアの攻略に成功する前に我々のオーダーが挑む必要があった」
結果は惨敗。理由は第7エリアのボスの設定が50人規模では攻略不可能な設定だったため。
オーダーとその他協力した面々はこの作戦を強行したKJを責めた。その事に対してKJは「必ず攻略してみせる」と豪語した。
「アスランとサブマスターのナナは人を惹きつける魅力に満ちた存在だ。ヘイザーは1人で2人に匹敵する器を持っている」
「………要は焦ったってことだろ」
「ヤト、私はこの件をキミに託すことにした。…断ってくれても構わないが、そうなるとキミにはこの世界から退場してもらうことになる」
KJの言葉にヤトは舌打ちをする。
「俺にボスを倒させて手柄を横取りするつもりなのか――」
背を向けたままKJは微動だにしない。
「秩序が聞いて呆れるな――」
吐き捨ててヤトはその場を後にした。




