16 KAITO
「もしかして、ラグってる?」
カイトの言葉にヤトは思わず反射的に、「そんなわけねーだろ」とぶっきら棒に返事をした。
「あーよかった。この世界から強制ログアウトしたら頭が無くなっちゃうよ」
カイトと会うときは常に同じアバターだったヤトは今その答え合わせをしようとする。
「…カイト、お前なのか?」
「なんだいヤト。ボクをカイトと呼んでおきながらまだ確信が持てないのかい?」
「どうして俺だと分かった?それにその姿――」
「あーこれ、これは……現実のボクの体を3Dスキャナーで取り込んだ仮想現実のボクかな」
短い髪をフワッとかき上げたカイトは「イケメンだろ?」と言って見せた。
「さっき女の子がヤトって名前を呼んでたからね…もしかするとって――」
それを聞いたヤトは、なるほどと肯いてカイトを一瞥する。
「……お前、女だったのか――」
「傷つくな~ボクは女だよ。性別上はね。むしろ、現実ではね。でもね、この仮想現実では常に男として振舞っていたよ。このBCOに囚われるまで――」
カイトはナナのように正月イベントの格好はしていない。長剣を腰に、白いマフラーの下に白のトレンチコート。
足元にミリタリー装備のロングブーツ、スカートではなくホットパンツを穿いている様子だった。と言うのも白のトレンチコートで隠れていて、一瞬まるで穿いてないとを思わせる。
「ちゃんと穿いてるよ。ほらね」
「見せ付けなくても分かっていたさ……にしても、驚きだな…てっきり男だとばかり………」
「……色々とあってね。複雑な事情さ。今日までボクがどうしていたか、聞きたいかい?」
「いいや、それよりこの街にいるってことは攻略を考えているってことか?」
「ねーヤト。ヤトは時々他人に興味を持った方がいいよ。でないと無意識に人を傷つけてしまうから」
「なんだ、皮肉か?今お前のことに興味を示しただろ」
「違うよ。"こんな可愛い女の子が、どうして男の振りなんてしてたんだろうか?"そんな疑問は湧いてこないかい?」
「………いいや、それに関してはお前の事情だろ?立ち入っていい問題でもないだろうに」
その言葉にカイトは溜め息を吐く。
「はぁ~だめだねヤト。一つ教えておいてあげるよ。現実と仮想現実の共通点を――」
カイトはヤトに顔を寄せると耳元で呟く。
「女の子が"聞きたいか"と尋ねた時は、男は"黙って肯く"のが一番いい接し方ってことさ」
カイトの言葉にヤトは眉を顰めてコクリと肯いた。
その後、カイトはヤトを連れてイベントの間に開かれている神社エリアで、初詣やおみくじをする間"ながら"会話をした。
ボクはね、子どもの頃から好きになる人が女の子だったんだ。
綺麗な女の子、可愛い女の子、柔らかい女の子。
小学生の時には男の子に告白されるくらいにはボクは可愛くてさ、でもボクは女の子が好きだから男の子は全員断っていたんだ。
でもさ、そんなことを繰り返していると他の女の子からしたら、ボクって"○○くんを振った女"ってことになるんだよね。
ボクが好きだった女の子もボクのこと嫌いになるわけさ。
いつの間にか女の子の間で仲間はずれにされて、ボクとしては仲良くしたかったんだけどね。
そして、ボクが出合ったのが当時姉が使っていたFDVRという仮想現実だった。
アバターを男にすれば女の子と仲良くなれた。ボクは仮想現実の世界で友達も好きな人も作ることができた。
けど、仮想現実の関係性は恐ろしく脆かった。儚かったと言ってもいい。
次から次に周囲は新しい世界を求めて今の世界を捨てて行く。
ボクは何度か関係性を作っては崩壊し、作っては崩壊しを繰り返した。
そして、それに疲れたボクはある時キミにであった。
違法なシステムに支配されていたあのVRMMOの世界で。
海外経由のサーバー。仮想現実でアバターを狩りまくるプレイヤー。狩られたプレイヤーはストックしておいたアバターをコンバートして別のプレイヤーのアバターを奪い合ったあの世界。
ボクはそんな世界でヤトに会った。アバターを狩るプレイヤーを狩って、"元のプレイヤーに返す"というその世界で最も無意味な行動をしていたプレイヤー。
ヤトに初めて話しかけた時、ボクは「どうしてキミはそんなことをしているのかな」と言ったんだ。
それに対してヤトは"無視"をした。次に話しかけた時は、「キミは強いねボクとフレンドにならないかい?」だったかな。
またしても"無視"するヤトに関心を持ってもらうためにしたことが、「問題です!」とクイズを出すことだった。
"現実と仮想現実はどちらが本物でしょうか!"その言葉に足を止めたヤトは即答で答えた。
ボクに笑みを浮かべたヤトは、「キミはこの世界が好きかい?ボクは好きだよ」って。
「話が脱線しているようだが――」
ヤトのその言葉にアメリカンドックの周りだけ食べて中身を銜えるカイトは、素早く租借して飲み込む。
「脱線?なんのことかな?」
とぼけるカイトに食べかけの元アメリカンドック、今は串刺しのソーセージを突き出されたヤトはそれを食べてから言う。
「昔話に変わっているだろう。俺とお前が出会った話を俺にしてどうする」
「でも、これでボクが本物のカイトだって確信が持てたよね」
「……確かに、俺の目の前にいる美人な女がカイトだと理解した」
「そうだよ、ボクの顔凄く美人だろ?ボクもこんな子とイチャイチャしたんだよ」
「………一ついいか」
「はぁ~なんだいヤト」
「お前は同性愛者でいいんだよな」
「ん~ん……どうだろう?正直まだ分からないかも」
「それは…面倒だな」
「ちょっと、キミが"面倒くさい"って言ってどうするんだい」
「だってそうだろ?誰かしらにお前に気があるとか言われた場合にどう対応したらいいか分からないだろ」
その言葉にカイトは腹を抱えて笑った。
「キミにそんなことを聞いてくる友達がいるのかい?」
「……(失礼な)……1人ぐらいは――」
「へーそれは紹介してほしいね」
その後もカイトは、笑い楽しみながらヤトと神社を回って、それから彼の誘いでBJたちの新年会に参加するために始まりし街に移動した。
始まりし街では正月アイテム羽子板や凧などで遊ぶプレイヤーも多く、街中は人とNPCで一杯だった。
ヤトはカイトを連れてきたものの、BJたちがどこにいるのか分からずに転移ポートで待ち合わせた。
迎えに来たBJがカイトを見て、「お前も隅に置けねーな」と言うがヤトは首を傾げる。
その後、ギルド"ファミリア"のホームに入ったヤトは何故かマリシャに捕まる。
「久しぶりだね~ヤト~!ね~ね~私さーもうメッセを送るの治ったから…ブロック解除してもいいと思うん・だ・け・ど~ちら様?」
笑顔なのに声が低いマリシャに何故か詰め寄られるヤト。
「おいおいマリシャちゃん。その子カイトちゃんって言ってヤトの友達なんだとさ」
BJがそう言うとマリシャはカイトを上から下へ、下から上へ視線を動かしていく。
そんなマリシャにカイトが満面の笑みで挨拶をすると、マリシャはカイトを連れて行こうとする。
女の子同士で話がしたい、と言ったマリシャは挨拶も程ほどに、その場を後にギルドホーム内の個室へカイトを連れ込む。
BJの「女の子同士で何するんだろうな」の言葉に、ヤトが「話だって言ってたろ」と言うとBJはいやらしい笑みを返した。




