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17 チートMOD


 BJにファミリアのメンバーを紹介されたヤト。

 その後、BJに相談があると言われて眉を顰めながら話を聞いていた。


「最近さ~マリシャちゃんがさ~…ングゥ…俺に気がある気がしてたんだが…どうやら勘違いだったみたいなんだよな~」


「……」


「彼女さ、最初の頃スゲーメッセ送ってきてさ、俺…"やべー気があるんじゃね"って思ってたんだけどな…」

 BJはグラスに注がれたアルコール成分の無い酒を飲みながら、気分酔いしている様子で話している。


「……最近さ、全然メッセこなくてさ~ちょっと寂しいんだよな~」

 BJの発言からしてもマリシャはメッセージを大量に送る癖に関しては完治しているようだった。

 しかし、彼女の極端な態度にBJが落ち込んでいる様だったが、ヤトにそれを相談した所でどうなるわけでもない。


「………BJ…彼女はおそらく、"気を許さない相手"にはメッセを大量に送って遠ざけて、"気を許した相手"には全然送らない――そういう人なんだと思うぞ」

 その聞き苦しい言い訳のような言葉をBJはすぐに信じた。


「そうか、あの大量のメッセは彼女の精神防壁だったわけだ。それが今となっては俺の優しさで剥がれてしまったわけだ~なるほど!!」

 さすがにヤトが、"ポジティブなサンドバッグ"としてマリシャに提供しただけはあり、BJは笑顔で近況を話し出す。



 BJが初心者の非プレイヤーの中で"先生"と呼ばれていることと、ファミリアのスペルFamIlIarがどうしてIlIなのかをヤトに話し終えると丁度、マリシャがカイトと部屋から出てきた。

 だが、何故かマリシャは疲労感たっぷりの表情で、対するカイトは相変わらず笑みを浮かべていた。

 BJが何の話をしていたのかと二人に聞くと、マリシャは「あ~疲れた…今日はもう帰る…ヤト~ブロック解除しておいてね~」と帰ってしまう。


「一体どうしたんだマリシャちゃんは?」


「ボクはまたお話したいな。とても面白い人だよ彼女は」

 カイトはそう言うと満面の笑みでヤトの隣に座った。

 ヤトは椅子から立ち上がると、「それじゃーな」と言って帰ろうとする。

 なんだよ~もう帰っちゃうのかよ~とBJが止めようとするも、ヤトが予定があると言うと素直に「そうか」と言って見送る。


「じゃ~ボクも帰るよ。じゃ~ねBJ」


「またね~カイトちゃ~ん!」

 マリシャとカイトが帰ると男だけの会になるが、BJたちは気の知れた中であるために、それさえも楽しく過ごすファクターにしてしまうのだろう。



 ファミリアのホームを出た二人は始まりし街を転送ポートへ向け歩いていた。


「本当に予定なんてあるのかい?」

 指でヤトを突くカイト。


「……別に、いいだろ俺だって嘘吐くことはある」

 鬱陶しがるヤトは少し眉を顰めた。



 二人が歩いていると唐突に前を立ち塞ぐ男が現れる。男は頭にTの文字を表示させていることからテスターだろう。

 怒っているのか眉を顰めて二人を睨んでいる。


「随分と探したぞ!カイト!」


 今まで笑顔を絶やすことがなかったカイトが、その男が現れた途端に表情を曇らせた。

 ヤトの後ろに姿を隠して、その腕をギュッと強く握り締める。


「何だお前!カイトの連れか?それとも、たまたま知り会ったばかりの赤の他人ならそいつには関わらないことだな」

 男の言葉にヤトはカイトの顔を見る。


「ヤト…この世界は閉鎖されて、ログアウトができない。そんな世界でそいつは"GMより残酷な権限"を持っているんだよ」

 カイトはヤトに呟くようそう言うと、男は歯をむき出しにして怒り出す。


「何勝手に話している!お前の所有権が誰のものなのか忘れたとは言わさないぞ!勝手に髪を染めやがって!!」

 男は捲くし立てるようにそう言うとカイトの腕を掴んで引っ張った。


「ヤト……ボクはね。"この世界が嫌いになりそうだよ"――」

 抵抗しながらヤトにそう言うカイト。 

 ヤトはカイトを掴む男の腕を掴んで睨みつける。


「はぁ~あ゛!お前がカイトの何かしらんが!こいつは俺の所有物なんだよ!」

 そう言って男はカイトのマフラーを引き剥がす。すると、カイトの細い首に黒い首輪のようなアイテムが現れる。


「これはな!アバターに性的な感覚を再生するためのチートMODだよ!」


 チートMOD(モッド)は非正規のタイトルで流通されているものと、HMCに直接ダウンロードしておいてタイトル内でコールしてジェネレートし使用するタイプが存在する。

 こういったチートMODは、FDVR環境が普及してすぐに違法開発者や違法業者がでた。


 それに対する日本の行政の対策が、VRを対象に問題を解決する機関の設立。

 総務省にある情報流通行政局 情報流通振興課 情報犯罪対策室 仮想現実管理課、通称"VRCD"の設立。

 VRCDは、Virtual(バーチャル) Reality(リアリティ) Custodian(カストディアン) Division(ディビジョン)の略である。

 各正規非正規のタイトルの常時パトロールや内部捜査、外部捜査による摘発を活動目的としている。

 過去には非正規タイトルの違法MODを対象に開発業者や販売元をVRサイバー犯罪として摘発し、その結果警察庁サイバー犯罪(ハイテク犯罪)対策課が逮捕したこともある。



 男がカイトのトレンチコートを剥ぎ取り胸を掴む。その瞬間に彼女は体を痙攣させて腰を抜かした。


「ほれ、ほれ、ほれ、見ろコレ!こいつの体は常にMODで最高の快楽を受けてしまうんだぜ~」


 本来仮想現実には性的な感覚は再現されない。しかし、世の中というものは人の理想の塊で、人の欲望の塊でもある。

 それは男という性別の中で、一部の愚かな者の欲望から作られた創作物。

 仮想現実に求められた異世界や冒険といったものとは違う。


 アニメのキャラクターなどを3Dスキャナーで取り込み、仮想現実でアバターとして再現。中に風俗の女性をログインさせて行為が行われることも少なくはない。

 男女が共に"そういったアバターに"というのも一部ではあることだ。

 "仮想世界でなら何でも何にでも――――"

 そんな夢を懐いた"開発者の思惑"とは違う側面もFDVR環境は作り出せてしまうのだ。



 ヤトは左手で剣を装備すると男に斬りかかった。が、街中でプレイヤーを相手にダメージは通らない。

 男は衝撃だけ受けて体を仰け反らせた。

 カイトの体を抱き上げて首のMODアイテムを外そうとするが、それは耐久度も無ければコード権限を持っていない者では外せない物だ。


「どうしてもっと早く言わない!」

 ヤトの言葉にカイトは荒く息を吐きながら答える。


「ごめん、巻き込みたくなかったんだ。これは、チートアイテム…誰にも外せない。このゲームであいつに会った瞬間から…ぁ、ボクはあいつの物なんだよ。誰にも助け出せない。ヤト…キミでもね」

 外れないそれを引っ張るヤト。

 カイトはその手を握って言う。


「コレを付けられているのはボクだけじゃない…あいつのホームには数人女の子が捕まっているんだ。…ボクはなんとかあの子たちを助けようと――」


「喋るな。俺が何とかして――」

 その瞬間、衝撃でヤトの体は2mほど吹き飛んだ。街中で攻撃して相手を吹き飛ばすのはヤトの特権ではない。

 周りのプレイヤーが騒ぎに気がついて集まってきたからか、男は焦ってカイトを転移ポートへ連れて行く。


「くそ!こっちに来い!」


 男に連れられたカイトは、ぐったりとしていてそのまま転移ポートへと消えた。


 吹き飛ばされたヤトを駆け寄ったプレイヤーが助け起こそうとしたが、彼は寝たままの体勢で地面を殴りつけ、その衝撃で立ち上がる。

 いつもにも増して鋭い目付きで転移ポートを睨みつけると、二人を追いかけるように青いエフェクトに包まれて消えていった。


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